堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
162.Perfect Body (挿絵あり)
追い掛けて来た善悪が不満そうに口に出した。
「僕ちんを止めて置いてずるいのでござる! 次は僕ちんが良い所を見せるでござるよ? りょっ? 」
いつに無く強固な善悪の希望にコユキも頷かざるを得なかった、ゆえにこう答えたのであった。
「りょっ!! 」
その言葉を待っていたかのように、左手に広がる森林から、数多の悪意が気配として、いや、もう姿も露に登場してしまったのであった。
グルルッルルルゥ!
そこに居た、いや、その木陰から一気に走り出てきた魔物達は、牛の様な、山羊の様な、鶏の様な、蜥蜴の様な、猫の様な、それぞれ異形の化け物の群れであった。
周囲が濃密な魔力に包まれる。
対して、我等が『聖女と愉快な仲間たち』のリーダーたる善悪は、何故かハッとした表情を浮かべると、次の瞬間には突如両の瞳から流れ出た涙を拭い、静かに闘気を高めつつ、自身の首から提げた二振りの念珠を左右の手に握り込みながら、口を開いた。
「ここは、拙者達に任せるでござる! コユキ殿! 皆も力を温存するでござるよ! 」
そう言いながら、下位悪魔の群れの中に身を躍らせていくのであった。
驚く事に、気を念珠、アフラ・マズダとアンラ・マンユに込めた善悪の姿は、本気になったコユキ同様、筋肉バリバリ、体脂肪率テンパー以下のムキムキマッチョだったのであった。
「えっ! えっ? ん、むお、キャアァ♪ 」
思わずコユキが声に出してはしゃいでしまったのも無理は無い!
それ程、今戦いに身を置いた善悪の姿は、ああ、そうね……
しょうがないっ! 美しかったのである!(※あくまでも二人の孫の個人的な感想です)
くっ! おじいちゃん格好良いぜ!
そんな私の声は当然届く事も無く、我が爺は戦いの中に身を置く事に一切の躊躇も無いようだ、くっ! 死ぬなよ! 爺っ!
そんな私の心配など、まるで無用とばかりに悪魔たちを殴り潰していくお爺ちゃん!
幸福善悪の戦闘力は凡百のそれとは一線を画していたのである。
長き月日を、妄想の中の敵と戦い続けてきた、通信教育のみで完成した格闘家は、思った以上に強かったのであった!
振るうフックは一撃で敵たる悪魔の頭部を、いっぺんに数体以上を砕き散らし、振るった蹴りは周辺に群がる化け物達の四肢を引き千切るのであった。
鍛えぬいた貫手で、抉り取った化け物の内腑に一瞥もくれず、次に迫った異形の顔面を叩き割って尚、微笑を保つその姿には、神々しいほどの威容を認めざるを得なかった。
「まだ、まだぁ! 喰らわせろぉ! 命を、よぉこぉせぇっ!! 」
うん、はっきり言おう! 幸福善悪は、化け物と化していた……
何か今も、
「ぐへらぁ、ぐへらぁ! 来いぃ! もぁっとっ! くおぉいぃ! 」
とか、返り血塗れで叫んでいた…… くっ、残念至極……!
これ、お坊さんなの? なんか思っていたのと違うんだけど……
見た目は紛れも無く『美坊主』であったが、生まれて初めてであろう、自分の力、暴力に酔いしれる善悪の心は、最早、正常な人間と呼べる物ではなかった。
分かり易く言うと、普段大人しくてからかわれたりしている少年が、初めて手にしたエアガンで、罪の無い野生動物を撃ち捲り続ける様な、胸糞悪い自己陶酔、俺ツエ──! 楽しい! と笑いながら叫ぶ様な、歪な愉悦に満たされていたのであった。
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