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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
224.向かうべき場所 (挿絵あり)

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 地上に戻った一行は大急ぎで富士宮口富士山新五合目駐車場へと戻ってくると、休む間も無く善悪の軽バンに乗り込んで目的の場所へと走り出すのであった。

 速度違反にならないように、ギリギリまでコーナーを攻める善悪のステアリング操作も、いつも以上の冴えを見せている。
 出来るだけ信号や一旦停止ポイントを避け、時に道幅の狭い林道を爆走しながら、神経をすり減らすような運転を続けること数十分、遂に目的地に到着するのであった。


「おい、なんだよあの二人、人間じゃねーな! 」

「凄いわね、テレビに出てる大食いの人なのかしら? 」

 ワーワーキャッキャッと大騒ぎする黒山の人集りだかりが出来ているのは、高原の風も爽やかな大型駐車場に面したオープンテラス。
 ここはトロイの木馬かと見紛うみまごう程の巨大な馬のオブジェでお馴染みの、朝霧高原でも最大級のドライブインレストランもち○である。

 併設された店内飲食タイプのレストランの麺類や定食も美味しい事で評判だが、ここの魅力はそれだけでは無い。
 テイクアウト形式のお店では、スイーツや軽食など多種多様な食事をピクニック気分で楽しむ事が出来る。
 なかでも店名に偽り無く、お餅を使ったメニューは豊富なだけでなく、味も一般のそれとは一線を画する物であり、ここでお餅の美味さを改めて知る事が出来た! と感動してしまうお客さんも少なく無いとか。

 そんな知る人ぞ知る高原のグルメスポットにコユキと善悪の二人はいた。
 それも人々が歓喜の声を上げキラキラとした目で見つめる話題の中心、屋外テーブルに向き合って座っていたのである。

「善悪! 富士宮焼きそば四人前追加ね! あと、草大福と磯辺餅、黄粉きなこ餅とオロシ餅もあるだけ買ってきて頂戴! 」

「りょ! ん? んん? あんころ餅は良いのでござるか? 」

コユキは目の前の食材を胃の中へ送り続けていた手を止め、はっとした顔で善悪に答える。

「危なかったわ…… ありがと善悪、勿論あんころ餅もあるだけ買って来てねん! よろ! 」

「はいはい、ちとお待ちを~! 」

人ごみを掻き分ける行いも密を避ける上では決して褒められた行為では無いと考えた善悪は、観衆の目の前で足を止めて丁寧に口頭でお願いするのであった。

「皆さんっ! 追加注文をさせて頂きたいのでござるっ! 申し訳ござらぬが、通り道を空けて欲しいのでござるっ! 」

そう言ってから、深々と頭を下げる善悪、ソーシャルディスタンスを守り感染拡大を防ぐ為に、大声で飛沫を撒き散らせた後で堂々と人々の中を歩いて行く善悪、利口だ。

 お餅が届くまでの間、味変用に頼んでおいたとろろ蕎麦を勢い良く啜りすすり見事なヌーハラを披露していたコユキの耳に信じられない声が届いた。

「コユキ殿! 残念でござるが、注文できなかった、でござる…… くっ、む、無念! 」

さっきの気遣いはどこへやら、かなり慌てていたのだろう、人波を押しのけるようにして戻って来た善悪が一大事を告げたのであった。

 その声に最初に反応したのは大メシ喰らいのコユキではなく、周囲を埋め尽くしたオーディエンスの皆さんであったのだ。
 オーディエンス、観客、最近では広告の受け手、視聴者を指す言葉として良く使われるようだ、そう言う意味ではここで声を上げた人々は正確には『パトロン』しくは『スポンサー』の方がより的確だろうか。
 実際声を大にしてドライブインに非難の声を上げている彼等彼女等は『出資者』でもあったのだ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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