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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
508.アムリタ

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 コユキの言葉に満足そうに頷いたバアルは一同に話し掛けた。

「そうだねコユキ姉様の正解だよ、わらわら悪魔や精霊は自分と親和性の高い人物の遺骸や属性に近い感情に支配されている生き物を依り代にして、肉体というより記憶と精神の永続性、言ってみれば永遠の命を享受しているんだよ、という事は当然依り代の性格に引っ張られて元々の純粋性は失われる事になる訳なんだけど…… カルラ?」

 言葉を振られたカルラは羽の中から乳白色の液体が入った小瓶を取り出して、目の前にいるメンバーに見せながら言うのであった。

「今現在の性格、価値観、記憶、それらを純粋に残したままで永遠の存在になる事が出来る唯一のアイテムが、この『アムリタ』なのです」

 ゴクリッ!

 皆が喉を鳴らす中、カルラは説明を続けた。

「これは、最古の神々がアスラと協力して作り上げた物ですが、神々がお飲みになった後、アスラが飲んでしまわない様に私が略奪し、以来護り続けて来た物です、ですのでこれまで、運命神と呼ばれる五人の古代神と、そこにいるシヴァの妻であるカーリー神、この六柱以外は口にしていない神薬、西洋ではエリクサーと呼ばれる物です」

「運命神、オハバリ様のことね?」

 コユキの問い掛けにカルラは美しい人間、女性の顔を頷かせて答えた。

 善悪は首を傾げながら呟くのであった。

「アスラ? ってアジ・ダハーカの阿修羅明王あしゅらみょうおうの事でござろうか?」

 これに答えたのはアスタロトであった。

「アスラは『非生』、邪悪な物だな、阿修羅明王はそれら邪悪を一人で倒せるほどの力を持つ神って意味だから全然違うぞ、善悪」

「へーそうなのでござるかー、ん『非生』? 生きていないって事なのでござるか?」

 善悪の再びの呟きに答えたのはバアルであった、何故だか嬉しそうな笑顔であった。

「生きてないでは無くて、生き続けられないって事だよ兄様、つまり、人間を始めとした全ての生き物、それがアスラ、『悪』という事なんだよ」

「悪? 人間やその他の生物、生きとし生ける物って、『悪』なの?」

 そんな馬鹿な、そう言わんばかりに言葉を発したリエにスカンダが答える。

「そうではないよリエちゃ、一切衆生いっさいしゅじょうを悪だと断じている訳では無いんだよ、過去に生物が何か罪を犯したとか前世や過去世で悪い事をしたなんて話ではないよ…… 只ね、人間も生き物たちも無知ゆえに他の生命をないがしろにしてしまう事がある事は理解できるんじゃないかい? 自分たちの種族にとって危険だったり不愉快に感じる生物を躊躇なく排除するだろう? 猛獣だったり、毒虫だったり、雑草だったり、ばい菌だったりね、そういう悪気無く他の種に対して行う行為を『悪』と呼んでいるんだよ、分かるかい?」

「なるほど、そういう事なのか、分かった気がするよ、お地蔵様」

 このやり取りを聞いたバアルが補足するように言葉を続ける。

「それにねリエちゃん、そもそも妾達悪魔が神々と呼ばれていた時に、地域地域の実情や生活様式に合わせて信徒たちに守らせていた戒律には、人間達が意味を理解出来なかったとしても、間違いを犯してしまわない様に、『悪』にならない為に設けられている決まりがほとんどだったんだよ? これは洋の東西、土地の南北に係らず、どの悪魔も神々も同じだったんだけど…… いつの間にか殆どの宗教が人間達の勝手な解釈や、都合の良い捉え方に置き換えられてしまったんだけどね、ははは、かつての神々も今では悪魔さっ、驚く事に自分たちの信仰の神まで気に入らなければ偽神ぎしんや悪魔呼ばわりだよ? どうしようもないね、ははは」

 珍しく自虐的な笑みを浮かべるバアルの言葉に、この場に集まった人間は気まずそうに目を伏せ、反して悪魔や魔物たちは自嘲気味な笑顔を返すのであった。

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