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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
133.エナジーチャージ (挿絵あり)

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 気が付けば暴力的な鐘の音の奔流ほんりゅうの中、善悪は頭を抱えて号泣し始め、コユキも耳を塞いだ状態で必死に自我を保っていた。

「ソレ! マリョク、デテルヨ!」

「「「本当だ」」」

 言われてコユキが自分の体を見ると、全身を包み込むように銀色の光りがまとわり付いている事がわかった。
 更に胸の下辺りに意識を置きながら、動かそうと考えると動かせる事も分かった。
 コユキは不思議そうに銀色の光りを右手のてのひらに集めてから、一瞬で左へ移し、その後、額に移動させてパアァと輝かしてから口にした。

「どう? 光ってる? 善悪みたい?」

 コユキの問いに、ソフビ四人組みが、そっくりだとか、つるつるですよだとか、カッコイイだとか、ハゲまされますだとか適当におべんちゃらを言っていた。
 そこにギリ正気に戻った善悪が合流し、コユキの後ろに立つと、背中に手を当ててから言った。

「では、両手にかぎ棒を握って、聖魔力を送り込んでみるのでござる、今回は使った魔力を拙者が補填ほてんするでござるよ」

 コユキは念の為に善悪に聞いた。

「両手に同じ位送るって事で良いのかな?」

 善悪は淡々と答えた。

「手じゃなくて、かぎ棒へ、でござるよ、と言うよりその神聖銀の方が掌より何倍も、聖魔力が流れ易くなっているのでござるよ」

 そうまで言うのなら試してみようと、コユキはかぎ棒を自分の体の一部だと思う事にして、一気に銀色の光りを集めるようにイメージした。

 直後、

「おわあぁ、な、何よ、これぇ!」

コユキの驚きの声が響き渡った。

 驚いたのも無理は無い、コユキが手にしたかぎ棒は五十センチ位の長さに伸び、太さも日本の誇り、ナオミちゃんが、いつもコートに叩きつけるラケットのグリップ位になっていたのだから……
 更に、かぎ棒の周囲には、なにやら神々しい銀色の光りの球体がハラハラと散り続けていて、ちょっと幻想的でもあった。

「うわあぁ、こいつは、凄いわねぇ」

 感心一入ひとしおのコユキの背中から手を離した善悪が、本堂の床に腰を下ろして疲れたように溜め息を吐いた。

「フイィー、くたびれたでござるぅ、やっぱり出力量がダンチでござるな…… まるでマスタング、それもマッハⅠでござるな」

「え、どう言う事?」

振り返って訪ねるコユキに、善悪は慌てて声を掛ける。

「ああ、兎に角、一旦聖魔力を送るのをやめるでござるよ、そのままだとカラカラになってしまうのでござる」

 鬼気迫った声を聞いて、直ちに聖魔力を止めると、かぎ棒はゆっくりと時間を掛けながら元のサイズに戻っていった。
 それを確認してから、善悪はやっといつもと違い重かった口を開くのであった。

「あんな勢いで聖魔力を使ったら、普通の人間だったら、あっと言う間にミイラでござるよ? ミルラ! 分かるでござるか? マミーねマミー」

「マミーねぇ、そうなると結局どうなっちゃうの?」

「え、死ぬけど」

「は? し、死ぬの?」

「うん、そうでござるよ」

 にわかには信じる事が出来ず、回りのちっちゃい四人組みの方を見ると、皆当然の様に頷いている。
 死ぬかもしれない事を、いや確実に死ぬ事を、この五人は当たり前の様にやっていると言うのだ、なんてドMなやつ等であろうか。
 
 呆れているコユキに善悪が話を続けてきた。

「まあ、コユキ殿の場合、そもそもの分母が大きいから、さっきみたいに馬鹿みたいな出力を出せるのでござろうが、エネルギー切れに例外はござらぬ。 いざという時に困らぬ様に、頑張ってエナジーチャージを心掛けるのでござるよ」

 真剣な表情から、善悪が至極真面目に言っている事を理解したコユキも又、真顔になって善悪に聞くのであった。

「ね、ねえ、エナジーチャージって具体的にはどうすれば良いの? エネルギーって良く分かんないんだけど…… あ、あと、次馬鹿みたいって言ったら殺すからね」

 善悪はいささか呆れた様な表情になって答えた。

「えー、エナジーチャージは食べれば良いのでござるよ、エネルギーは、ほれ、コユキ殿を覆い尽くしたその脂肪でござるよ、何時もいつも言っているでござろ?」

 言われてみれば、コユキにも得心がいく話しであった。

 善悪はこの一件が勃発してから今日まで、事有る毎に『食べろ』だとか『油分が足りない』だとか言い続けていたし、最近はことに食え食え発言が増えていた気がする。
 しかし、そう言う理屈が有ったのならば、普通こちらサイドに説明が有って然るしかるべきであろうに、この坊主はそれを端折はしょって悪びれた様子も見せていない。

 コユキは溜め息を吐きながら心底思うのであった。

 ――――坊主としては立派な方らしいけど、一度も普通の会社で働いた事の無い人間てこう言う所あるのよね、全く嘆かわしい事この上ないわ

 幼馴染として悲嘆に暮れる、職歴皆無のニートコユキ三十九歳の夏であった。
 残暑は未だ元気一杯で列島を熱し続け、ここからの熱く厳しい戦いを暗示しているかの様であった。


拙作をお読みいただきありがとうございました!


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