【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
602.#フィギュアに踊らせてみた
暫くして幸福寺を訪問したお巡りさんの民生衛と、コンビニ店員である馬糸信也は揃って息を呑むのであった。
こんな田舎町には凡そ相応しくない、幸福寺の異常な賑わいを目にしたからである。
割と広めの境内や墓地、本堂の前にはコロナ禍だと言うのに、人々が群れ集まっているのであった。
総数は数千に及ぶであろう。
民生が呟いた。
「噂には聞き及んでいましたが、ま、まさかこれ程ですとは、慮外の事であります」
信也も続いた。
「こりゃバズったなぁ? 大盛況じゃ無いかぁ! ね、あれだよね、あの動画だよね? フィギュアに踊らせてみたって奴ぅ? あれ物凄かったもんなぁ」
民生が言う。
「ああ、あれは本官も見たよ、クレイアニメにしては滑らか過ぎて、何度も再生し直して見直しっちゃったもんなぁー、それにしても、ふぅぅーこれ程のバズリとは、いやはや凄いね、現代の風潮ってぇ」
人の波を押しのけて本堂の直前まで進んだコユキは、室内に向けてやや大きな声で言う。
「おぉーいぃー! お巡りさん、民生さんと、コンビニ店員で早口の達人、馬糸さんを連れて来たわよぉ! 善悪ぅ、アスタぁ! バアルちゃんっ! 出て来て説明手伝って頂戴よぉー!」
コユキの呼び声に答えて、本堂に設えられた広縁に登場した善悪とアスタロト、バアルの三人はニヤリとした笑みを浮かべていた。
代表者っぽい善悪が言う。
「おお、これはこれは民生巡査ではござらぬか? ようこそ幸福寺へ、ささっ、さささっ! こちらにお上がりあれぇっ!」
「善悪っ! この人間はタミオと言うのか? ふーん、悪魔っぽい名前だなぁ、まあ、良い、上がれっ! 民生とやら」
「兄様、こいつを説得すれば地上、現世の警備兵達に魔法を広める事が叶うんだよね? でしょでしょ? よーし頑張っちゃうかなぁ! おいタミオっ! お前に魔法を教えてやろうっ! 逆らったら殺してやるんだからな、アスタが! 素直に聞いて置けよっ!」
民生衛、静岡県警の地域課で職務を全うして来たお巡りさんは、まだマトモそうな善悪に向けて言ったのであった。
「お、和尚さん、この人達は一体誰ですか? 弟さんとか姪御さんとかでしょうか? 前回に訪れた際の世帯調査には記入して居られなかったですよね? この大男さんも幼女の事も…… 一体誰ですか?」
コユキが胸を張り捲って言う。
「ふふん、聞いて驚いてよ、この二メートル位の大男はアスタロト、ちっちゃい方の可愛いのがバアルよ! 二人とも、おっと、二柱ともアタシと善悪の最愛の弟と妹なのよ、揃って悪魔、ううん、魔王の上位種、魔神なのよ! どう? 格好良いでしょう?」
格好良い、そのコユキの言葉が嬉しかったのか、アスタロトは額の第三の瞳をクワッと開き民生巡査をジーっと見つめ、幼女の見た目のバアルは濃い目の灰色のオーラを周囲に溢れさせるのであった。
「あ、あうっ」
言葉を失う民生衛を庇うように善悪が間に入る形になって言った。
「これこれ、お巡りさんを脅かしたりしたらダメでござるよ! ねえ、皆、まずはお茶でござるよ、お茶ーぁ! 後、御茶うけを持って来てぇー、でござるぅ! お二人様ぁ分ねぇ、でござるぅっ!」
この声に答えたスプラタ・マンユとアフラ・マズダの十四柱、所謂ソフビ十四柱がお茶やお菓子、静岡県なら当たり前の御茶うけ、漬物の類を手に手に自立歩行をしながら歩いて来る。
巡査、民生は馬鹿の子みたいな声を出した。
「い、生きているの、か…… あうあうあうぅ」
横にならんだ馬糸は民生に縋った。
「お、お、お、おおおおお巡りさんっ! これ? これ! これれれれれって何なんですかぁ?」
「わ、分からんよぉー、あうあうあうあうぅぅっ!」
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