【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
680.イノベーション
思わず叫ぶように口にした結城昭にコユキはニヤリとした顔を浮かべて答える、当然っ! そんな風情である。
「ったり前じゃない結城さん! だってアタシってば、既に死んでるのよ? 眠らない位じゃ死なないでしょ? 魔神王ルキフェルなんだからさっ! 色々やらなかったら勿体無いじゃないのよぉ! 卒業した短大にも九月から四年制に編入するしね、その後は院にも行くわよぉ! 目指せ博士よぉ! それに夜なべ仕事ってね! 最近は造作の仕事をやっているんだけどね、コレが面白いっ! だけじゃなくて儲かるのよ? 百円均一で売ってる造花一本で二円貰えるんだけど、一晩眠らなければ四百本位作れるのよ、八百円よ? 凄いでしょ? それ以外にも封筒張りの仕事とかね、簡単だし一晩千枚位出来るから、一つ五十銭で五百円になるのよ? 凄くない? 一年寝ないでやればこれでも十八万以上なのよ! 造作って儲かるのねぇー、そりゃ人々があんた等みたいなクリエイターに憧れる筈だわねー、実践して初めて感心したわぁ、寝なければ良いだけだもんねぇー、でしょ?」
割と寝ている、と言うか、一ヶ月位頑張れば百万ちょっとの造形物を作っている悠亜は気まずそうに答える。
「え、ええぇ、そうですよねぇ、お、お姉さん……」
結城昭はもっと効率的に利益を出す為に心を砕くメーカーの幹部である。
「え、あの、あれですよね、えっとぉ……………………」
言える言葉は無かったらしい。
コユキは言葉を続けた。
「それに最近は料理? も始めたのよねぇー、知ってるかな皆? フリカケとか混ぜご飯の素とかぁ?」
悠亜が反射的に答える。
「ええ、知っているよコユキ姉さん、それがどうしたの?」
コユキは多少残念そうな表情を浮かべて答える。
「そっかぁ、悠亜ちゃんは知っているかもだねぇー、男共に教えてあげようと思ったんだけどねぇー! お米を研げればそれだけで何杯でもイケる超絶料理が作れるっ! ってね、フリカケと混ぜご飯や釜飯の素が有ればってさっ! でしょ? 悠亜ちゃん?」
「え? いや別に素とか無くても、お醤油と味醂、後は季節毎の旬な物が有れば簡単に――――」
「悠亜っ!」
いつに無く厳し目な結城昭の声に口を噤んだ悠亜であった。
『申し訳ないのでござる、何分料理どころかピーナッツバターすら満足に塗れない始末でござるゆえ…… 本人が喜んでいるので何卒話を合わせて欲しいのでござる、ごめんね』
コユキ以外の面々に送ったであろう善悪の『存在の絆』通信に無言で頷く結城夫妻と光影。
その間にもコユキは自慢気に独自の料理論を続けていたのであった。
「――――んで、しっかり湯煎した袋を取り出してね、中身をご飯に掛けるでしょ、これでカレーが出来ちゃうのよ? 家庭科とかでやったみたいな下拵えとか炒めるとか煮込むとか一切無しで! 凄いでしょ? 悠亜ちゃん、知ってた、どう?」
『ゴメンでござる……』
「え、えー、嘘でしょー、そんなに簡単にか、カレーがぁ? 魔法みたいぃ! 悠亜ビックリ仰天ー!」
『サンクス』
ややワザとらしかった気もするが、当のコユキは満足げな笑顔を浮かべて話を続けた。
「じゃあこれは知ってる? なんとビックリ、水を入れて放っておくとご飯が出来る、人呼んでアルファル化米よ! 各種混ぜご飯や炊き込み的な物だけに留まらず、ドライカレーからナシゴレン、ビリヤニまでっ! 人類は既に煮炊きを必要としなくなったのよ! 脱土器よ、脱土器! 進化したのよっ!」
「え、ええ、そうですかぁ……」
どうやらコユキの知性では、乾燥処理をする前に誰かが煮炊きしてくれているとは思いもしない様である、縄文人や弥生人に謝って頂きたいものだ。
拙作をお読みいただきありがとうございました!
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