【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
386.リエ、キレてますっ
数日後の夕方、庫裏の居間に集合した人型と小さな人形の主要メンバーはだらだらしながらコユキを見つめていたのであった…… 責め捲る眼で、である。
リエが口火を切った。
「ねえ、ユキ姉ぇ? 大きな口叩いた割に、はあぁ~、ここんとこ持ってきたのがこの微妙ぅなアーティファクトばっかりなんでしょ? どうすんのこれ?」
リョウコも言う。
「この遠征の為に家もリエちゃんの所も結構お金払ってるんだよぉ~? 幸福寺じゃぁもうこれ以上出せないって言ったからさぁ、よしおちゃんがさぁ~、お金は良いよ、お金はねぇ? でもさぁ、計画の甘さとかぁ、パーティーリーダーの、何だっけぇ、あっ、責任問題とか? 追求必至ってぇ、状況だよねぇ? リエちゃん?」
「そうだね、仕方ない状況だよね! んでよしおちゃん! この不始末どうすんの? これ以上成果に繋がらない出資が続くようなら、我々としては不首尾に終わった際に代表たるよしおちゃんが担保として何を確約してくれるかどうかって所に今後の資金援助の可否が問われている訳なんだけどねぇ~! どうっ!」
善悪が小さく縮こまりながらに言う、弱々しい声だ。
「どうって、言われちゃっても…… 担保とか…… ど、どうすれば…… 良いのでござるか…… リエちゃん?」
ニヤリ、リエの表情にしてやったりの色が浮かんだ。
リエは柔和な笑顔を浮かべて言うのであった。
「そうねぇ、例えば次の融資に見合わない結果だった場合にねぇ~、茶糖家で厄介払いしたい人を一人、
幸福寺で面倒見て貰うとかってのはどうかねぇ? そんな担保を約束してくれるならさぁ、もうちょっと支援してあげても良いよぉ? ね、リョーちゃん?」
リョウコも分かり易く大仰に頷く。
善悪は心中で考えるのであった。
――――むうぅ、多分厄介払いって、ツミ子さんのことでござろうな…… 酷い、可哀そうでござる…… んでも却ってこんな針の筵よりは当寺に招いた方が今後の生活は気安い物になるかも知れないのでござる…… よし、受け入れるか…… 後はコユキちゃんがどう思っているかでござるが……
善悪が横目でチラリと隣のコユキを見ると、その視線に合わせるように自信満々で頷くコユキの姿が目に映るのであった。
善悪は言った、自信満々に!
「分かったでござる! その担保で更なる援助を請いたい! 結果が出ない場合は茶糖の家から一人お寺で引き受ける! 約束するのでござるよ!」
大きな声で約束する善悪の前には、互いの手を取り合いながら、キャッキャッキャッキャッとはしゃぎ合う、見た目の良い姉妹の姿があるのであった。
何やらやり遂げた感を前面にだしつつ、満足げな美人姉妹は当座の資金を善悪へ渡すと満足げな足取りで彼女たちの実家、茶糖家へと帰っていくのであった。
「ふぅ~何とか許されたのでござる…… コユキ殿がツミ子さんが寺に来ることを快諾してくれて助かったでござるよ」
「へ? なにそれ? 叔母さんお寺に来んの? 何しに?」
「えっ? さっき僕チンが目配せした時頷いたよね?」
「ああ、あれって話が長引いてるからお腹が減ったでしょ? って問い掛けじゃなかったのね! んで叔母さんがどうしたの?」
「はぁ~、まあ、今後有用なアーティファクトを入手すればいいだけでござる! 切り替えて行くのでござるよ…… にしてもリエちゃんの切れ味が凄いのでござるな~、ピーク時のガソリーヌみたいだったでござる……」
善悪の言葉に厄介者で払われる一歩手前のコユキが自覚なく応えるのであった。
「うん、リエってね、リョウコやアタシと違って理屈で追い込むタイプなのよね、もっと大らかな女性に育って欲しかったんだけどね…… 時既に遅しね、はあぁ、一体誰に似たんだか? 口論や争いは何も生まないんだけどねぇ~ ゴメンね善悪、ショボン……」
どの口が…… まあ、いいや。
しかし私、観察者の記憶の中でも大叔母さんのリエさんは論理的思考を持った人であったのは紛う事無き真実であった。
特にこの時点で中心人物になっている幸福寺、および魔界の重鎮たちが消え失せた後の現実社会に於いては、正しくリーダーでありご意見番としてその辣腕を振るっていたものだ。
オンドレとバックルや、地上に残ることを選択したアフラ・マズダ、五柱の原初の神、後は丹波晃、秋沢明、結城昭、幸福寺オールスターズ……
彼らを率いた義勇軍のリーダー、知恵袋として、私の脳裏に沁み付いて離れない雄姿が今も尚鮮やかに蘇ってくるのである…… んまあ、脳は無いんだけどね……
話が脱線してしまったようだ、失礼した。
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