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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
512.おりん

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 理由は違うのであろうが揃って嫌そうに前に出て来た二人の内、バアルは手招きをしながらイーチに言うのであった。

「イーチイーチ! ちょっと近付いて、妾に顔近付けてみせて!」

「何です? 内緒話ですか? ふぅー、これで良いですか? って! ぎやあぁー、痛い痛い痛いぃぃー!」

 顔を近づけたイーチに向けて素早く手を差し出したバアルは笑顔で言うのであった、たった今抉り取ったイーチの眼球を手にしながら……

「はい、姉様プスッとやってあげて♪ 痛くて苦しくてとっても辛そうだから早くしてあげてね♪」

「あわわわ、イーチ君! えいやっ! プスッとな!」

「ぐああぁぁー、た、助かりますぅ!」

 ブッシュウゥゥー! コロンッ

 魔力が拡散する様に霧が噴き出して消え去るといつもの様に赤い魔核だけが血まみれの本堂に転がったのである。

「あわわ、本堂が血だらけでござるぅ! とほほほ」

「大丈夫、任せて置いてよ善悪兄様、そうだな…… ついでだからハミルカル! この血痕の横に並んでご覧、奇麗にしてあげるからさ!」

「は、はい! お手を煩わせてしまいまして恐縮です、我が神よ」

 言いながらイーチの流した血溜りの脇に立った執事服を泥で汚したハミルカルに向けてバアルは言った。

「『清浄クリンネス』」

 パアァッ!

 溢れ出した光の奔流がハミルカルと本堂の床を包み込んだ。

 やがて光が収まると血は消え失せ、ハミルカルの服からも泥だけでなく一切の汚れが除去されていたのであった。

「おお、神よ! 祝福の光でございますね! この様に美しい御光りで矮小わいしょうなる我が身をお清め下さるとは…… うううっ、有り難き光栄…… ううぅっ」

 狂信者らしい言葉である。

「ほー、これは便利でござるなぁ! 明日からお寺の掃除はバアルに頼む事にしたのでござる! 良いでござろ?」

「ふふふ、勿論だよ善悪兄様! 妾にお任せあれっ! だよ! さて、イーチ休、復活してみてくれるかな? 依り代はぁ…… うん、分かり易くあそこの『おりん』にしてみてよ」

 納得したのか、はたまた憎悪の念を向けているのかは分からなかったが、元イーチであった魔核はゴロンゴロンと転がって本堂の中心に置いてある『おりん』に近付いて行ったのである。

 この『おりん』は善悪が父親、彼曰くパパンから寺を譲られてすぐの頃、こだわって特注した銅とすず、鉛の合金製、所謂いわゆるサハリの高級おりんであった。

 勿論全て無機物である。

 魔核は巨大な『おりん』に触れた途端に姿を消したのであった。

 薄らとした光を放つ仏具に向けてバアルは話し掛ける。

「どうだい気分は? 何か妾に言いたい事があったら今のうちに言っておくといいよ♪ 後で言ったら殺すけどね、今なら好きなだけお言いよ♪」

 リーンリンリンリンリン! リンリンリーン! リーン! リンッ! リンッ! リリリリリーンッ!

 なるほど、意味は分からないがかなりのストレスを感じていたらしい、哀れだ……

 イーチの心の叫びであるリンリン音が鳴り止むとバアルは一同を見廻して言うのであった。

「どうかな? 無機物でも生きてるでしょ? そう言う事なんだよ! 分かったかな?」

 ほとんどのメンバーがコクリと頷きを返した事を確認したバアルはコユキに向けて言ったのである。

「んじゃコユキ姉様! イーチを解放してあげてくれるかな? あの『おりん』をプスッとやって欲しいんだけど……」

「んが? あんだって? あんな硬そうなのに刺さるか分かんないわよぉ! んまあ、試すだけなら良いけどさっ! よいっしょっと! えいっ! プスッとな! おおおっ! イケたわねん!」

 ブシュウゥゥーッ! コロンッ!

 噴き出した霧と共に高級品の『おりん』は消え失せ再び赤い魔核だけが本堂の中央に転がったのである。

 魔核の近くに先程抉り取ったイーチの眼球を放りながらバアルは言った、ちなみに笑顔満面である。

「ご苦労様、イーチ! ほら、これを依り代にして戻って良いよ! いい仕事をしたね♪ 妾も大満足だよ!」

 言い終わるのを待たずに眼球に向けて転がって行った魔核は、あっという間に筋骨隆々、逞しいイーチの姿に戻って行き程無く言葉を発したのである。

「すみませんが、オルクス卿、何か着せて頂けると有難いのですが…… すみません……」

 オルクスが気楽な感じで答えた。

「ホイ! コレデイイ?」

 元々の小坊主姿に戻ったイーチは深々と頭を下げたのである。

「ありがとうございます」

「ナンノ、コレシキ! ナハハ」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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