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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
626.ファインプレー

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 自分のウッカリを反省しつつコユキは善悪に問い掛けた、存在の絆を通してである。

『善悪! 大丈夫? 善悪っ! 善悪ッ!』

『う、うーん、こ、コユキちゃん…… こ、コントローラー、は?』

『生きてたのね、良かったわ! あったわよ、んでどうすんの? 一緒に入ってたお人形に何かさせれば良いのよね? 指示してちょうだい!』

『い、いいや、ボタンを、赤いボタンを、お、押すので、ござる、は、早く』

 なんと善悪は押してはいけない赤いボタン、確か押すと人々から希望が消える、とか何とか言っていたボタンを押せと言うでは無いか。

 打ち所が悪かったのだろうか? そう思ったコユキは確認を入れる、慎重派だ。

『善悪、人々から希望を奪ってどうすんのよ? 善悪? 善悪っ!』

『……』

 どうやら善悪は意識不明に陥ってしまった様である。

 コユキは激しい焦燥を浮かべた後、遥か左の前方で戦っているパズスとヒュドラに視線を移した。

 両者とも遠目に分かる程、疲れ捲っている事が察せられ、次の瞬間コユキは行動を起こしたのである。

「ええいっ、ままよっ! ポチッとなっ!」

 赤いボタンを押したが特段何も起こらない、そう思った次の瞬間、パズス、ヒュドラと赤銅の巨人、タロースとの中間の空間が裂け、タロースに引けを取らない巨大な存在が姿を現すのであった。

 コユキは大きく逞しいその背中を見つめながら呟きを漏らす。

「て、鉄人…… 緊急事態って、こ、こう言う事だったのね…… ありがとう、横っちょの山が光り輝く感じの大先生…… さてと、オーイパズスちゃーんっ! 鉄人が喰いとめてる間にオリジナルの姿に戻るのよぉーっ!」

 現れた鉄人は恐れる素振りも見せずに、無言のままタロースに肉薄し、重厚な音を響かせながらパンチを見舞っている。

 パズスはコユキに対して両手の指を頭の上で接し、マルのポーズを見せていたが、その横では既に限界を越えていたのか、ヒュドラが力なくその身を地に伏せて、所謂いわゆる『伏せ』のポーズを取っていたのである。

 何となく先程まで自分とモラクスが身を隠していた窪みに目をやったコユキは、ただ一人そこに残されたフンババが、胸を反り返して上空の一点を指し示す姿を見たのであった。

 指が差す先を視線で追ったコユキは、ゆったりと弧を描いて自分がいる塹壕を飛び越えて行く、二個の青柿を発見したのである。

 青柿の一つは善悪の頭にコツリと当たり、もう一つは倒れ込んで動かないモラクスの頭をも狙いを過たずコツリとやるのであった。

「む、むむ、ってアレエェー!」

「はっ、ここは? ウワアァァーッ!」

 優しげなその衝撃に意識を取り戻した善悪とモラクスは、上半身を起こして周囲を見回しながら、牛糞の波に揉まれて遥か彼方に姿を消していったのである。

 強烈な投擲だけでなく、必要最低限の優しい投球法まで、硬軟併せ持つフンババの底知れぬ実力に、コユキは心底思ったのである、

――――メジャーで見たいわね、何とかならないかしら? ポスティングシステムに猿、いいえ悪魔枠とか無理なのかしら? 残念だわ……

「おお、何とかなった様じゃぞい! だが、鉄人は最早…… やむを得なかった、とは言え、残念じゃったのぉ」

「っ!」

 腕力や重量、それにガッツ的な意味ではタロース相手にも引けを取らない、いいや寧ろ上回っていただろう鉄人も、間断なくあびせ掛けられ続けた破滅光線の前には抗う術を持ってはいなかったらしい……

 タロースの目の前から一歩も後退る事なく、威風堂々と立ち塞がり全ての破滅の光を受け続けた鉄の勇者は、顔面と両手を失い力なくその身を轟音と共に横たえるのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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