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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
547.心頭滅却すれば火もまた涼し

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 意固地になり、『んじゃ善悪でない事の証明をして見せろ』とか何とか悪魔の証明を求められなくて良かった。

 もしも求められていたら結構大変だっただろう、年を何度もまたいで国会で追及されたりしてしまうかもしれない、良かった。

 コユキがそう心中でホッとしていると運ちゃんが言葉を続けた。

「生きて行く、とりわけ社会の仕組みや秩序の中で自由民として生きて行くには学問や知識だけで無く、義務意識からくる役割を持つ事も例外的では有りません…… とは言え、生命を持つ存在が自分を犠牲にして他者を守るなんて行為ははなはだ不自然に感じます、私個人の意見ですがね…… 私は働いて給与を得ます、そのお金で食べ物や必要な物を購入して生きています、ですからね、例えばお客さんが私の生存を脅かすような要求をされた場合、私は躊躇なくお断りする事になります、生きる為に働いているのですから当然でしょう? お客さん達はどうですか? 世界とか全生命とか、大雑把おおざっぱ一絡ひとからげにされた価値観を守る為だけに自分や仲間を犠牲にして良い物でしょうか? どう思います? お客さん、フューチャーさん?」

 フューチャー神がコユキの顔を見ながら呟く。

「なあ、聖女コユキよ、これやっぱり善悪なんだろう? お前の相方の」

 コユキは腕を組んで考えようとしたが例の如く届かなかったので指を組みつつ答えた。

 フューチャーでは無く運ちゃんに対してである。

「確かにね、義務感だけで自己犠牲とか小説や漫画、映画の中でしかないのかもね…… 現代社会、いいえ、ずっと昔から人間は自由を得る為に学問をして来たわね、三学、四科、リベラル・アーツに代表される、社会の構図に合わせてその期待に応える事で人間らしい生活や、名誉を持ちつつ清潔で安全な人生を送る事が可能になると考え、そして実践して来た訳だしね…… 勿論、自己犠牲もいとわずに他者の為に死を選んだ高潔な英雄だって、歴史の中には沢山いたんでしょうけど、そんな立派な人達ってやっぱり稀有けうな存在だと思うわ…… アタシや善悪、ああ、アタシの相方ね、アタシ達は決してそんな立派なもんじゃないし、犠牲とか何とかより単純に死ぬのが怖い、状態だとか言われてもやっぱり恐ろしい、んでもね、義務とかじゃなくて、責任とかでも無く、単純な気持ち、それだけでも命を捨てて役目を全うする事って出来る物なのよ? 消防士さんやお巡りさん、自衛隊員さんだってそうしているでしょう? んまあ、アタシの場合は彼等みたいに立派なこころざしとは又違うんだけどね」

 運ちゃんはコユキの言葉に満足そうに頷き不意に話題を変えた。

「なるほど、所でお客さん、お腹すきませんか? フューチャーさん、この辺りで何かおススメの食事処ってありませんかね? どうですか?」

 ガックシッ!

 哲学的っぽい会話が楽しくなり掛けていたコユキは、突然の肩透かしに多少ガッカリとした気持ちになったが、事実空腹だったために運ちゃん同様フューチャー神の答えを待つのだった。

「まあ愛媛だからね、ポンジュースじゃあ腹ごしらえにはならないか…… ん、山を下って国道194に戻れば道の駅『木の香このか』があるぞ! こっちは高知県になるんだが、泉質の良い温泉と並んで大人気のラーメン『きじラーメン』がジワジワ来ているんだが…… そこで何か食べるってのはどうだろう? コユキもそれで良いかな?」

「さっさと山を下るわよ、ほれ、グズグズしてんじゃないわよっ! 『回避の舞アヴォイダンス』!」

 叫んだ直後、残像を残して高速移動を始めるコユキ。

 運命神と運ちゃんの二人は慌てて残像の背を追うのであった。

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