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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
595.撃ちてし止まむ

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 くれよぉやだよっの繰り返しが続く中、不意にオルクスが変な声を出した。

「ヴグッ!」

 声だけでなく小さな体がビクっと動いて固まった後、ワザとらしくそっぽを向いていた。

 善悪がバアルとアスタロトに拳骨げんこつをお見舞いし、イーチを散弾ショットで境内の遥か彼方に吹き飛ばしたコユキと並んでオルクスに話し掛けたのである。

「どうしたのでござるかオルクス君、変な声出しちゃってでござる」

「本当よ、どこか痛いの? それとも何か見つけたとかなのん?」

 オルクスはそっぽを向いたままでこちらを見ようともせずに答える。

「ベ、ベツニ、ナ、ナニモ、ミミミ、ミツケテ、ナナナナ、ナイ、ヨヨヨヨヨヨ、ヨ」

 なるほど、何か見つけたらしい。

 このタイミングで見つけた場合に焦り捲って誤魔化すとなれば、サタンやニブルヘイムに係る話でほぼビンゴであろう。

 コユキと善悪も同じ結論に達したのだろうオルクスの背中を見つめながら口々に言った。

「オルクス君、正直に言うのでござるよ、何を見つけたのでござる?」

「グ、グゥ、ベツ、ニ――――」

「聞いてオルクス君! 思い出して欲しいのよ…… 最初の頃の事よ? 悪魔の事なんか何も分かっていなかったアタシと、うろ覚えの知識で結構適当に指導していた善悪に対してオルクス君は語り掛けてくれたよね? 『オルクス』、『速さもっともっと』って言葉をさ! その後善悪やアタシが何にも知らない中でモラクス君に向き合おうとした時、不慣れなソフビの体を目一杯使って言ってくれたじゃない? 『三センチ一人で行った方が良い、王国のつるぎは残ってフォローに徹しなければ駄目だよ』って! どう? 思い出した? アタシは覚えてるよ! あの時、オルクス君が居たからアタシも善悪もここに生存出来ている、そう思っているんだよ? 勿論、アタシと善悪だってオルクス君やモラクス君、パズス君とラマシュトゥちゃん、アジやシヴァ、アヴァドンとだってお別れするなんて嫌だよ? 他の皆だって同じだよ…… でもさ、アタシ達神様だった者の責任としてさっ、やるべきことを間違って良いのかな? 常におもんばかるべきは強いアタシ達の気持ちや感情じゃなくて、自ら抗うすべを持たない市井しせいに生きる人達、それと弱く儚いうつろな生命に惻隠するのが大切なんじゃない? 思い出してっ! 三重の松坂にアタシを一人で送り出した時、オルクス君はもっと頑張って必死に胸を張って居たんじゃなかったかな? アタシの記憶では立派で格好良くて有無を言わさない迫力溢れる『魔王』そのままに映ったわよ? どう? どうどうどうっ! どんな気持ちなのぉー!」

 俯き、考え込むような姿をして、プルプル震え続けて居るオルクスにすぐ下の弟、モラクスが語り掛ける。

「兄者…… 頑張って下さい…… 役目を全う致しましょう……」

 オルクスはいつに無い声でようやく答えたのである。

「………………………………43.4183、142.4276、クゥ、エーンエーンエンエンエン、エーン」

 コユキは聞いた。

「モラクス君?」

 モラクスも目尻の涙を拭おうともせずに鼻声で答えた。

「はい、座標は北海道の中富良野町、ラベンダーで有名な、あのファームのど真ん中です…… ずびばぜん……」

 コユキはモラクスに微笑んで言う。

「済まなくないわよ! ありがとうね、皆! これで死ぬ、ってか消滅して世界の役に立つことが出来るわよっ! 無駄死にじゃ無いのは嬉しい事この上ない事だわ! 最っ高っよっ! 良かった良かった、ね、善悪ぅ!」

「うんうん、そうでござるよっ! 見事散りましょ国の為、いや世界の為ぇ! でござるよぉぅっ! いざ玉砕っ! で、ござるぅっ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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