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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
521.未完の大器

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 元々幸福寺にたむろしていたメンバーに光影とナガチカだけを加えて庫裏くりに向かいながら善悪が言った。

「今日から鯛男たいおさんたちオールスターズとか檀家の中心的なメンバーにも同じ訓練をさせるのでござる、待った無しでござるから……」

 コユキも答える。

「そうね、アタシも命が弱い人達に流れるのを防ぐために、今までの倍から三倍は食べるようにするわね…… 辛いけどアタシが頑張らないといけないもんね! ふぅ~」

 言葉と裏腹に満面の笑みであったしヨダレ的な物も滴っている、不思議だ。

 言いながら庫裏の玄関に辿り着き、さて朝ご飯を、そんな風に思っていたコユキにイーチが話し掛けた。

「コユキ様、善悪様! 本堂にお越しください! あの灰の様子がおかしいのですっ!」

「なにっ! でござるっ!」

「何なのよご飯前にぃ! 飢え死にしたらどうすんのよ、全くもうっ!」

 文句を言いながらもぞろぞろと本堂に向かった一同は驚愕の表情で目を剥き出すのであった。

 一番ぶー垂れていたコユキが唸るように言う。

「こ、これって黄金、砂金じゃないのぉ! ひゃっほう! やったわね善悪! 大金持ちだわん!」

「ああ、これっ! 待つのでござるよ、コユキ殿ぉ!」

 善悪の制止にも耳を貸さず、後先考えない脳みそが腐りきったコユキはオレンジがかった黄色の砂山に手を伸ばすのであった。

「ぎゃっ! 痛タタタター! な、何よこれぇー! あああ、頭もくらくらするぅー! きゅぅー」

 バタン! ズッシーンンンンッー!

 砂金に触れた両手を真っ赤なグローブの様に腫らして倒れ込んだコユキの姿を見た光影が叫んだのである。

「こ、これは金イオン毒、金中毒の症状だ! ラマシュトゥちゃん! 早くコユキさんに回復魔法を、接触場所だけじゃなくて腎臓と後、念の為貧血の治療も頼む、俺も一応丹波君に戻って来てくれるように電話しておくから」

「は、はい!」

「コユキちゃーん!」

「ユキ姉!」

「コユキィ!」

 ピクピクとしていたコユキはラマシュトゥの回復魔法で復活した物の、丹波晃が戻って来るまで大人しく待つことになったのである。

 空腹を感じていたのだが、たった今卑しさから死に掛けた為か、いつに無く怯えた表情でお得意の文句や愚痴も鳴りをひそめたままであった。

 慌てて戻って来た丹波晃は、カバンの中からジメルカプロールを取り出して筋肉注射をしようとしたが、コユキのどこに筋肉が存在するのか、その事をしばらく熟慮した結果、重い体重を支え続けて来たであろうふくらはぎの辺りにプスリと打ってコユキに告げたのであった。

「はい、これで恐らく大丈夫ですよコユキさん! これからは欲に目が眩んでもいきなり手を出しちゃダメですよ! イオン化した金なんて猛毒ですからね? 分かりましたか?」

 コユキは心底安堵した表情で答えた。

「うん、分かったわ晃君…… アタシもまだまだ未熟だったわん、次からは誰かに毒味的に触らせてからにするわね、ツミコ叔母さんとか…… 善悪の所のメッキじゃない、モノホンの輝きに我を失わない様に気を付けるわね」

 相変わらず酷い言い様であったが、集った面々はその事に一切触れず、当たり前のように話し始めたのである。

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