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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
56.Books

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 翌朝、いつも通りの時間に茶糖家へお迎えにやって来た善悪の両目は3であった。

 迎えたコユキも同様である。

 普段のコユキであれば、

「今日はパスね! こんな眠ったい状態で座薬(座学)やらポックン(特訓)やらやった所で、効率も何もありゃしないわよ。 って事で、も一度寝るわ~。 おやすみ~、ってそうだ! 後で目が覚めた時食べるから、お弁当作って持って来て置いてね。 ふぁあぁ~」

となってしかるべき所なのだろうが、今日に限っては違っていた。

 何やら鼻息も荒くやる気が漲ってみなぎっているらしい。

 善悪の車に乗り込むや否や口にした内容から、早速やる気の理由が明らかになった。

「ね、ね、先生! 今日は何やるんです? あれですよね? ハヤサ…… モットモット…… ですよね?」

だそうだ。

 恐らく、昨日の成果と、可愛いオルクス君の言葉に触発されて、やる気スイッチを切り忘れた物と見える。

 それ自体は、善悪にとっても好ましい事なのだが、いつも通りの慎重な言い口で、やんわりとだが否定した。

「気持ちは分かるでござるが、午前中は座学でござるよ。 回避訓練は午後でござるな」

 コユキはあからさまに不満げな表情をして、今にも抗議の声を上げんばかりだが、善悪が続けて発した言葉で口をつぐんだ。

「拙者は午前中に檀家さんの法事に行くのでござるよ。 昼食前には戻って来るでござるから、我慢して自習していて欲しいのでござる」

「……そうなんだ。 わかりました」

 幸福寺に着いて朝の食事を終えると、善悪はいつもの作務衣さむえから法衣に着替えを済ませた。

 袈裟けさは持って行って現地で身に付けるんだそうだ。

 出掛ける準備が整うと、本堂で待っていたコユキに対して、三冊の本と原稿用紙を渡しながら声を掛けた。

「では行って来るでござる。 コユキ殿はこの本の中からどれか一冊を選んで読むのでござる。 それで、終わったら感想文にまとめて欲しいのでござるよ。 分かった事や不思議に思った事なんかをね。 図解が多くて読むのに時間は掛から無いとは思うのでござるが、念の為マンガも入れて置いたでござるよ」

 そう言われコユキは渡された本のタイトルにを目をやると、そこには、『楽しく身につくステゴロ』、『今すぐ使える喧嘩テクニック』、『マンガで見る徒手空拳としゅくうけん』とそれぞれ書いてあった。

――――うわぁ、善悪こんなの買って読んでるんだー。 引くわー。 ってかどんな人がこれ書いてるんだろう? 自費出版よね?

 そんなコユキの心中の呟きに気付く事もなく善悪はお仕事(法事)に出掛けて行くのであった。


 正午を三十分程回った頃、善悪はやや急ぎ気味に幸福寺へと帰ってきた。

 駐車場に車を停めると、着替えも後回しにして本堂へと向かう。

――――昼前には戻ると言って置いて遅くなってしまったのでござる。 コユキ殿にはひもじい、いや、淋しい思いをさせてしまったのでござるな。 怒っていなければ良いのでござるが……

 そんな風に思いながら、本堂に入ると、そこにはグオ――――グオ――――と大鼾おおいびきを掻いて眠りこけるコユキの姿があった。

「やはり、遅れたゆえ退屈して眠ってしまったのでござろう。 申し訳無い事でござった。 さて、眠らせて置いてあげたい気持ちもござるが、食事の時間も過ぎている事でもあるし、どうしたものか?」

 呟きつつコユキに近付いた善悪が目にした物とは。

 本堂の経机きょうづくえの横で大の字になって大鼾を掻くコユキと、机の上に取り残された、読書感想文というタイトルの文字と茶糖コユキと書かれた署名、何故か三十九歳の文字、それ以外には何も書かれていない原稿用紙の束、更に、コユキの頭の下に積まれて枕と化した自身の愛読書達、そこに流れ落ち続けるコユキの口から垂れた大量のよだれ、なぜか、コユキの脇に雑に置かれている、野菜の星の戦士のソフビが上下に別れた無残な姿、そして、あろう事かコユキに胸の前で確りしっかり両手で掴まれ、か細く白光するオルクス君の姿であった。

 それらを目にした瞬間に、善悪の中で激しい怒りの感情が荒れ狂い、直後に何かがブチっと音を立てて破壊された。

 善悪は慌ててソフビを拾い上げ、コユキの手からオルクス君を引っ手繰るようにして取り上げると、丁寧にソフビの中に戻してから、御本尊の脇へと戻して言った。

「オルクス君、申し訳無かったでござる。 大丈夫でござったか?」

 ソフビ越しでも分かるくらいに、オルクス君は一回輝きを増すことで善悪に答えたようだ。

 ホッと安堵の息を吐く善悪の頭の中に、思いもよらない言葉が響いた。

『コウフクきょう、ゼンアクさま! 私です、マーガレッタでございます!』

「っ!」

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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