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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
634.魔将アウレウス

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「アジィ…… みんな頑張って居たんだね、んで、アンタはここで何をしてんのよぉ?」

 緑の巨人、蛇面の悪魔は驚くほど物静かに言ったのである。

「それなんですよ、コユキ様、ここよりは進んではいけませんね、死が、滅亡が、この先に広がり続けて居るのです…… 狂気の殺戮が納まり切る迄は、どうか、どうかこの丘に留まって下さいませ、ささっ、こちらにお掛けになって下さい、どうぞ」

 そう言って自分の尻尾をクルリと巻いて分厚い座布団状にしながらコユキに目配せをした。

 二度目の勧めを受けたコユキは恐る恐ると言った感じで尻尾座布団に触れ、感触を確かめるのであった。

「ほぉ、これは思ったよりも座り心地が良さそうじゃない、分厚さと言い大きさと言い、まるで控え座布団みたいだわねぇ、四角かったら完璧だわぁ」

 そう言ってアジ・ダハーカの尾の上にどっかりと座り込んだコユキ。

 百貫越えの体重を尾に預けられていると言うのに、オリジナルの姿に戻ったのであろうアジ・ダハーカは顔色一つ変えていなかった。

 ここまで見て来たモラクスやパズスと同様に、オリジナルに戻ると格段に強化されると見える。

 因みにだが、控え座布団とはお相撲さんの中でも、幕の内力士だけに許された特権であり、土俵の周囲、所謂いわゆる『たまり』に控える際に使用する、滅茶苦茶大きい座布団の事である。

 幕内最重量力士と比べても百キロ以上大きいコユキは、悠々とした風情でくつろいでいる。

 横に転がっていた倒木に腰を降ろしながらトシ子が言う。

「それで? この先に待ち受けている敵の勢力はそんなにヤバい奴なのかえ? 今のアンタ、邪竜に戻った状態で言うんだから相当の相手らしいのう、こりゃ強敵じゃぞい、のう?」

 パズスが弟であるアジ・ダハーカに改めて聞く。

「どうなんだ、アジ? それ程の強敵だったのか?」

 兄パズスの倍以上の身長を持った弟は答える、因みに目線はパズスが立ったままなのであまり変わらなかった。

「あー何て言っていたかな? 魔将アウレウス? とか言っていたが…… んまあ緑色に所々金色が混ざった竜種、というか羽付のサーペントって所だったよ、大して強くは無さそうだったが手下が多くてさぁ、大小様々な色とりどりの蛇とかトカゲとかさ、地を埋め尽くすって表現がぴったりだったんだよ、本当に」

「ふむ、数か…… 厄介と言えば厄介だな、早めに無力化して通り過ぎなければアスタ、バアル組がサタンの所に先着してしまうからな…… ふむ」

「だろう? んだから考えたんだよ、俺の頭脳が弾き出した最適解はね――――」

「どれどれ、地を埋め尽くす爬虫類型悪魔にボスの緑と金のサーペントか、どれ程の物だか、ちょっと見てみようじゃないのん!」

 会話が面白そうだと思ったのか、通過するのに時間が掛かりそうな事を危惧したのかは定かではないが、コユキはさっき座ったばかりの尻尾座布団から立ち上がって、丘の先へと進みそこから下っている道の先に広がった景色を眺めるのであった。

 ゆったりと下っている道の先には、広範囲に広がった平地が見え、アジ・ダハーカが言っていたように巨大な蛇やトカゲ達が所狭しと蠢いて居り、その更に先には水面がユラユラとした青い炎で埋め尽くされた川が見えた。

「なるほど、あの川がプレゲトーンって事か、にしても本当に沢山集まっているわね、こりゃ確かに手間取りそうだわね」

 コユキの後を付いてきた面々の中からトシ子が同意の声を上げた。

「じゃのう、しかもああ言うやからって大体毒とかブレスとか吐くんじゃぞい、神経を使う相手なんじゃ」

 パズスも頷いて続いた。

「ですね、生憎ですが、私って多数を相手にするの向いてないんですよね、面倒ですね」

 シヴァがヒュドラをかかげながら言う。

「んじゃ俺が行ってこようか? カタストロフを二、三十回もぶっ放せば大分減るぞ? よしっ、そうするか、皆はここで待っていてくれ、って、おいおい! こりゃ驚いたな!」


拙作をお読みいただきありがとうございました!


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