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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
541.記憶の改竄

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 コユキの溜息はますます深くなっていたのである。

「はぁー、結局前回もダメだったわけね…… そりゃそうか、じゃなきゃ今回は無いもんねぇー」

 善悪の落胆も大きい様だ。

「毎回、一年づつ滅亡までの時間が伸びただけでござる…… 前回に続いて今回僕チン達が犠牲になっても今から五年後に絶滅する未来しか考えられないのでござるよ」

 割とさかしい善悪の言葉を打ち消したのは他ならぬ針のむしろに座らされて苦行の只中に居たフェイト、道北の彫刻神、その人だったのである。

「いいえ、いえいえ、善悪! 今回こそは前回までとは違うんですよぉ! 我々古代神、いいえ! 生命が失われた恐ろしい未来を見させ続けられた存在は思い至ったのですよ、次こそ、次の機会にこそ、人々、いいえ世界に溢れた生命全てを救ってみせよう、とっ! だからこそ、コユキに伴われてここに誘われたのですよっ! 貴方達の善意を信じて全てを話して聞かせる存在として、私、フェイトが手を上げたんですよ? どうですか? 善悪っ! コユキっ! アスタロトっ! バアルっ! 魔王種のお歴々よぉ! 今回の私は『伝える者』、どうですか? 力を貸して頂けませんかぁ? 生命の為に、只々生き続ける蒙昧もうまいな弱き者達の為にぃー! 我々レグバ等に意味は無いのですよ、迷える衆生しゅじょう、子羊達だけでも助けてあげなければいけないのでは無いでしょうか?」

 黙り込んで考えを巡らしている一同の中で、コユキだけが落ち着き払った声を発したのであった。

「うん、過去の悔恨を知っているアンタはそう言うんでしょうね! それはアタシ達、過去を知り得ない命に大声で主張する事では無いでしょう? 今ね、アンタが話すべきは最新回たる今回の周回の話よ! ねえ、フェイトちゃん? アンタ等今回は一体どんな風にシナリオ書いてくれたのよん? それを聞かせてくれないかな? どう? 今アンタ自身が言ったんじゃんっ! 全てを話すってぇ! そろそろ話してくれない? 力を貸してっていう前にまずアンタ等が話さなければいけないんじゃないのかな? 違う? 内容よ内容、ホレ伝えなさい」

「は、はい、えっと今回変更した点はですね――――」

 一年プラスでは無く、恒久的な永続を目的とした六柱の神は知恵を絞ったそうだ。

 先ず行ったのはカーリーのスキル、『改竄ペイラポイィシ』による記憶の改竄かいざんであった。

 幼い光影が聖女や聖戦士に嫌悪感を抱き、修行を止めるように誘導する為に、彼の母で亡き昼夜の妻である女性の記憶を書き換えたのである。

 昼夜が自ら望んでカーリーと融合したのではなく、相方のツミコがカーリーと恋仲になり結託して昼夜をめた様に思い込ませたのである。

 念の為、光影本人にも改竄を試みたそうだが、強固なレジストを突破できずに失敗に終わったらしい。

 次にカーリーが記憶を変えたのは、光影に次ぐ強敵、前回までは彼の相方だった茶糖コユキの記憶であった。

 光影に対する改竄(未遂)で魔力を失ってしまったお陰で、対象のコユキは二十歳まで成長しており、幸福寺の倅、善悪や二人の妹達と共に、ツミコや善悪の親父清濁キヨオミから修行を受けており、あと数年で独り立ちした一丁前の聖女に、そんな段階まで成長していたのであった。

 こちらも強力な抵抗を見せたが、意地になったカーリーが三日三晩、背後霊の様に付きまとってスキルを掛け続けた事で何とか成功したのであった。

 改竄の内容はシンプルに、聖女や聖戦士に関する全ての記憶の消去、これであった。

 結果として、それまで人生の軸に置いていた聖女としての使命感を忘れ去ったコユキは引き籠る事となり、わずかに残った『聖女は脂肪を聖魔力に変えて戦う、痩せない様に!』幼少期から言い聞かされてきたこの言葉、その最後の部分だけが記憶の奥底にあったせいで太り続けて居たらしい。

 数年後、坊主となり独り立ちした善悪にも同様の改竄を施したそうだが、こちらは二人と違って一瞬で書き換えられたらしく、それまで気を付けていた魔力吸収を鼻歌混じりで行って、近くにいた四柱の悪魔は即座に姿を掻き消したそうだ。

 無論、自分勝手で孤独趣味なメット・カフーのオハバリは兎も角、レグバ達も遊んでいた訳では無かったと言う。

 彼らがまず手を回した改善点としては、バアル、アスタロトの両軍勢の強化、これだったらしい。

 光影に対してムキになっているカーリーから、少し先の未来視、昼夜から引き継いだスキルを強引に行使して貰って知った、シロクロチロの川遊びの日取りをバアルに伝えてムスペルヘイム、アスタロトの軍勢に加えさせたうえで、バアル自身の配下にも、ヘルヘイムに引き篭もる前に恩寵を与え可愛がっていた、マナナンガルとペナンガランを探し出して、地上活動部隊として配備させることで魔神バアルの信用を得た、と言う話であった。

 その上でバアルに願い、次なる脅威、スプラタ・マンユの絶対的守護者たるオルクスを地上に送り出す事を成功させた様である。

 光影の改竄に夢中だったカーリーを無理やり連れだして、イチゴ味の赤い飴玉に対して、強引に彼の興味を移させたと言う……

 結果は二十四年間の停滞であった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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