見出し画像

【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
569.デスティニー(挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

今回の話には、
『373.猫の餌椀』
『374.アンドロマリウス』の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
________________________

 不意に掛けられた声に慌てたコユキが振り返ると、すだれの横の柱に背を預けた人物が横目でこちらを見ている姿があった。

 ダークグレーのジョガーパンツに同色のパーカ、と言うよりはミドル丈のフーディを身に着けたブルーフレームのクリアグラスを掛けた男性だ。

 同じくグレーのキャップから覗いた頭髪はライトな色に染色されたドレッドらしく、足元はハイカットのダンスシューズが白とやや暗めなベージュのツートンでアクセントになっている様だ。

 肩越しに大きな袋を背負った高身長な男が言葉を続けた。

「あれれ、返事が無い所からすると本当に泥棒かよ? って事は悪魔かな? アンドロマリウスだったり? なあ、アンタ、アンドロマリウスちゃん? 俺、運命神レグバ、デスティニー・ラダ! ま、いわゆるご同輩って奴だね、あ、くつろいでくれて良いよ、干し柿でも食べるかい? 旨いぞ」

 随分砕けた運命神らしく、人懐っこい笑顔を浮かべて干し柿を差し出して来たではないか。

 しかしこの柿はデスティニー曰くアンドロマリウスちゃん、つまり千里の天神さんである悪魔に対して供された物である、コユキに対してでは無い、シラっと頂く訳にはいかないのである。

 故にコユキは運命神デスティニーに対して言ったのである。

「お留守の間に勝手にお邪魔して驚かせちゃったみたいだわね、ごめんだわ…… でも何か勘違いしているみたいだから一応指摘しておくわね…… デスティニーさんが間違えてる点は三つよ、一つ目に私はアンドロマリウスちゃんじゃないわ、知り合いだけどね、二つ目は私は悪魔じゃなくて聖女、アンタ等レグバの計画に身を捨てて協力中の真なる聖女茶糖コユキよ、その時は近付いているわ、だから迎えに来たのよ? そして三つ目の間違いは…… アンドロマリウスちゃんの事をご同輩とか言ってたわね? って事はアンタも盗人野郎なんじゃないのっ! 他の運命神に比べて随分羽振りが良いみたいだし、駄目よっ! 盗みとか道義や倫理、人道にもとる行為は悪魔だろうが神様だろうが駄目よ、駄目、絶対っ! 許されないのよぉー!」

 いつも通りのコユキの発言に聞こえるかもしれないが実は全然違う。

 今しがた自分が泥棒だと疑われてしまった、しかも札束に手を出している場面を目撃されながらである。

 故にいつも以上に論理的に、かつ自分は悪を憎む正義の使徒、特に盗みに対して強い嫌悪感を有している事をアピールする事で誤魔化し、いいや冤罪被害を避けようと意図していたのだ。

 ワザとらしく不機嫌な感じを演出しておいてから鼻をフンスッと鳴らしたコユキにデスティニーは言った。

「盗み? はははっ! 俺こう見えても神様だぜぇ、んな事してねーってぇ! ここに有るモンだったら、うーん、そうだな…… 氏子うじこからの供物? みたいな感じかな? 一応神様なんだからさ、良んじゃね?」

 ほう、なるほど供物ね……

 確かに洋の東西を問わず自らの信仰の対象に進んで供える物だし不自然ではないな。

 私、観察者はそんな風に考えたのだが、どうやらコユキは違ったらしい。

 ジト目をしながらデスティニーに言う。

「氏子ねえー、んじゃあアンタ神社か何か持ってんのよね? でなきゃ氏子もクソも無いでしょう? どうなの、どこにあんのよ? アンタの神社や神殿は?」

「あー、えっと、神社や神殿、ね…… うーん、何て言うかなぁー、まあ、えっとぉ、そう言うんじゃなくてさぁ、いや、無くは無いんだけどさ、えっとー、どう言うかなぁ……」

 今までの快活な饒舌は何処へやら、首筋を片手で擦り上げながら視線を天井に向けて漂わせ、もそもそと歯切れ悪く返すディステニーである。

 溜息混じりのコユキが背中を押す。

「んじゃどう言う風にして貰うのよ? どうせここを離れて幸福寺に向かうんでしょ? もう覚悟決めてゲロっちゃいなさいよ! ほら、正直になって楽になんなさい、お上にも情けは有るわよ!」 ※因みに相手はマジ物のお神です

 テレビドラマなんかで見たまんまのセリフに如何ほどの効果があるかははなはだ疑問が残る所だろう。

 だと言うのにデスティニーは肩をすくめた後、自身の表情を急に素直な物へと変じさせて話し始める。

「いやぁ、実の所神社や神殿所か祠一つ持ってないんだよね俺、んだからさ、こっちから営業ってかアプローチ掛けて信者探してみたりしてる訳よ、ほら、夢枕に立ったりしてさ、んで、信徒になったらつけ取りみたいに貰いに行くわけだよ、寄進きしんとかね、ここまでオケイ? ユーシー?」

 コユキも興味が湧いて来たらしい。

「アイシー、なるほどね…… 普通は信徒が二、三人で休みの日なんかに不意に笑顔で訪問してくる奴等でしょ? それを、自ら夢枕に立ってか…… 何とも世知辛い話じゃないのよ、神様界隈も中々厳しい様だわね、まずは自助、そう言う時代なのかなぁー? んで具体的にはどうやってプレゼン、ってか勧誘すんのよ?」

***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

スキしてみて

励みになります (*๓´╰╯`๓)♡