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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
623.ロコガール

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 自分の前にかしづくモラクスにコユキが偉そうに告げた時、リエが後ろに皆を引き連れて到着するのであった。

「大丈夫? ユキ姉と、も、モラクス君なの? マジで? これ、まるっきり神様じゃん!」

「光栄ですね、とは言え未だフルパワーって訳では無いんですよ?」

 言いながら格好付けているのか長い黒髪に何度も手櫛を入れては一々なびかせているモラクス。

 ようやく追いついた善悪がその様を見ながら声を掛けた。

「髪が長くて邪魔そうでござるな、刈ると楽なのでござるよ? 今バリカン無いからむしり取ってあげるでござるよ! ほら、おいで!」

「嫌ですよ、何なんですか! 善悪様」

 善悪が目をクワっとさせて言う。

「何っておまいら言いつけに背いて勝手な行動したから怒っているのでござるよ! 特にモラクス君、お前は皆を止める役でござろう? 一体どうしちゃったのでござる? らしくないのでござるよ」

 モラクスはこうべを垂れてしゅんとしながら答えたが、その声はいつに無く弱々しい物であった。

「そ、それは…… オルクス兄者があんな状態で、いつも自分が確りしなければ、そう思ってやっては来ました、でも、でも、私だってコユキ様と善悪様が消えるなんて嫌だったんですよぉ、皆の行動を止める事なんかできなかったっ! いいえ、私自身もそれを望んでしまったんですよぉー! 嫌です嫌ですっ! 消えるなんてダメですよぉー! エーンエンエンエン! エーンエンエンエン!」

 意外や意外、スプラタ・マンユの次兄で確り者、いつも冷静で博識、時に冷たいんじゃないか、そんな風に思っていたモラクスが人目もはばからず泣き出してしまったでは無いか。

 怒った感じだった善悪は、急なキャラ崩壊をとがめるでもなく、オロオロとコユキに助けを求める様な視線を向けるのであった。

 神々しい姿のままで泣きじゃくるモラクスの頭をコユキは背伸びしながらポンポンと優しく叩いて言う。

「よしよし、いつも頑張っていたもんね、無理してくれてたんだ、ありがとうだよ、これからも優しくて良いお兄ちゃんでいてね♪ ほらほら泣き止みなさいよぉ! よーしよしよし、よーしよ、ぐっ! 痛たたた、あ、足の指がっ!」

 やや太めで百貫越えのコユキにとって背伸びとは、少々無理をし過ぎた様である、骨までいっていなければいいのだが……

 今泣いていたモラクスは急激にいつも通りの冷静さを取り戻し、慌ててコユキの図太い足指を擦り始めるのであった。

 暫くの間、足指だけじゃなく全身をリエ、リョウコ、モラクス、カイムに擦らせていたコユキが言った。

「ふぃーい、ありがとね皆、ようやく人心地付いたわよ、骨まではいっていなかったみたいだけど念の為回復させて欲しいわね、ラマシュトゥちゃんはどこにいるんだろう? モラクス君判るかな?」

「あー、さっきまでは余裕が無かったから無理でしたが、今なら絆で呼び掛けられると思いますよ、ちょっと聞いて、みますんで――――」

「あ、じゃあついでにサタンを食わしちゃダメって言い聞かせて欲しいのでござるよ! 僕チンとコユキ殿のお願いだって言ってぇ! 聞かない奴が居たらその他のメンバーで止めて欲しいって、伝えてぇ!」

「なるほど、やってみますね……………… うん? こちらの通信は聞こえている筈なんですが、返事が有りませんねぇ? ………………おっ! パズスから返事がっ!」

 そう言った後、端正な黒い顔を見る見る青褪めさせたモラクスに善悪が慌てて聞く。

「ど、どうしたのでござる? パズス君、何だって?」

「一言だけ『助けて』と……」

 コユキが立ち上がって周囲を見回しながら言った。

「ヤバいじゃないのよ! えっとえっと、あっ! あれじゃない? オレンジ色よっ! と言うより朱色に近いかなっ!」

 モラクスも慌てた感じで言った。

「朱色はパズスが限界を越えた時のオーラの色です! あの林の裏ですね、急ぎましょう!」

「コユキ殿、今回は拙者も一緒に連れて行くのでござるよ! ほれ、このけいの紐を掴んで移動してね! 僕チンの腰に縛ってあるからさっ!」

「了解よっ! パズスって寡黙だけど持ち前のメンタル力で弱音とか言わない子じゃない? それなのに『助けて』なんて本当にヤバいんだと思うわ! レグバやカイムちゃん、リエとリョウコも、戦いに不安があるなら後から来てね、お婆ちゃんはどうすんの? お婆ちゃん? あれ?」

 モラクスが朱色の光が輝いて宙天を照らしている林の方を指さしながら言った。

「トシ子様ならあそこですっ!」

 善悪とコユキが揃って視線を向けた先には、リエとリョウコを両の小脇に抱えて、頭上にカイムを乗せたトシ子が波乗りヨロシク、周囲の土砂を巻きあげながら高速移動していく姿が映るのであった。

 トシ子の歓喜の声が遠ざかって行く。

「ヒィヒャッホォォーォー……」

 コユキはニヤリとしてから言った。

「負けちゃいられないわね、行くわよモラクス君、『回避の舞アヴォイダンス』」

「仰せのままに、『風よアネモス』」

 グンッ!

「うおおぉぉぉー!」

 コユキとモラクスに引っ張られた善悪も又、残像を残して姿を掻き消したのである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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