逃げる力【bookノートB】

「逃げる」という言葉には、どうしてもネガティブなイメージがつきまとう。

逃げる人は辛抱がない、根性なしだと評価されてしまうことも少なくない。

しかし、ブラック企業で働いている場合やストレスフルな人間関係に悩まされているとき、天災や軍事衝突の危機に陥ったときはどうだろう。

むしろ積極的に逃げるべきであることは、言うまでもない。


人は追い詰められると思考力が低下して逃げるという選択肢が頭から抜け落ち、現状に耐えるか死を選ぶかという2択になってしまうものだという。

そうした状況に陥ってしまう前に、「逃げる」という判断を下さねばならない。

逃げることは容易ではない。

多くの人は「逃げてはいけない」と刷り込まれてきているし、逃げることによって失うものもあるからだ。

それでも本書は、「積極的逃走」を勧める。

命や健康、家族といった大切なものを守るために、逃げるという選択をするのだ。

人生には「逃げなければいけない」局面がある。

可能性がない戦いからは、何もかも失ってしまう前に撤退すべきだ。

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負ける経験をしていないと、敗北に向き合えない。

若いうちに敗北をたくさん経験し、負けることに免疫力をつけておくべきだ。

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逃げる決断ができなければ、徹底的に損得勘定で考えてみよう。

そうすれば、合理的な判断を下せるようになる。

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戦うか逃げるかを決めるためには、幸せの絶対的基準を持つ必要がある。

幸せの絶対的基準が確立していないと、自分の生き方に対する判断を下すことができない。

現代社会においては、会社のために自分を追い込み続けた結果、死を選ぶ人が少なくない。

そうしたニュースを見ると、多くの人が「なぜ、会社を辞めなかったのか」と感じるのではないだろうか。


人は追い詰められると、思考力が低下する。

その結果として、「逃げ出す」という選択肢が消えてしまうのだ。

すると、現状に耐え続けるか、死を選ぶかという2択のなかからどちらかを選ばなければならないと思い込んでしまう。

判断力が低下する前に命が最も大事だということを見定め、戦うか逃げるかを選んでほしい。

命に限らず、本来大切にするべきものよりも、さほど重要でない仕事や人間関係を優先してしまうこともあるだろう。

そうしたときには、優先順位を冷静に見極めるようにしたいものだ。

人生には「逃げなければいけない」局面があり、その見極めを誤れば、再起不能になることもある。


もちろんあきらめず粘り強く頑張ることも大切だし、逆転勝ちの可能性もないわけではない。

しかし可能性がない戦いからは、何もかも失ってしまう前に撤退すべきだ。

誰しも、勝負を避けて通ることはできない。

ライバル会社とのコンペやスポーツの試合などはもちろんのこと、仕事のノルマや学校のテスト、恋愛さえも勝負と呼べるだろう。

すべての勝負に勝つことはできないのだから、誰でも負ける経験をすることになる。

負けることにおいて最も重要なのは、「負けを素直に認めること」だ。

「今回は調子が悪かった」

「自分に不利な条件があった」

「運が悪かった」

などと、自分以外に負けの原因を求めてはならない。

負けたことを素直に認め、負けた原因と向き合おう。

さもないと、何度も同じパターンで負けることになりかねない。

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登山家や探検家は、生きて帰るために「逃げること」の大切さを熟知している。

資金と時間をかけて準備して登頂に挑み、もう少しで頂上にたどり着けるとしても、「これ以上進んだら生きて帰れない」と感じたら撤退するのだ。

これは、極めて高度な精神力が必要な逃げ方だと言えよう。


コストがかかっていたとしても、ゴールが目前に近づいていたとしても、「撤退する勇気」を発揮して逃げなければならないときはあるのだ。

無敗と言われる人がいる。彼らは実は、勝てない戦いを避けているのだ。

むやみに戦いを重ね、人生のリスクを増やすことはない。

懸念するのは、競争する経験に乏しく、負けることに慣れていない若者が増えていることだ。

その背景には、負ける経験をさせないという近年の学校教育の方針がある。

通信簿は相対評価から絶対評価となり、徒競走を廃止する学校も増えた。

しかし、負ける経験をしていない人は、敗北に向き合えない。

負けたことにショックを受け、ひきこもってしまったり、取り乱したりしてしまうのだ。

敗北から学ぶこともあるし、負けることによってへこたれない精神力が身につく。

若いうちに敗北をたくさん経験し、負けることに免疫力をつけておくべきだ。

過酷な労働環境に置かれていたとしても、仕事や会社から逃げ出す人は少ない。

収入もなくなるし、残された同僚に迷惑をかけることを考えると踏ん切りがつかないのだろう。

しかしそれは、凝り固まった固定観念によって自分で自分を縛り付けているだけではないか。

その固定観念とは、「レールから外れたら終わり」というものだ。

優秀な学校を卒業して一流企業に就職し、出世コースをひた走る人はとくに、この感覚が強いようだ。

人生の設計図を明確に描いており、それを実現するために努力をしてきたのだろう。

「設計図はいくらでも書き換えることができる」ことを覚えておいてほしい。

一方、ごく平均的な学歴を持ち、普通の会社に就職した人は、「今まで築き上げてきたものを失うのが惜しい」という気持ちがあるようだ。

そこそこの給料や居心地の良い職場といったものを失いたくないのだろう。

そうした人には、

「失うことを恐れているモノは、本当にそんなに大事なモノなのか」

を考えてみてほしい。

もしかすると、失いたくないモノは、意外と大したモノではないかもしれない。

「そこそこの給料」は、何年先も同じようにもらえるとは限らない。

「居心地が良い職場」も、異動や転勤、リストラ、パワハラ上司の着任、他社との合併などによって失われる可能性があるものだ。

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逃げる決断ができない人には、「徹底的に損得勘定で考える」のがおすすめだ。

つまり

「これをガマンしたら得するか損するか」

「これをガマンしたらいくらぐらいの損得になるか」

と、すべてお金に換算してみるのだ。こうすれば、合理的な判断を下せるようになる。


「パワハラ上司のもとで働き続けること」

「会社を辞めて他の会社に行くこと」

をお金に換算してみよう。

今の会社のほうが給料が高いなら、目先のことだけ見ればそのまま働き続けたほうが得だろう。

ただし、パワハラ上司のもとで働くことで心を病み、休職することになったらどうか。

働くことができなくなるのだから、トータルで見れば圧倒的に損になる。

職場の人間関係で悩んだときも、お金に換算してみよう。同僚とうまくいかなくても、1円も損はしない。

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逃げることは大切だが、どんなときでも逃げていいわけではない。

最近の新入社員は3年以内に3割辞めるというが、これはあまりにも早すぎないだろうか。

会社がブラック過ぎたり、犯罪のような仕事をしていたり、強烈ないじめがあったりする場合は仕方ないだろう。

そうでもなければ、3年以内に辞めてしまう社員は辛抱がなさすぎる。

その仕事の面白さや難しさがわからないうちに辞めてしまっているのではないか。

3年以内に辞める人は、「この職場は、自分には合わない」と言いがちだが、1、2年では自分に合う職場かどうか判断することはできないだろう。

上司に怒られたり、仕事がうまくいかなかったりしただけで「向いていない」「合わない」と言っているなら、考えが甘すぎる。

まず、その職場でベストを尽くし、トップを目指そう。

3年間徹底的にやってみた後で、合うかどうかを決めるべきだ。

仕事がキツいと思ったら、いま一度、自分の仕事のやり方を見直してみよう。

たとえば、時間の使い方だ。

パーキンソンの法則によると、

「仕事は与えられた時間いっぱいに膨張する」

という。

つまり「この仕事を午前中いっぱいで終わらせて」と言われると午前中いっぱいかかるが、「1時間で終わらせて」と言われると1時間で終わる。

しかも出来映えはさほどかわらない。

だから期限を短く設定したり、仕事時間を少なめに設定したりすることで、効率アップが実現するだろう。

自分の生産性を最も高めるスタイルを追求することも重要だ。

戦うか逃げるかを決めるためには、自分にとって大切なものを見極める必要がある。

それはつまり、「幸せの絶対的基準を持つこと」だ。

この基準があれば、逃げたり捨てたりする判断を下すことができる。

幸せの絶対的基準が「家族の幸せ」であるとしよう。

そうすると、家族の幸せ以外は二の次でよい。仕事や人間関係をジャッジする際、「家族の幸せを犠牲にしてまで維持すべきものか」というふうに考え、判断することができるはずだ。

幸せの絶対的基準が確立していないと、自分の生き方に対する判断を下すことができない。

「相対的な基準」、つまり他人と比べてどうかという基準で決めることになってしまうだろう。

上には上がいるのだから、相対的な基準で幸せを測る人が本当に幸せになることは難しい。

他人より少し劣ったと感じるだけで、大いに落ち込んでしまうことになるだろう。



「逃げる力」 百田尚樹 著
PHP研究所

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