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エッセイ)張り紙

高校生の時、私は1年間だけサッカー部に所属していた。
サッカー部の一年は、道具入れ用の倉庫を部室としてあてがわれていた。あまりに殺風景で寂しかったので全国制覇と書いた紙を部室に貼り付けた。
ウチのサッカー部はたいして強くもなく全国制覇なんて夢のまた夢、県大会優勝なんかもあり得ない話。大抵が1回戦か2回戦敗退の学校だった。張り紙を見て、みんな笑っていた。それでも全国制覇は無理でも、もしかしたら奇跡的に県で Best4位ならって気持ちはあった。
井の中の蛙は大海を知らずに各々が思い思いにゲコゲコと鳴いていた。

当時の高校サッカーの全国大会予選は、リーグ分けなどがなく、運が悪ければ1回戦から優勝候補と当たるなんて事もあった。

当時、うちの県では10年連続で県大会優勝をする様な全国でも名の知れた強豪校があった。毎年、そこがぶっちぎりの優勝候補だった。
試合で当たる事はなかったが、たまたま、一回戦の試合会場がその強豪校と一緒で、試合を見学する機会があった。
強風の日で、うちの先輩達もボールを上手く扱えずにかなり苦労していた。

そんな、コンディションでも強豪校は、見事にボールを操っていた。風の影響を考慮して、なるべく低いグランダー性のパス…パスと言うよりシュート。全員が味方に正確にシュートし、そのシュートを見事にコントロールしていた。相手チームはなす術もなく、あれよあれよとボールを繋げられゴールを決められていた。
終わって見たら結果は20対1。
この1点も相手のクリアボールが風に乗って、強豪校のキーパーの頭上を超えてゴールに吸い込まれるラッキーゴールだった。この時に井の中の蛙は、何を思ったのか、少なくとも私は全国に行く学校との力の差を知って愕然とした。

翌日に、全国出場の張り紙を外した。
それから数ヶ月後に自分はサッカー部を辞めた。本気で県で上位とか全国がどうのとは思ってはいなかったが、あまりに残酷な現実を目の当たりにして、気持ちが折れてしまった。
あの強豪チームが優勝候補とは言え、あそことそれなりに接戦を繰り広げるチーム、そこまで差のないレベルのチームが Best4位だとすると、そこと比べてもウチは遠く及ばない。加えて、もし、そのレベルのチームと対戦をする事になれば、大差で負けるのは目に見えている。こんなレベルのチームでそれなりの練習を続ける事に一体、何の意味があるのか。2年間続けた所で何を得られるのかと馬鹿らしくなってしまった。

残った面子は最後まで部活を続けて最後の大会で3回戦まで行った。
久しぶりの2回戦突破。3回戦はPK戦の末に負けたそうだ。負けた後に殆どの面子は号泣したらしい。

最後迄続けて、掛け替えのない思い出を作った面子と早々に見切りをつけて辞めてしまった自分。
当時は、部活の代わりにバイトをしたり、お姉ちゃんのお尻を追い回したりで、この時にしか出来ない青春を謳歌したと悔いる事はなかった。しかし、不惑の年齢となった、今になって思えば辞めずに続けておくべきだったと思う。そもそも、ボールを蹴るのが好きでサッカー部に入ったのだから、そこまで結果にこだわる必要はなかった。出来る範囲の努力であっても何かに懸命に取り組んで得た結果ならば、きっと何かを得る事ができたはずだ。
これがやった後悔よりもやらなかった後悔のが後を引くと言う事なのだろう。
あの時に見た試合はその後に見たWカップよりもどんな試合よりも鮮明に頭の中に残っている。色んな後悔と共にトラウマの様に頭に蔓延って、未だに消える事はない。

蔓延る…はびこる

おわり

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