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東大を0日で休学した僕が、リンガラ語を覚えながらコンゴ川を下り、アフリカでベンチャーキャピタルを立ち上げるまで

初めまして、Kepple Africa Venturesの西・北アフリカ投資担当の品田諭志といいます。アフリカのナイジェリアを拠点に現地のスタートアップ企業に投資をしています。本稿ではアフリカが好きすぎて、アフリカで仕事し、投資している私が、ビジネスパーソン向けにアフリカの魅力を語り尽くします。アフリカはいいぞ。
(※本記事は、2019年8月23日に投稿した記事を一部加筆・修正したものです。)

2002年、コンゴ(DRC)にて

手漕ぎの乗り合いカヌーに乗ること4日目、コンゴ河は今日も海のように大きく、左右には見渡す限り密林が広がっている。大木を切り抜いただけの、わずか数メートルのカヌーには、半裸の漕ぎ手が1人。強烈な直射日光の下、7人の乗客はへりに腰かけ川面をたゆたい、ひたすら1日をやり過ごす。リンガラ語で明日は「ロビ」、昨日も「ロビ」、そして明後日と一昨日は「ロビロビ」という。なぜそんな言語体系になったのかはわからないが、ここでは「今日」がすべてで、今日という1日を乗り切ることがやるべきことのすべてに思えてくる。

昨晩はカヌーを雷と嵐が襲った。暗闇の中、押し流されそうになりながら河の中州に逃げ込み、全身びしょ濡れになって、皆で身体を寄せ合い、嵐が通り過ぎるのを待った。そんなとき、コンゴ人は互いに顔を見合わせ、大笑いして、「コンゴマタター」という。「コンゴは大変だー」という意味だ。私も心の底から大笑いする。極限までの忍耐と爆発するような感情が交互にやってくる日々。日本のありふれた進学校の中高一貫校での6年を終えたばかりの自分には、初めて自分自身の人生を手に入れたような気がした。自分の人生は自分で決めていい。ここに来たことは、間違いではなかった。

「東大に合格したら100万円あげるわよ」。祖母のひと言がきっかけだった。合格発表を見た翌日には教務課へ行き、休学届を出した。数か月後にはコンゴ川でカヌーに揺られている。世界は狭い。

カヌーと鉄板船を乗り継ぎ、コンゴ河を下り終えると、私は隣国アンゴラの飛び地、カビンダに渡った。その頃には、リンガラ語の日常会話には困らなくなっており、仲良くなったコンゴ人闇両替商の青年の家に1週間ほど居候し、彼の仕事を手伝いながら生活をしていた。炎天下の路上で闇チェン(両替)営業をし、夜には元締めに返すための現金の束を、裸電球ひとつの部屋でひたすら数え続ける毎日。ビールを飲みに行ったり、ナイトクラブに行ったり....
すっかり現地に溶け込んで暮らすうち、一つ悟ったのは、彼の人生には選択肢がないこと。それとは対照的に、自分の人生には選択肢があること。まだ、アフリカに携帯電話もインターネットも普及する前の時代の話である。

この時の経験がいまも自分の価値観のベースになっている。すべての人が自分で自分の人生を決められるようにすること。そのための機会を創り出していきたい、というのが私の信念だ。


その後、大学を卒業した私は日本の大手商社に入社し、アフリカのナイジェリアに駐在。現地政府と共同で大規模なインフラプロジェクトの開発・投資を手がける中で、現地で湧き上がるスタートアップシーンを見て、ベンチャーキャピタリストへの転身を決意。ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得し、日本の「ケップルアフリカベンチャーズ」のキャピタリストとしてナイジェリアに舞い戻った。
(*品田の当時のエピソードは、こちらにも詳しく載っています。)

ビジネスパーソンにとってのアフリカの魅力―なぜ、いまアフリカなのか?

2020年現在、アフリカの風景は15年前と比べて大きく変わり始めている。アフリカの辺境の小さな村でも、携帯電話が外の世界につながる小さな扉となり、そこから情報とお金が入り込む。オフラインで、実態のよく分からなかった、13億人の市場が外に開かれるようになった。

こうした変化を敏感に察知し、商機につながるイノベーションを起こしているのが、アフリカの起業家たちだ。彼らは、たいてい欧米の大学/大学院を卒業し、海外のブルーチップ企業で働いた後に祖国に戻ってきた、新世代のピカピカのアフリカ人たちだ。外の世界を知っているがゆえに、自国のリスクと機会を客観的に見る目も持っている。かつては「頭脳流出」一色だったアフリカにいま「頭脳回帰」が起きている。産業と社会の仕組みを根本から変えようとするパワーで満ち溢れた、若くて優秀な人材が、アフリカに舞い戻り、パラダイムシフトを起こしている。

彼らのビジネスモデルは、例えばこうだ。

アフリカの農民は従来、消費市場から遠く離れた農村で、市場価格も需要もわからず、非効率でロスの多い農業生産をおこなってきた。農民が種子や肥料を購入したり、収穫物を販売するとき、多くの中間商人が介在し、それらの取引は伝統的に紙とペン、または口頭ベースでおこなわれてきた。
そこに、スタートアップがデジタルプラットフォームを提供し、サプライヤー、農民、バイヤーの3者をダイレクトにつないで、彼らの取引をオンライン化する。それにより、中間マージンの搾取を減らし、取引の透明性・効率性を改善することができる。また、取引データの蓄積に伴い、アルゴリズムによる与信判断で農民に融資を提供することも可能になる。アフリカにおいて、銀行サービスにアクセスできない人口の大部分が農民であるが、この融資によって農民は農業生産に必要な投資を拡大し、収穫を増やすことができる。その結果、農民は経済力が向上し、今度は、消費者として、さらに多様なオンラインサービスの潜在ユーザーになり得るという好循環が生まれる。

これは、本来銀行が担うサービスをスタートアップが代替している例だ。アフリカにおいては、そもそも政府はガバナンス能力が低く、質量ともに公共サービスが全く足りていない。こうした状況をスタートアップが代替/補完する事例が増加している。たとえば、道路の未整備に対してドローン、未電化地域に対してソーラーを使った分散型電源、医療機関の不足に対して遠隔医療、不十分な学校教育に対してリモートラーニング、といった形で。本来政府が提供するべきサービスをテクノロジーによって効率的、かつ、低コストで提供することが可能になる。

2019年にアフリカにおけるベンチャー投資金額は2000憶円を超えた。圧倒的なトップ2カ国がナイジェリアとケニアで、それぞれ500億円以上の投資規模を誇る。(*1) これは、インドの2000年代半ば頃のベンチャー投資金額とほぼ同額だ。言い換えると、ナイジェリアやケニアのスタートアップは、インドの15年遅れでこれから大成長を遂げるポテンシャルを秘めている。

人口という観点からも、アフリカが世界にもたらすインパクトは強烈だ。

国連によると、アフリカは世界で唯一、2100年まで人口成長が続く見通しとなっている。アフリカ大陸の人口は現在13億人だが、2050年には25億人、そして、2100年には45億人に達すると見込まれ、2100年の世界人口109億人のうち、なんと40%以上がアフリカ人となる。アフリカの中でも最大の人口を誇るナイジェリアは現在2億人だが、2050年には倍増して4億人を突破し、インド、中国に次ぐ世界第三位の人口大国となる。

お分かりいただけるだろう。日本企業は今こそ、アフリカ進出を検討すべき時期なのだ。

アフリカに行くと、人生への向き合い方が大きく変わる。毎日のように予想外のことが起きても、それを乗り越えながら明るくしぶとく生きる現地の暮らしのスタイルは徐々に自分の中にも浸透していく。たとえば、どんな状況でも何とかなるという、実用的な楽観主義が身につく。リスクへの許容度が高くなるのと並行して、リスクが表面化したときへの対応が自然体でできるようになる。例えば、私がナイジェリアでナイフを持った10人組に襲われたとき、「10対1は不公平だから、10人の中からまずリーダーを選ぶべきだ」と相手を説得した。その後、10人の中からあまり自信のなさそうな1名が選ばれた。残りの9人には遠くで待つように伝え、リーダーと1対1で話をした。雑談をして、身の上話を聞いているうちに、相手も打ち解け、最後は5ドルサポートしてあげることで決着した、という具合だ。

不確実性の高い世の中において、予想外の連続で溢れているアフリカ的な暮らしのスタイルは大きなヒントになるはずだ。アフリカはいいぞ!

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最後に、これからnote・Facebookを通じてアフリカスタートアップ情報を発信していきます。note・Facebookのフォローもお待ちしております。


また、ナイジェリアのスタートアップに関心のある方は、こちらも併せてご覧下さい。


(*1) Partech 2019 Africa Venture Capital Report参照

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