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世界の電力インフラに革命を起こすナイジェリア発スタートアップ 「SHYFT」

停電が起きると、ナイジェリア人は「またネパかーーーー」と溜息をつきます。しかし、「ネパ」は本来、停電を意味する単語ではありません。

ナイジェリアの国営電力会社のNEPA:National Electric Power AuthorityをNever Expect Power Alwaysと読み替えて、NEPAというのです。(* NEPAは現在民営化されて解体しましたが、停電が起きると今でもNEPAという言葉が使われています。)

停電のことを人々が「NEPA」と言ってしまうくらい、電気の供給が不安定なナイジェリア。その電力事情を、少しでも改善しようとするスタートアップがあります。その名も、「SHYFT」です。さらに、SHYFTの技術は、日本をはじめとした先進国においても、分散電源を管理するためのプラットフォームとして先行モデルとなる可能性を秘めているのです。

1. ナイジェリアの電力事情

スタートアップ「SHYFT」を紹介する前に、ナイジェリアの電力事情について簡潔に話します。不安定な電力供給によってGDPの5%が失われている(*SHYFTの調査による)とも言われているように、ナイジェリアでは、公共のグリッド(送電網)からの電気がほとんど来ず、1日の半分以上停電しています。

そのため、基本的には、自家発電機やソーラー、バッテリーを併用しています。

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(ナイジェリアの町中にある発電機)

しかし、この過程で、発電機の起動と停止、燃料の管理、消費量に見合わない発電量、高頻度での電源切替、機器の故障、複雑なオペレーション、手動での切替と誤操作、等々により、多くの非効率が発生しています。つまり、常にグリッドの停電がある中で、自家発電機・ソーラー・バッテリーといった多様な電源の管理に費やす労力とコストが膨大なのです。

これまでにも、モニタリングを可能とする技術を提供する会社はありましたが、発電機を新しいものに変えたら、そのモニタリング機能も使えなくなってしまったり、他の自家発電、ソーラーとの連携の部分には対応できない、ということが生じていました。

2. インフラに革命を起こすナイジェリア発スタートアップ 「SHYFT」

そこで生まれたのが、SHYFTです。

創業者である女性起業家・Ugwem I. Eneyo氏は、ナイジェリアの石油・ガス生産の中心地で育ち、小さい頃からエネルギー開発と環境に関わる問題を身近に感じていました。その後、ExxonMobilの石油化学プロジェクトの環境規制対策を担当した後、Stanfordで土木/環境工学の修士と博士課程に進み、SHYFTを創業。

弊社とUgwemの接点は、2018年冬のボストンにさかのぼります。Ugwemは、選ばれしアフリカ人起業家が集まるHarambeansの一員としてHarvardのイベントに参加しており、当時Harvard在学中の弊社投資担当・品田と出会いました。元々、ナイジェリアでエネルギー案件を開発していた品田は、UgwemがShyftで創り上げようとしているビジネスモデルを知り、感銘を受けました。

それから2年の時を経て、今回、Kepple Africa VenturesはSoftbank Investment Advisors、Norrsken Ventures等とともにSHYFTに出資しました。

SHYFTは、グリッドと分散電源(ソーラー+電池)、自家発電(小型のディーゼル/重油発電機)といった多様な電源を最適に管理します。さらに、これらの電源同士を繋げる仕組みを提供し、自動切替も設定可能です。

約1分の下記動画もご覧になると概要がお分かりいただけると思います。

SHYFTを使えば、常にモニタリングが可能であり、遠隔でも操作でき、コストの透明性も担保できる。もちろん、オペレーション、メンテナンスに割く時間を大幅に削減できます。

これまでにも、電源のモニタリングをする会社はありました。しかし、SHYFTの優れている点は、色々なメーカーに対応できるプラットフォームを提供し、複数のアセットを単一のシステムとして運用できる点です。さらに、SHYFTはモニタリングの域を超え、自動制御や自動切替えを通した最適化までをも提供するのです。

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(SHYFT、概念図)

SHYFTは高い技術性を持つ”Deep Tech”と言えますが、創業者のUgwem I. Eneyo氏自身がStanfordで土木/環境工学を修得し、CTOもStanfordにおいて環境工学の修士号を取得。さらには、Tesla、仏EDFの関係者がアドバイザーを務めています。このように、専門性の高い創業者らと、経験豊富なアドバイザーによって、高い技術力を保持し、圧倒的な存在感を放つことが出来ているのです。

3. 日本にも「SHYFT」?!

SHYFTの技術は、停電が頻発するナイジェリアだけでなく、日本や他先進国にも転用可能な技術になり得ます

というのも、グリッドと分散電源(ソーラー+電池)、自家発電(小型のディーゼル/重油発電機)といった多様な電源ソースを最適に管理し、これらの電源同士を繋げる技術を持つSHYFTは、分散電源(DER:distributed energy resources)で発電した電気を売買し合う世界のインフラとなり得るからです。

先進国において、再生エネルギーと分散型電源の普及が高まり、電力をより柔軟に双方向でやりとりするためのインフラが必要になる、ということが今後見込まれます。SHYFTの技術を用いれば、消費量に合わせて、企業や各世帯が所有する分散型電源による発電と蓄電、配電の調整を最適化でき、クリーンエネルギー社会への移行を促進することができます。

日本のようにグリッドの発電がすでに十分安定していると、分散電源は環境保護やサステナビリティの目的で普及するものですが、ナイジェリアのようにグリッドが機能不全に陥っている国では、分散電源がマストです。だからこそ、ナイジェリアのほうが、分散電源を制御するプラットファームの必要性が高く、先進国よりも先にこの技術が成長できる土壌が存在していたのです。

SHYFTの構築する分散電源制御システムは、来るべきP2Pの電力取引インフラの先駆け的存在であり、アフリカ発 超イノベーションの代表例として、今後の成長に期待大です。

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