研究文献まとめ1

【文献】脳波のカオス解析で適当に読んだ研究文献をまとめてみた1

「脳波」「カオス」「リアプノフ指数」「アトラクタ」などの研究分野で,気になる文献を一度まとめておこうと思います.

1.問題解決における思考リズムの変容―ダイナミカルシステム・アプローチの観点から―

 桜美林大学大学院,前田優輔さん,鈴木平さんの研究より

研究内容
 指尖脈波の時系列データに対して最大リアプ ノフ指数と KS エントロピーの算出,アトラクターの再構成を行いカオス解析を実行.実験課題は,「加算課題」と「創造課題」を課し,論文中の定義ではそれぞれ「収束的課題群」と「拡散的課題群」としている.

結果など
1.収束的課題(内田クレペリン) → 最大リアプノフ指数の減少
2.拡散的課題(ロゴ制作) → 最大リアプノフ指数の増加, KS エントロピーが減少.アトラクターの空間的幾何学構造は安静時よりも減少.
3.思考内容の特徴が最大リアプノフ指数の時間推移の仕方に影響を与える

興味・関心
 通常,思考実験をするときは生体信号として脳波を測ると思うが,原著論文では尖脈脈波を解析していた.カオス解析に違いが出たので思考情報は脈波にも反映するということが面白い点である.脈波は脳波に比べ計測しやすい(ノイズが乗りにくい)ため脈波でヒトの状態推定ができるということは大きなメリットではないでしょうか.
 最大リアプノフ指数の値を心理状態のゆらぎ量として活用し,その時間推移を確認することでヒトの状態を推定している点も面白い.拡散的課題の場合,やはり思考はばらつくものと考えることは普通でありリアプノフ指数は高くなるとい結果も納得である.
アトラクターの 再構成時には Takensの埋め込み定理を使用しており,遅延時間 τと埋め込み次元mのパラメーター設定はそれぞれ τ=500 msec.,m =4であった.今後おいらが追実験をやるときには参考にしたい.

2.リアプノフ指数による非線形脳波のカオス性検討

 東京電機大学大学院の具永基氏さん,川澄正史さん研究より

研究内容
 エピソード記憶想起の実験系を組み,その際取得した7チャンネルの脳波に対しリアプノフ指数を求めカオス性の検討を実施している.被験者にはあらかじめ15種の単語ペアを暗記させておき,20分後にランダムで単語ペアを見せる.その表示の中に偽のペアが混入されているが,もし真のペアであった場合,ボタンを押すということをする.

結果
 原著論文から結果を引用します.F3やFzなどは,国際基準10-20法に基づく脳波計測位置を示す.

興味・関心
 結果を見るとリアプノフ指数の値が小さいかな?という印象があった.そのため,ボタンを押すという記憶を想起する作業と,カオス性の関係にあまり違いがわからない結果であった.原著論文ではアーチファクトの懸念があったが,もう一度実験系を組み直すべきなのでは?と感じた.

3.トポロジー的アプローチによる不安定不動点の探索

 野村総合研究所の前原孝章さん, 伊藤賢司さん, 中井幹雄さんの研究論文

研究内容
 トポロジーの手法を利用し不安定不動点を求める方法の検討を実施している. 値計算 によって得られたアトラクタ上の不安定不動点の位置を正確に求めることを狙っている.非線形振動子の一つであるDuffing振動子を用いてストレンジアトラクタの描写(グリッドによって離散化した結果)を実施している.

結果と興味
 数値計算をとことん行い,ストレンジアトラク上の不安定不動点位置を予測することが可能であることがわかった.それまでの処理が多いためちょっと理解ができなかった箇所はあるが,この結果はカオス解析や制御の分野で大いに活躍しそうだと感じている(簡素ですいません).

4.脳 ・神経のカオスとそのフラクタル次元解析

 東京電機大学工学部電子工学科の石橋秋彦さん,合原一幸さん,小谷誠さんの研究より.すごくわかりやすいので,おいらオススメの研究内容です.

研究内容
 生体非線形システムを数学モデルで記述する際に,如何にモデルの自由度と設計変数を小さくできるかという試みをしており,1変数の時系列データを相空間に再構成し,アトラクタ次元を求める.
解析対象は,「ヤリイカの巨大軸索膜における非線形振動」「脳磁界アルファ波」である.後者の対象としている脳波は,電位ではなく磁界を使用しているのが面白い.いわゆるMEG.

結果
 ここでは,ヤリイカの方は置いといて,脳磁界アルファ波について取り上げる.結果は原著論文からの引用である.

 図3より,脳磁界のパワースペクトルよりきちんと10Hz付近にピークがきていることがわかる.このデータに対してフラクタル次元dsを計算しているのが図4であるが,埋め込み次元nごとに計算しており,著者らはdsを4.7であることを示している.

興味・関心
 非線形システムのモデル化をする際に,いくつの自由度が必要であるかを探索しており,著者らは少なくても5次元の有限次元で現象の特徴を記述することができるとしている.脳波を研究しているおいらもすごい参考になったデータである.今回はアルファ波の解析であったが,例えばベータ波を解析しようとするとこの次元はどのように変化するのかなどまだまだ関心はあるが,この実験結果と生体機能との関係を明らかにできたらさらに良いかなと...

 相関次元を算出する際に,遅れ時間τの設定は通常サンプリング周期の整数倍,さらにその信号の主要周期(例えば, パワースペクトルのピークに対応する周期)の数分の1程度に選ぶということは参考になった.脳波のように主要周期が見られにくい場合はどのような値を選べば良いか関心があるが,著者らはτをサンプリング周期の整数倍としていた.

5.脳波のカオス解析を用いた着脱衣における温冷感の評価

 信州大学の堀場洋輔さん,上條正義さん,細谷聡さん,佐渡山亜兵さん,清水義雄さん,宇都宮大学の清水裕子さんの研究より,

研究内容
 脳波を計測して着心地の定量的評価を実施している.具体的には着脱時の脳波の相関次元を計算し温冷快適感との対応関係を調べて新しい評価尺度を提案している.脳波計測位置は,10-20法に基づきP3,P4の頭頂部の位置(感情,認識に関連のある部位)である.(a)上着着衣時 (b)上着脱衣30分後 (c)上着再着衣時を調べている.相関次元の時間遅れτは80msec.であった.これは自己相関係数の自己相関が高くない値らしい.埋め込み次元は2から14である.

結果
 結果は原著論文からの引用である.

(a)上着着衣時 (b)上着脱衣30分後 (c)上着再着衣時の全ての状態で埋め込み次元mを2から14まで(2ずつ)相関次元を計算している.結果をみると(a)と(b)の状態ではmをあげると6近くまで相関次元が上昇しているのがわかる.(c)は5弱.また論文では被験者全員の快適感と温冷感のアンケート結果を比較してるが,あまりこれといった傾向が見られない.

興味・関心
 
アンケート結果からは,着脱衣に伴いストレス値とカオスの評価が考えられるが,これといった特徴は出てないと感じる.しかし,相関次元の計算の仕方(傾きの計算)はきちんと考えられており大変参考になる論文である.アルファ波だけではなくベータ波も解析に含めたらもしかしたら快・不快の評価ができる可能性があるのかなと個人的に思った.


まとめなど色々です.

 色々と興味深い研究がたくさんあって面白かったです.相関次元の計算には傾きを出す際のスケーリング問題や,遅れ時間τをどのくらいにするの問題など色々とあるので参考になりました.個人的には,堀場洋輔さんの論文(脳波のカオス解析を用いた着脱衣における温冷感の評価)でいろんな信号の相関次元が提示されていて,面白いと思ったのでシェアします.

例として完全にランダムな信号としてホワイトノイズ,周期的な信号として正弦波,決定論的カオスにしたがう信号の相関次元を函1に示す.ホワイトノイズは無限の自由度を持つ完全にランダムなノイズであるため,埋め込み次元を増加させて相関次元を算出しても相関次元は収束することなく発数する.正弦波は完全に周期的な信号であるため,埋め込み次元を増加させても相関次元は変化することなく1.2次元となる.決定論的カオスに従がう信号は埋め込み次元を増加させることによって,求められる相関次元がある値に収束する.                ー本文より引用

皆さんの参考になればです.

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