[すこし詩的なものとして] 0010 風と想う
気づいたら、陽も西に傾いていた。
あたたかな空気は、窓から光が静かに降り注ぐようで、思わず「あっ」というほど、澄み渡っていた。
僕の目に映る、その中の君の顔は、雲を見ているかのように、物静かだけど、決して止まることのない時間とともにあった。
とても淡くやさしい、その顔。
風に運ばれる、忘れたような小さな花の香りが、僕を微笑みかける。
そして、その香りは彼女をも運んできてくれた。
「そろそろ、帰ろうか」
と、立ち上がって彼女は言った。
「もうちょっとだけ」
春の匂いをまとった風は、そんな気分にさせた。
「帰り道に私の言うことひとつ聞いてよね」
「もちろん。ふたつ聞くよ」
彼女はふと微笑んで、顔を下に向けた。
……まもなく3学期も終わる。
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ずっと昔に好きだった子のことを、たまにふと思い出す。
今もその子に会いたかと考えると、案外そうでもない。
あの時、あの場所、あの季節だからこそなのだと思う。
だから、僕の中において重要な記憶で、大切なんだ。
大事な小説をいつまでも手元に置いておきたい気持ちに、似ている。
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