見出し画像

映画『カリプソ・ローズ』を先行で観てきた。

画像1


 妻が観に行くと行ったので、中南米音楽に目が無い私は、頼み込み無理を言って映画館での鑑賞をしたわけです。

https://www.youtube.com/watch?v=SVEw8uVthuU

 細かい、映画の情報は公式のwebサイト( https://calypsorose.jp/ )を見ていただくとして、ちょっとしたレビューを書きたいと思います。

 80歳のカリプソの女王カリプソ・ローズを追った2011年公開のドキュメンタリー映画、15歳から作曲し快楽的な中南米サウンドと自身の考え、社会への批判性や視点をユーモア溢れる言葉で歌うその姿は、カリプソそして後のレゲエと同じく、人生と生活そして社会を深く密着した所から出ており、ミュージシャンそしてメッセンジャーと言えるシンガーとして正しい姿勢であった。また、何よりも年輪を重ねたその姿が放つ色気や美しさを一目見るだけでも価値のあるドキュメンタリー映画かもしれません。

 また、今も続く男尊女卑的なカリプソニアンの中で、50年代から女性として男性の上位になるではなく対等になるという姿勢を打ち出し戦っており、今現在カリプソ/ソカの後続のフィメールシンガーたちのリスペクトを受けている。

 そして、ローズの人生を生まれから紐解くことで、なぜカリプソ・ローズというシンガーが産まれたのかを画面を通じて追体験することができるドキュメンタリーでした。

 この作品を撮ったカメルーン出身のパスカル・オボロ監督は、フェミニズム、ポストコロニアリズムの視点に立ったドキュメンタリーで知られ、カリプソ・ローズというカリプソニアンを通じ社会や音楽における性による理不尽な部分を浮き彫りにし視聴者に訴えています。

 ですが、カリプソ・ローズというカリプソのレジェンドを追ったドキュメンタリーとして、音楽的な部分で期待していた私には大変不満の残るドキュメンタリーでした。

 50年代にデビューしたレジェンドが2011年にニューレコーディングをしているシーンが出てきますが、現在の活動の良さをもっと映像で出して欲しかったし、細切れぶつ切りのライブシーンは音楽のドキュメンタリーとして頂けない。もちろん、カリプソがレゲエのルーツの1つではありますが、映画冒頭一番最初に使用された楽曲がカリプソではなくラスタ色の濃いレゲエのIsrael by Busという所が不思議でした。もちろんカリプソ・ローズがレゲエを吹き込んでいますけど。

https://www.youtube.com/embed/SVEw8uVthuU

 また公式webサイトなどで、

ローズ個人の人生をひも解くうちに、トリニダード&トバゴが生んだカリプソとソカの背景、カーニバル文化の重要性や、アメリカやイギリスに移民するアフロ・カリビアンたちの生き方までも理解できる作りになっている。 

という一文が掲載されていますが、この映画を観てもカリプソとソカの背景は理解できませんし、もちろんアフリカからの奴隷の子孫であるカリプソ・ローズがラスタファリ運動に共感して、イスラエルを歌うということは、ある程度レゲエやジャマイカ音楽文化に通じている人ならピンとくると思いますが、一切触れてない!
アーティストの思想を紐解くならそういう所突っ込んでくれよ!と、もちろん幼い時の男性からの酷い扱いや女性のカリプソニアンとして性に対する向き方など、現代に刺さる所はあり大事だとは思いますが、バランス悪いなと。

 やはり、映画の中でカリプソ・ローズ自身が「ステージの上が本当の自分」と語っていますが、ステージのシーンが大々的にフィーチュアされるシーンがあまり多くなく、音質も迫力にかけるマスタリングがやはり不満でした。同じように音楽を扱った「スケッチ・オブ・ミャーク」のフィールドレコーディングの音質の素晴らしさったらなかったですよ、ほんと音楽に愛情を持ってくれよ!よって映画全体のテンポ感もグルーヴせず淡々としていた印象です。

 カリプソ映画、レジェンドカリプソニアンの音楽を追ったドキュメンタリーとした軸では、全く不満の残る映画ではありますが、カリプソニアンのピコンで男尊女卑的な部分を切る粋なカリプソニアンのドキュメンタリーとしてなら、多少はオススメできるかもしれません。
にしたって、快楽的なグルーヴと言葉が合わさるから機能しているものどっちか添え物みたいになったらいかんよな。

 後これは完全に蛇足ですけど、パンフレットのカリプソ・ローズのプロフィール、もちろんボブ・マーレーは世界的な有名人だから彼の名前を出すのは解りやすいでしょうが、67年にボブ・マーレー&ザ・ウェイラーズは存在していないので嘘はいけません。これ、The WailersやThe Wailing Wailersの事だと思うけど、歴史修正じゃあないですか。

画像2

公式webサイトが煽る#パワフルウーマンつーのもどっか上滑りしてるしな。頼むよ!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?