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フォレンジック・アーキテクチャにビビッときたら。 次に見るもの、読むべきもの

年始の休みが終わらないうちに。

去年はいくつか書き物の仕事をしたんですが、特に国際犯罪調査機関Forensic Architecture(以下FA)の書評は僕にとってひとつの転換点でした。オランダにいる盟友木原共が公開に先立ってFAの展示をレポートしてくれたこともあり、オンラインで公開された記事はそこそこ多くの方に読んでもらえたようです。デザインの政治性や倫理といった、とっつきにくいテーマが広がりを見せたことは嬉しい誤算でした。(FAの強度の証左でもあります)

Eyal Weizman “Forensic Architecture VIOLENCE AT THE THRESHOLD OF DETECTABILITY” 建築が証言するとき──実践する人権をめざして(評者:中村健太郎)


デザインの政治性について、さらに考えるために

そこで年始の休みがまだあるうちに、「デザインの政治性」について考えを広げるためのおすすめコンテンツリストを作ってみました。目標は、FAも扱った「戦闘用ドローン」と、私達「日本人の日常」が地続きの問題であることを示すことです。書評にビビッときて、いいねやリツイートをくれた方々の役に立てばうれしいです。

STEP1. 映画『スノーデン』

アメリカ政府による恐るべき情報収集を告発したエドワード・スノーデン。軍への志願入隊からCIAの活動に不信を募らせて命がけの告発を行うまでを描く実話物語。

いきなりなんでスノーデン?と思われるかもしれません。しかし彼の告発は、9.11以後の「テロとの戦争」における急速な監視体制構築に関係していました。それはドローンの実戦投入、特に「顔も確認できないのに、どうやって標的を認定するか」という問題への、ゾッとするような政治-技術的解決と不可分なのです。

ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演の本作は、いわば最初からネタバレ状態、ともすれば非常に地味な絵にしかならない内容にもかかわらず、緊迫感のある脚本がノンストップで結末まで連れて行ってくれます。絵作り、音楽含め、純粋に映画としての完成度が高く、オススメです。

STEP2.映画『 CITIZENFOUR』

元CIA職員が米国政府のスパイ行為を告発し、世界に衝撃を与えたスノーデン事件。香港のホテルの一室でカメラが回る中、スノーデン本人が事件の全貌を語る。

『ハリウッド版スノーデン』を見たら、次はこれを。スノーデンは、メディアを通した告発のごく早い段階で、英ガーディアン紙を通して自身の存在を公表します。それは自らの内部告発が同僚や身近な人物に危険を与えないため、また国家による非対称な情報管理に対して屈しないという勇気ある態度表明のために、周到に準備されたものでした。

香港のホテルの一室から行われた告発の過程を、スノーデン自ら指名したドキュメンタリー作家がリアルタイムに撮影してまとめた本作。ここまで見れば、FAが知らしめた「ドローン」の脅威を支えるテクノロジーが、日々用いるあらゆるデジタル・デバイスを通して、すでに私達の日常の足元に染み渡っていることがわかります。ハリウッド版がみせた緊迫感の「本物」を、ぜひとも確認してみてください。

STEP3. 書籍『ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争 / グレゴワール・シャマユー

下準備はおわりました。ドローンに戻る時です。とはいえ私達には、スノーデンが告発したこの状況を名指す言葉がありません。「状況を名指せない」ということそのものが、私達の脆弱性になります。2018年に訳出されたの『Théorie du drone』で著者のシャマユーは、ドローンについての哲学を記述する作業を、状況に抵抗する「武器を配るため」と自認します。

内容については、すでに池田純一さんによる素晴らしい書評が公開されているので、ぜひご確認下さい。ドローンに限らず、デザインがラディカルに秩序を組み直し続ける現代社会で、いまだ名付けられていない実在に「理論」を与えることがいかに求められているか──それを再確認させてくれる書籍です。お年玉でポチりましょう。


おわりに

ドローンを切り口にしつつ、スノーデン2連発でお送りしました。実際、スノーデンの告発によれば、日本人のデータもまたアメリカによって盗聴されていたことがわかっています。9.11以後、戦場は「全世界」なのです。

そしてまた、ドローンは切り口のひとつにすぎません。デザインの政治性や倫理について、まずはデザイナーのひとりひとりが、ひいてはユーザーのひとりひとりが、自ら思考し判断できる「デザイン・リテラシー」の高い社会をつくることの重要性をひしひしと感じます。

というわけで2019年は、単に海外事例や別分野の概念を紹介するだけにとどまらず、自分たちの文脈や日常に位置づけることを心がけていきたいと思います。おそくなりましたが、あけましておめでとうございました。今年もよろしくおねがいします。

カバー写真出典:Drone Shadow 002, Istanbul, 2012. Photograph by James Bridle くわしくはこちら

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