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甲子園 フィールド・オブ・ドリームス

渋谷アップリンクに行ったとき目に止まったチラシがあった。「甲子園 フィールド・オブ・ドリームス」。スポーツ映画というジャンルで区切ると、中でも好きなのがケビン・コスナー主演のフィールド・オブ・ドリームス。その副題が入り、甲子園というメインタイトル。気になった。特に今年は気にならないはずがない。チラシを見ると山崎エマさんという日本人監督が監督した作品らしい。またスタッフはすべてアメリカのスタッフで、日米国際共同制作作品として誕生したとのこと。昨年2019年にドキュメンタリー映画祭「DOC NYC」、スポーツ専門チャンネル「ESPN」で全米放送され、夏の甲子園が中止となった今年2020年8月に日本で公開されたドキュメンタリー映画だ。

毎年の夏は8月の甲子園決勝が終わるとそろそろ8月も終わるねーなんて話をしていた記憶があるが今年はあっという間に8月が終わろうとしている。毎日暑い暑いって言っているが18時台には日が落ちてくると夏の終りが近づいていること感じて少しさびしくなる。

甲子園を目指すこと≒人間形成

映画は夏の甲子園地区予選へのレギュラー発表のシーンから始まる。監督からの掛け声や拍手の規律の良さからこれが強豪校か…!と圧倒される。部員も120人位いる。フォーカスされるのは横浜隼人高校。人物としては主に3人にフォーカスがあたる。水谷監督、そしてキャプテン、3年生でレギュラーを狙っている佐藤龍門くん。

山崎エマ監督が世界に甲子園というものを知ってほしいことから制作しているため甲子園とはどんなものかという説明が入る。全国高校野球4000校の頂点を決める大会。それが甲子園であると。部員が平均20〜30人だとしても、全国高校球児は8万〜12万人。いまの高校生は1学年100万人を割っていたから、高校生の3%前後は高校野球をやっているということになる。いろんなスポーツがある中で野球が日本では圧倒的メジャースポーツであることを再認識させられる。

4月。新入生が入ってくる。新入生を中心に水谷監督が指導するシーン、インタビュイーとして語るシーンがある。監督の考え方の象徴されるシーンかもしれない。野球はつなぐこと。ボールがゴールには入れば点になるんじゃなくて、人がベースを踏むと点になって勝つ。だから人を大切に指導するんだと。その考えが部員一人一人に浸透しているようなシーンが多くある。

例えば、キャプテンが監督から一人怒られる。キャプテン自身がプレーの底を上げないと全員レベルアップしないんだと。チームプレーって助け合いが強調されがちな気がするが、個々の力がアップしていかないとチームとして相乗効果がなく、チーム全体の力が上がってこないとわかると同時にキャプテンが監督の言うことを素直に聞いているシーンが印象的だった。彼は同学年一人もやめずにここまでこれたと語ってた。3年生全員で甲子園に行きたいと。その自分が良ければという考えでなく彼自身チームメイト全員を思い一緒に成長するんだという考えが浸透しているようなシーンだった。

新入生教育指導係の3年生部員もいる。横浜隼人高校は各地域から名を馳せた選手が入学してくる学校。野球は下手かもしれないけど凛とした姿で指摘する姿が美しかった。

この記事での山崎監督のインタビューでもこのシーンは語られている。この引用部分はスタッフから監督への質問だが水谷監督が高校野球を人間形成の場としているということがよく伝わった。

Q:新入部員の教育係の子もすごく印象的でした。横浜隼人って名門校だから、それぞれの中学校の野球エリートたちが入ってくるわけですよね、そこで教育係の3年生が、「俺はお前たちより、打てないし足も遅いかもしれないけど、でも自分の役目は教育係だから、そこはしっかり教育するぞ」みたいなことを言うんですよね。17〜18歳くらいで、そんなことなかなか言えないですよね…。彼があの言葉を発したことによって、高校野球に対してガラッと印象が変わりましたし、素晴らしいなと思いました。引用:『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督 NYから帰国後、高校野球が日本社会の縮図に見えたんです。【Director’s Interview Vol.73】

勝利を目指すことは一体どういうことなのか?

映画が進む一方で水谷監督の息子に場面が移る。彼は父親の学校ではなく、野球の名門校花巻東高校に入学する。言わずとしれた大谷選手や菊池雄星選手を輩出している高校。監督は4年ほど横浜隼人で水谷監督に指示した佐々木監督。花巻東の練習を見ると勝利のメンタリティーがある高校だと思った。練習内容とうより勝った時のイメージトレーニングを重ねているシーンがあったからだ。自論だけど勝てるチームは日々の成功体験を大事にしている気がする。勝って当たり前という習慣をつくっていると思う。花巻東も練習で、5-2満塁9回裏で最後の1球を投げるというシーンを想定して練習してアウトを撮った瞬間、練習だけど本気で喜ぶということを繰り返していた。客観的にみると笑ってしまうけど本気さが伝わってくる勝てるチームということが伝わるシーンだった。

映画では甲子園の予選が始まる。フォーカスされる横浜隼人は1回戦で逆転負けとなってしまった。なぜ横浜隼人は1回戦で負けたのか。あるシーンで用務員のおじさんが、

時代だね。いいものは残して特に理由がないものは変えたほうがいい。変化できるものが生き残る。

と言っていた。監督は負けた理由として、

選手とのキャッチボールが足りなかった。会話が足りなかった。

と言っていた。この監督がいうキャッチボールは監督からこうしようああしようという指導のことだと思う。選手も自分の意見を持ってそれを発言できて実行できる環境が必要だったのではないかと監督は考えたのではないか。並々ならぬ意気込みを持って望んだ大会で負けてしまった水谷監督はまさに今までのやり方ではだめだ。変わらないとと思った瞬間なのかもしれない。

スポーツだけでなくてもなんでも「勝つこと=望むことを手に入れること」において、今までうまくいっていたやり方や上司や先輩の経験をただ仰ぐというやり方が通用しないことをこの映画を通じて考えさせられる。

高校野球は100年以上の歴史を通じて日本社会の文化の象徴でもあり、その高校野球の文化を経て日本社会に出てくる人数も多い。高校野球は日本そのものなのかもしれない。この映画を観て改めて日本の今と近代の日本は地続きである当たり前のことを認識した。勝つ=望むことを手に入れることは日本人一人ひとりの考えが変わって行動しないと全体が変わっていかないんだということを考えさせられる映画だった。

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