サウンドスケープ視点で考える、持続可能なストリートピアノ文化
公共空間で音を楽しむことにこれだけ賛否両論があることに僕は悲しく気持ちになっている。
視聴形式はホール文化が出来上がってから、多くがそれに沿って音楽を営んできた。
そしてそれを良い意味で破壊してみたのが環境音楽だった。
環境音楽は楽器の音だけでなく空間に存在するあらゆる音を音楽と同様に楽しむ、そして演者はその空間特性を考慮して最適な音空間体験を提供する、というのが僕が見聞きした環境音楽の概念である。
まさにストリートピアノ文化は環境音楽的だと言える。
それは演者・聴衆・音環境・空間特性が一体化して初めて心から楽しめる音楽視聴文化だと思うが、これに賛否両論が渦巻いているのは、まるで音楽ホールで演者と聴衆環境だけの関係性を作ってしまい公共性を無視してしまってるからに他ならない。
当然演奏している音に魅力される人もいればそうでない人がいる。
みんなが気持ちよくなれる音楽体験を作るべきだ。
そしてこの問題を紐解くとさらに改善すべき余地があることがわかった。
どうしたらこの文化がいい方向に向かうか音環境をデザインしてる身として考えてみたので、まずは原因を掘り下げてみる。
原因その1 ピアノ演奏の在り方
僕は一度だけストリートピアノが使用されてる場面に遭遇したことがある。そのときは演者は少し明るめの音楽を弾いてた気がするが、かなり音が反響していた。
その理由はどうやら鍵盤の叩き方に原因があるようだった。
床がマットだったりそれなりに音響対策が取られている空間であればいいが、場所によって音の反響は微弱ながら身体にダメージを与えかねない。
おそらくピアノが置かれている空間の多くが反響しやすい空間ではないだろうか。
反響はその広がりによって荘厳さや神聖な空間体験を演出できる特性があるので、設置場所は音楽ホールに近い環境をイメージして採用しているのか?と思ったが、上記太字の「場所によって〜」はまさに環境を考慮してないからこそ起きてしまう問題だ。
公共空間に対して僕らは無意識に静寂を要求しているからこそ、一定数の人たちがその静寂を阻害されたと感じてしまう状況になってしまってるのではないかと思った。
基本的にストリートピアノは人々が集まるようなところではなく、ほとんど通り過ぎてしまうような場所に置かれているため、何か演奏してるなーくらいの程度で通り過ぎてしまえばいいのに気になる人にはかなりダメージが大きいようだ。
僕もそのような場面に遭遇したとき、激しいタッチで数曲連続演奏されると流石にストレスになった経験がある。
音がこだまして耳の中で反響が続くからだ。
原因その2 人々の寛容性の在り方
日本人は音に敏感になってしまった。
僕もそうだ。特に住宅の騒音問題は深刻だ。
縁側のような昔の家屋はウチとソトの世界を繋げてることで、あらゆる音が鑑賞の対象となっていたと考えられる。
だが現代の住宅は防音機能が格段に高まったのとプライバシー保護意識の高まりや他人同士のこころの距離が離れていっていることも原因の1つになっているのではないかと勝手ながら想像している。
つまり自宅以外の公共空間にもプライバシー意識が浸透していることから、ピアノの音が騒音と捉えられてしまうというのが僕の答えだ。
子どもが遊ぶ声も騒音問題としてメディアに取り上げられていたが、これも原因は上記に近いのかもしれない。
西洋とは異なる音楽文化
それから音楽文化もあるだろう。
日本はあらゆる事柄を西洋から取り入れようとしそれを流行にしようとするが、そんなもの文化が違うのだからハマる方がおかしい。
イタリアでは(コロナ前まで僕はイタリアに毎年行っていたのでこの情報しかないが)公道でイベントをすることが日本よりも受け入れらていて、音楽文化は身近な存在になっている印象だった。
これが文化として根付いていることが持続可能な路上演奏の文化につながっているのではないだろうか。
これは法律的な問題も絡んでいるが、昨今の日本ではマルシェなどのイベントが開かれるようになってきているものの、音については路上ライブはまだなかなか受け入れられてない現状だ。
当然、文化の違いも大きな要因の一つである。
日本の路上ライブは歌ものが多いことに対しヨーロッパではインスト音楽の路上ライブが一般的になっている、少なくとも僕の経験ではそんな気がする。
日本ではウチとソトの境界線がハッキリ分かれていて且つ路上でのイベント事が盛んではないため、不可抗力な暗騒音(ノイズ)意外に発生する楽器の音や子どもの遊ぶ声などに必要以上に警戒してしまっているのかもしれない。
音が聞こえることが当たり前な状況ではないということだ。
そしてそれを受け入れる社会と個人の体制が整っていない。
日本社会は共同体から個人に変わっていった結果、ヨーロッパではあまり見受けられないこのような問題が起きている。
つまり
1 日本では空間の役割が固定化されている(法律的に?)
2 1が原因で路上演奏文化が育ちにくい環境、仕組みの中で無理やり遂行とする
3 2の原因と社会の仕組みで固定化された概念のなかで、いきなり音楽が聞こえるとプライバシーが脅かされていると感じてしまう
という構図が出来上がってくる。
以上のことから、改善できる項目を挙げてみると
・演者の音楽教育
が演者の演出力を養い
・社会の空間に対する考え方
が聴衆が音に対して寛容になる
の2つがありこれらを改善していけば心地よい音楽空間体験ができるはずだ。
ではこれから改善方法を探ってみる。
演者側の改善方法
その1
空間の反響を考慮して演奏する
音の響き方は千差万別。まずあなたは演奏する前に空間の響きを確認することから始めてみよう。
音が吸音される空間であればそこそこ音を出しても問題ないだろうが、反響の大きい空間では静かに弾くことをお勧めする。
ピアノの音は90dBを超えるとされ、これは一般的な騒音レベルの指標から見れば騒音に分類されてもおかしくない。
つまり公共空間では文化上一定数が騒音として受け止めている人がいて、そういう人たちがいることを演者は受け止めなければならない。
ただ弾きたいという気持ちだけで力強く演奏することはあなたしか得をしない確率が高いだろう。
公共空間で演奏するときは普段よりもそこそこの騒音状態であるため、ある程度の音量で弾かないと僕らの耳に届かないことがあるが無理に聞かせようとしなくても良いのではないか、大衆の騒音に演奏している音が混じってしまっても良いじゃないか、と僕は思うが読者の方々はどう思うか?
その2
公共空間で演奏するとはどういうことかを演者自身が考える
その空間はどのような場所なのか、どのような時間なのかを考えながら演奏してみてはどうだろうか。
例えばショッピングモールは賑やかだから明るい曲が雰囲気をさらによくするかもしれない。
僕が体験した某駅のコンコースでは電車を待つ人たちや通行人がいたが、ショッピングモールとは空間特性も流れている時間感覚も違うことから落ち着く曲が合うのかもしれない。
このように空間によって雰囲気・僕らの心情は変わるのでそれを包み込むような音楽演奏が最高の演出を提供できると考えられる。
逆に意表を突いて、全く違う雰囲気の曲を演奏してガラッと空間を変えてしまうことも可能ではあるが。。。音楽は注意を引くし、魅了される優れたツールなのは周知の事実であるとともに、一瞬にして空間の雰囲気を変えてしまう諸刃の刃であることも演奏者は意識しておくべきである。
プロ・アマに限らずこれらを心得て演奏してこそ音楽は聴衆にとって「音を楽しめる」ものになるのだ。
その3
運用方法を見直す
大音量で同じ曲やその空間にふさわしくない曲を弾いたりするという現状から、どのような曲がその空間をより心地よい場所にしてくれるのかを運営側と演者側両者が考える必要がある。
例えばピアノの前に立て看板やピアノに張り紙を付ける、内容はこの空間がこんな雰囲気になるような曲を弾いてください、やこの時間帯に弾くときはこんな雰囲気の曲が空間に合いますなどまずは音楽教育をする必要がのかもしれない。
ここまで制約する必要はないと思うが、西洋とは音楽文化が異なるのであちらのものを日本でもやりたいのなら少しずつ土壌を作っていくしかない。
簡単に文化をコンテンツとして当てはめようとするから上手くいかないしこんなの文化を舐めてるようにさえ思える。
音楽とは何か、環境への音楽とは何か、空間とは何なのか、この事案に絡むあらゆる問いを空間ごとに答えを導いていく必要があるのだ。
こういう時こそサウンドスケープ関連の人たちの出番じゃないのか?
やらないなら僕が皆さんと一緒に土壌を作っていくつもりであるが。
これらが育まれないと、昨今の再開発に見られる屋外空間で似たような取組みをしてもまた問題化するに違いない。
だからこそこのブログを多くの音楽家や自治体の方々に見ていただきたい。
そして一緒に空間を作っていきたい。
僕はこんな音楽を演奏してくれる人がいると心地良いなと感じるだろう。
終わりに
読んでいただきありがとうございました。
僕は音楽家と株式会社神山聴景事務所の代表を務めています。
聴景事務所では聴景デザイン(商標登録済)という音環境のデザインを商業施設やオフィスに展開しています。
だからこそこの問題には以前から注目していました。
そもそも日本だって音には寛容だったはずです。
それが社会構成が変わっていったことで空間もこころも閉ざされた社会になってしまったのではないかと感じています。
みんなが気持ちよく過ごせるような空間を提供するのが音環境のデザインをしている者の使命だと思います。
今後とも応援よろしくお願いいたします。
株式会社神山聴景事務所
神山健太
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