見出し画像

知れば上達し楽しくなる「料理のキホン」

料理家・樋口直哉さんの『おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン』スマート新書として発売された。私はこの本の編集を担当させていただいた。

料理には理論がある

料理がずっと苦手だった。

レシピを見ても「小口切りって何?」「なぜ、最初に塩を入れるの? あとじゃダメなの?」とかってなるし、料理をしながら自分が何をしているのかもよくわからなかった。やっていることがわからないので、当然、上達することもなく…。

そんな私もcakesで樋口さんの連載を担当するようになってから、料理には理論があり、原理原則を抑えておけば、レシピに頼らずともおいしい料理をつくれるということを知った。

その原理原則をコンパクトに解説したのが、今回発売されたスマート新書『おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン』だ。

料理の理論って?

料理の理論といってもそんなにむずかしいものじゃない。

たとえばお肉の焼き方。肉は加熱しすぎると硬くなるので、火を通し過ぎない方がいいとはよく言われる。では、火加減はどのくらいがいいかとか、加熱時間はどのくらいがいいかにはっきりと答えられるだろうか?

ステーキでも焼肉でも、肉は硬くなりすぎずジューシーで、表面はこんがり焼き目がついた感じがおいしいと思う。どうやったら硬くなりすぎずジューシーを実現できるのか? 今回の本にはこのように書いてある。

肉のタンパク質はおよそ50℃から固まりはじめ、55℃で弾力が出てきます。60℃になると縮みはじめ、水分が外に出てくるので、ミディアム・レア〜ミディアムを目指すのであれば、この手前で加熱をとめます。65℃で灰色になりはじめ、70℃で完全に灰褐色になり、肉汁はほとんどなくなります。ここまで焼いたら「焼き過ぎ」です。
(中略)
いずれにせよ、焼く時間が長くなるほど、水分が蒸発する量も増えるので、1.5㎝〜2㎝くらいの厚さの肉であれば、水分が蒸発する前に一気に焼き上げたほうがジューシーに仕上がります。

食材についての、この知識がベースとなる。つまり柔らかさを実現するためには60度を超えないようにすること、ジューシーさを実現するには加熱時間を最小限に留め、水の蒸発を防ぐこと。

一方で表面はこんがり焼き付けたいので、高温で熱する必要がある。弱火ではこんがりしないので火加減は中火か強火ということになる。ただ肉の厚さにもよるが、強火だと内部に火が通る前に表面が焦げてしまうかもしれない。肉の表面に水分があると温度が上がりづらいので、表面の水分を拭き取っておく必要もある。

フライパンの温度が低い状態で肉を入れると加熱時間が長くなって水分が失われしまうし、表面がこんがりする頃には中に火が通り過ぎてしまうので、フライパンを十分に熱してから肉を入れた方がよいということもわかる。

こんな風に、やり方を覚えずとも論理的に考えていけばやり方が見つかるようになる。

今は説明を簡単にするため、「肉を焼く」というシンプルな例をもってきたけど、これはほかのどの料理でも同じだ。

必要なのは食材の知識と、調理法の知識ということになる。だから、このスマート新書では、前半を煮る、焼く、蒸すなどの調理法で構成し、後半を、野菜、肉、魚と食材別に構成している。

素材と仕上がりのイメージの間を埋めるのが料理

自分自身がそうだったのだが、料理が苦手な人は出来上がりのイメージを持っていない、あるいは意識していないことが多いと思う。ご飯はもちもちがいいのか、パラパラがいいのか、野菜はシャキシャキがいいのかくたっとしたのがいいのか。

ただcakesで一年強、樋口さんの連載を担当して、この仕上がりのイメージは極めて重要だなと思った。連載の記事を見ていただくと、「餃子のおいしさは底面の香ばしさと皮のもっちりとした食感です」などと、どういう仕上がりを理想とするのがよく書いてある。このイメージがないとゴールが見えないので、どう進めていいのかわからない。

昔、自分が料理がよくわからなかったのは、そもそもどういうものを作りたいのかがはっきりイメージできてなかったことも原因のような気がする。そのイメージを実現するための方法論(調理法)も知らなかったのだけど。

考えてみたら当たり前のことなのだが、食材と仕上がりのイメージの間を埋めるのが料理だろう。だから食材についての知識(加熱することで食材にどういう変化が起こるのかなど)と調理法についての知識(焼くや煮る、蒸すなどの調理法の違いや特性)を知っておくことが大事なのだ。

仕上がりイメージを明確にするには、美味しい料理を食べて、どういう状態を美味しいと感じるのかを言語化しておくことも大事だろう。そのイメージと「料理のキホン」の知識を抑えていれば、あとはどうやって目指すべき料理を作ればいいかは、自ずと答えが出てくるんじゃないか。まだその境地に達することはできていないけど、そんな風に考えれば料理がよりクリエイティブな行動になるし、料理の技術を日々ブラッシュアップする楽しさも感じられるようになると思う。

スマート新書とは?

本の全文をcakesでも掲載中です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?