ゲームメカニクス

ゲームデザイナーの仕事(2)〜ゲームプレイとゲームメカニクス〜

序章となる前回記事では、ゲームデザイナーの仕事についてまだ詳細な話を始めていないにも関わらず、予想以上の反響をもらえたので、連載を続けて期待に応えていきたい。多分、週に1回くらいのペースなら問題なく続けられると思う。

「ゲームプレイ」とは

ますはじめに「Gameplay/ゲームプレイ」という言葉の定義について少なくとも本連載における共通理解を得たい。文字通りに解釈すればゲームプレイとはゲームで遊ぶことだろう。しかし、特に英語圏のゲーム開発の現場やゲーム研究においてはそれ以上に専門用語的なニュアンスを含む。(専門用語である証拠として「Game play」ではなく「Gameplay」と一語で表される。)また、そのうえ、英語圏においてもGameplayの定義は曖昧で、いく通りかの解釈がある。ここでは、私が信頼するゲームデザイン研究の名著、「Game Architecture and Design : A New Edition」(Andrew Rollings / David Morris, 2003)内における定義に従おうと思う。本書ではChapter3を主にゲームプレイの説明に割いているが、要約するとゲームが提示した選択肢に対してプレイヤーがルールや状況を理解したうえで意味のある選択ができることをゲームプレイとしている。例えば、「Splatoon2」では敵がフリーであるかそれとも味方と交戦中であるかによってマルチミサイルを撃つタイミングを測ることがゲームプレイと言える。また、正解の選択肢がわかりきっているよりも、プレイヤーが「恐らく自分以外のプレイヤーはこの方法をためしていない」と思えるような選択肢に有用性があることがゲームプレイの本質であるとしている。特に、多種多様なダメージ属性を持つ装備品やスキルや魔法を駆使して戦うようなRPGにおいてはそのようなゲームプレイが重視されるであろう。

「ゲームシステム」の「システム」とは

もう一つ、英語圏で使われる専門用語に「Game Mechanics/ゲームメカニクス」という語がある。ゲームの主たる仕組みを表す語である。日本では「ゲームシステム」という語がそのような意味で使われることが多いが、ほぼ同義と見て良いだろう。それでも私がゲーム「メカニクス」という言葉に拘るには理由があるが、まずこのゲーム「システム」が何を表すか、これもまた著名なゲームデザイン解説書の記述を見ていこう。「Rules Of Play : Game Design Fundamentals」(Eric Zimmerman / Katie Salen Tekinbas, 2003)はChapter 5を「システム」の説明に割いている。

それによると「システム」とは

・構成するオブジェクト
・各オブジェクトの特性や振る舞い
・オブジェクト間の関係性
・システムのおかれる環境

という要素によって成り立つという。また、システムは環境から独立した閉鎖系システムと環境との間に関係性を作る開放系システムに二分される。本書ではチェスを例に挙げ、ある一つのゲームが以下の複数の異なるスコープサイズから複数のシステムとして扱うことができるとしている。

・形式的システム(閉鎖系)
 チェスのルールそれ自体がシステム。ルールそれ自体は外から影響を受けない。

・体験的システム(閉鎖系/開放系)
 チェスのプレイヤーをオブジェクトと見なし、プレイヤー間のインタラクション、プレイヤーの置かれた環境が構成するシステムとする。プレイヤーの戦術的なインタラクションだけに注目すれば閉鎖系となり、プレイヤーの思考過程に影響を与える環境的要因や、その試合の背景にあるコンテクストを考慮すれば開放系となる。 

・文化的システム(開放系)
 この世で行われる全てのチェスのゲームをオブジェクトと見なし、それらプレイの積み重ねが作り出すコンテクストが、時代環境との間に相互に影響を与える様を1つのシステムとする。

「Rules Of Play」ではさらに、上記3段階のシステム間でも相互作用があり、それがまた1つのシステムとして成り立つことも付け加えている。

複数形のゲームメカニク「ス」

「Rules Of Play」におけるゲームシステムの説明はとても納得がいく。一方で、このシステムとは別概念として「Mechanic(s)/メカニク(ス)」という言葉を用いている。 「Game Architecture and Design : A New Edition」において特に何の説明もなく一般名詞的に「Game Mechanics」という語が使われている一方で、「Rules Of Play」においてはChapter 23において以下のような記述がある。

Every game has a core mechanic. A core mechanic is the essential play activity players perform again and again in a game. Sometimes, the core mechanic of a game is a single action.
全てのゲームにはコアメカニックがある。それはプレイヤーがゲーム中に何度も繰り返すような主要なプレイ行動である。時には、このコアメカニックはたった一つのアクションとなる。

これは単数系の「メカニック」の説明であり、本書ではこの後にATARI時代のゲームが実例として挙げられるが、現代の複雑化したデジタルゲームにおいては、複数のプレイ行動の組み合わせによって複数形のメカニク「ス」が構成されている。それぞれのプレイ行動が関係性を持つ様は、前述した閉鎖系の形式的システムにあたるであろう。

Designing the activity of play means creating the system that includes the game's sensory output to the player and the player's ability to make input, as well as guiding the internal cognitive and psychological processes by which a player makes decisions.
プレイ行動を設計することは、プレイヤーのゲームに対する操作能力と、ゲームのプレイヤーに対する知覚的アウトプットを内包するシステムを作るだけでなく、プレイヤーが行動を決定する際の内面の認知過程、心理過程を導くことにもなる。

そして、ゲームメカ二クスがプレイヤーにとって意味のある選択肢、つまりゲームプレイを提供した時に、それは体験的システムとして成立するのである。我々ゲームデザイナーの仕事とは、行動のルールとなるコアメカニクスのみならず、少なくともそのような体験的システムを作ることである。

ゲームメカニクスは3段階のシステムを内包する

なぜ私が「ゲームシステム」ではなく「ゲームメカニクス」という呼び方にこだわるのか。それは、ゲームシステムという語を閉鎖系の形式的システムの意味でしか使っていないケースが多いからである。「ストリートファイターII」で言えば、

・プレイヤーがパンチとキックを出せること
・6つのボタンで三段階のパンチとキックを出し分けられること
・レバーを上でジャンプができること
・ジャンプ中に攻撃ができること
・特定のレバー操作のあとに特定のボタンを押すことで必殺技が出せること
・etc...

これらは全て閉鎖系の形式的システムと言える。では、「ストリートファイターII」の大ヒット要因をこの形式的システムに見出すことができるだろうか?もちろん、違う。このゲームの成功要因は対戦プレイにおける駆け引き、そして当時のゲームセンターの空気にまで見つけることができるであろう。「アイドルマスター シンデレラガールズ」の成功要因も、ゲームプレイ以外にSNSにおける白熱した推しキャラについての語りや二次創作によって1人1人のキャラクターをアイドルとして育てる過程を体験できたからである。我々はゲームが現象であり、文化であることを知っている。にも関わらず、例えば私が毎年審査員を務める「ペラ一枚企画コンテスト」では閉鎖的な形式的システムしか書いていないものが非常に多い。ゲーム専門学校の授業内容なのか、それともゲーム雑誌の影響か、「ゲームプランナーの仕事はゲームシステムを作ること。」それが転じて「ゲームのルールを作ること」と誤解されている現状がある。私が常にゲームメカニクスという単語を用いるのは、そのような認識を改める意味がある。

ゲームメカニクス

我々がコアメカニクスを考える時、それは上位レイヤーの体験的システムである、ゲームプレイ体験に繋がっていなければならない。そしてSNS時代となった今、ゲームプレイ体験とコミュニティ活動は地続きであり、ゲームデザイナーもSNSでのゲームの扱われ方を意識せざるを得ない。また、もしゲームデザイナーがゲームの商業的成功にも責任を持つならば、さらに上位レイヤーである、開放系のシステムまで考慮する必要はあるだろう。(ただし、前回記事でも述べたように、そこに足を踏み入れると雑務に煩わされるリスクはある。)

まとめ

・ゲームプレイは意味のある選択である
・ゲームは三段階のシステムを内包する
 ・閉鎖的な形式的システム
 ・閉鎖的にも開放的にもなり得る体験的システム
 ・開放的な文化的システム
・体験的システムはゲームプレイの積み重ね
・コアメカニクスはプレイヤーに許された行動のセットである
・コアメカニクスだけでは形式的システムしかならない
・形式的システムと体験的システムを含むのがゲームメカニクス
・ゲームデザイナーの仕事は少なくとも体験的システムまで作ること
・現代のゲームを見れば文化的システムまで含めてゲームメカニクス

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EMPEROR
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株式会社デグジー代表/リードゲームデザイナー。Unityによるゲームプレイの作り込みが得意。代表作は「バーコードフットボーラー」「FF Agito」。デンマークにおけるアクセラレーターで2年連続ゲームデザインメンターを勤める。2019年度は担当プロジェクト2つが受賞。

コメント1件

まだ書き始めてないけど、次はレベルデザインの話にしようかな。数日中に公開できるかはわからない。
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