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(株)青山芸術 桂竜馬氏インタビュー(前編)~設計士と建築企業の未来をつなぐ新しいマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」~

【はじめに】

今回は、日本の設計者や建築企業を支援する事業やサービスを幅広く展開している株式会社青山芸術 桂 竜馬氏をお招きしました。

株式会社青山芸術が開発・提供している「アーキタッグ」は、設計事務所・建築企業が案件・作業ごとにタッグを組んでサポートし合う、設計士専門のマッチングプラットフォームです。時期によっては業務量の波が大きいと言われる設計業界において、設計士不足の解消、設計事務所の経営安定化につながるサービスとして、利用の輪が広がっています。

「日本の美しい建築が、より広がる世界に」をビジョンに掲げ、日本の建築業界の発展に力を注ぐ青山芸術のサービスについて、Fortec Architects株式会社代表 大江氏、建設DX研究所 代表 岡本が迫ります。

■プロフィール

桂 竜馬
株式会社青山芸術 代表取締役社長
東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、世界有数の金融機関であるゴールドマン・サックス東京支社及びニューヨーク本社にてM&A・ファイナンシングのアドバイザリー業務に従事。その後、株式会社メルカリに入社。創業者直下の会長室にて、M&Aや戦略立案担当を経験した後、越境EC事業 事業責任者 / プロダクトマネージャーとして、プロダクト開発並びに新規事業開発の責任者を担当。2020 年に株式会社青山芸術を設立、代表取締役を務める。

大江 太人
Fortec Architects株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築と経営の視点を掛け合わせて、建築資産の課題解決と価値創造を行っている。過去の主要プロジェクトとして、「フジマック南麻布本社ビル」「ヤマト科学技術開発研究所」「プレミスト志村三丁目」他、生産・商業・居住施設など多数。一級建築士。

全国4,000社、30,000名の設計士が登録するプラットフォームを運営

岡本:まずは御社の事業内容について教えてください。

:当社は、設計事務所や建築系企業の方々のお役に立つようなサービスを幅広く展開している会社です。主力事業は、設計に関わる人たちのための新しいプラットフォーム「アーキタッグ」の開発・運営です。「アーキタッグ」は名前の通り、”建築家がタッグを組む”仕組みを提供するプラットフォームです。人手がほしいゼネコン設計部・設計会社・設計事務所と、仕事を請けたい設計事務所・デザイナーを結びつける仕組みを提供しています。

ゼネコン設計部や大手設計会社では、外注先や協力会社を探しに「アーキタッグ」をご利用いただくケースが多いです。また、「案件が急増して人手が足りなくなった」「仕事の波が落ち着いたので仕事を増やしたい」という中小設計事務所の仕事と仕事の間をつなぐ役割も担っています。

個人向けのクラウドソーシングは、発注者と受注者が明確に分かれていると思いますが、「アーキタッグ」では「仕事の依頼者」と「仕事を請けるパートナー」、どちらの立場でも利用する設計事務所が多いのが特徴です。忙しいときは依頼者となり、手が空いたとき・おもしろそうな仕事があったときは仕事を請けるパートナーとなる、といった仕組みです。案件ごと・作業ごとに仕事を依頼できるので、設計事務所同士がお互いに仕事を融通し合い・助け合って、業務量の波を解消していくイメージです。

建築学生へのアルバイト情報サービス、設計士の転職支援もスタート

桂:現在、全国4,000社の設計事務所、30,000名以上の設計士に「アーキタッグ」にご登録いただいています。多くの設計事務所の方々とお話をさせていただくなかで、様々なご要望をいただいており、「アーキタッグ」から派生したサービスも開始しています。

そのひとつが「アーキタッグ・カレッジ」です。「学生アルバイトを募集したい」「意欲のある学生と出会いたい」という設計事務所と、「早いうちから経験を積みたい」と考える建築学生をつなぐアルバイト情報提供サービスです。最近では、学生への就職支援サービスもスタートしています。

また、当社にご登録いただいている設計事務所・設計士のネットワークを活かし、設計士・デザイナーの転職をサポートする人材紹介サービス「設計転職」も開始しました。「いい会社があれば転職したい」「独立はしたが、やはり経営よりも設計に専念したい」といったご要望をいただくことがあり、その想いに応えるために、有料職業紹介事業の許認可を取得して転職支援を行っています。

登録会員の声から設計事務所専門のM&Aサービスも開始

桂:さらには、建築設計領域を対象としたM&A仲介サービスの提供も開始しています。これも設計事務所を営むお客様からの「事業承継に悩んでいる」といったお声から生まれたサービスです。

事業承継に悩む設計事務所がある一方で、ゼネコンや設計会社側は、設計人材の採用に非常に苦労しており、M&Aによって一気に設計部の増員や専門性の拡充を図りたいと考えています。私はもともとゴールドマン・サックスでM&Aを専門に手がけてきましたので、私のノウハウと、これまで培ってきたネットワークを活かして、精度の高いマッチングを行い、両者をつなぎたいと考えています。

桂:最後にご紹介するのが、「titel(タイテル)」です。「titel」は、アトリエ建築家とお施主様を結びつけるサービスです。「他にはない住宅をつくりたい」と考えるお施主様から、当社の建築アドバイザー(一級建築士資格保有)がお話を伺い、要望にマッチする建築家をご紹介しています。建築家と店舗・施設の設計を依頼したい事業主をつなげる「titel biz(タイテル ビズ)」も多くのお問い合わせをいただいています。

設計業界の課題である「仕事量の波」「人手不足」を解消するために

岡本:多彩なサービスを展開されているのですね。もともとはM&Aを専門に手がけていたとおっしゃっていましたが、なぜ建築業界で事業を立ち上げようと考えられたのですか?

桂:父が商社で建築関係の仕事をしていたこともあり、建築が身近にある環境で育ったからです。私は、学生時代はバスケットボールに打ち込んでいて、建築関係には進まなかったのですが、私の弟はアトリエ系の設計事務所で働いています。幼少期から建物を見るのが好きでしたし、建築家のファンでもあったので、何かしらの形で建築家の方々を支える新しい仕組みづくりがしたいと思い、建築業界での起業を決めました。

起業した当時は、「こだわりの家を建てたい人」と「建築家」をつなぐマッチングプラットフォームの「titel」から事業をスタートしたのですが、現在では「アーキタッグ」を中心としたサービスが事業の主軸になっています。

岡本:「アーキタッグ」を立ち上げた背景も教えていただけますでしょうか。

桂:「titel」には著名な建築家の方々にも多くご登録をいただいているのですが、そういった方々とお話をしていても、「受注に波があるので、業務量の差が激しい」「人手が足りない」といったお悩みを伺うことが多くありました。

現在日本には、一級建築士・二級建築士・木造建築士を合わせて、約120万人の建築士がいます。一級建築士事務所は10万所あり、コンビニよりもかなり多い状況です。しかし、設計の仕事はとても波が激しいため、数名規模の中小の設計事務所では吸収しきれない繁閑の波などもあり、経営が安定しないことに悩んでいる設計事務所さんも多くいらっしゃいます。「収益が安定しないので人材を雇えない。その結果、案件を取りこぼしてしまう」といったお悩みも良く伺います。独立するほどの実力がある建築士の方々に、より活躍の場を広げていただける一助にわずかでもなれればという思いで事業をつくっています。

また、設計士が集まって独立した設計事務所では、事務所の所長が営業や経理、労務といった業務を一人で抱えているケースがあります。もちろん、設計をしながら経営をこなせる人もいると思いますが、「設計に集中したい」と考えている人にとっては大きな負担になります。

岡本:中小規模の事業者が多い点や、事務作業が負担になっているという点については、建設DX研究所としても建設業の課題として認識しています。やはり設計事務所の方々においても、共通した傾向があるのですね。

桂:はい。人手不足についても同様で、ゼネコンや設計会社、一部の設計事務所は、「人手が足りない」と常に悩んでいます。人手不足解消のために協力会社や設計パートナーを探して業務を委託していますが、これまでは「学生時代の同期だから」「あの人の紹介だから」といった属人的な探し方や、ネット検索してヒットした設計事務所に電話して突撃するなどの方法が一般的でした。今まではこうしたやり方でも何とかなってきましたが、建築業界で働く方々の高齢化が進むなかで、「人脈を持っていた社員が定年退職してしまった」「協力会社の設計士たちが高齢化して仕事を請けてもらえなくなった」といった問題がすでに至るところで起こっています。

こうした課題を解決するために、デジタルを活用して「設計士が足りない企業・設計事務所」と「仕事を請けられる設計事務所」を引き合わせることができないかと考え、立ち上げたのが「アーキタッグ」です。年間で安定して仕事を請けられるようになると、設計事務所の経営も安定しますし、人材の採用にも踏み切れると思います。

以前、ある設計事務所の方から伺った「ライスワークとライフワークを分けて経営しています」といった言葉はとても印象的でした。『「アーキタッグ」を利用して安定的に売上を上げられるライスワークがあるからこそ、収益は期待できなくても「これは絶対に請けたい」といったライフワークといえるような案件を請けられるようになった』とお話されていました。こうした経営の基盤づくりとしても、当社のサービスを活用していただけると思います。

大江:設計事務所のM&Aニーズも高まっているのでしょうか?

桂:設計事務所を買収したいと考えている「買い手」側の企業は非常に増えています。「売り手」側になる設計事務所は、事業承継にともなうニーズが多いのですが、ときには30代・40代の代表から「独立はしたけれど、やはり経営よりも設計に集中したい」とご相談をいただくこともあります。

「アーキタッグ」をご利用されているお客様からのご相談を中心にすでに多くの案件が動いています。M&Aを希望する設計事務所の規模としては、所員4、5名の事務所から20名を抱える事務所までさまざまです。当社は設計業界に特化したサービスを提供していますので、一般的なM&A会社よりも、事務所としての評価を上げる方法も一緒に考えられます。「アーキタッグ」に蓄積している豊富なデータもありますので、最適なM&A先とのマッチングを安心してお任せいただけるのではないかと考えています。

【おわりに】

株式会社青山芸術 桂氏のインタビュー(前編)はいかがでしたでしょうか。
前編では、設計士専門のマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」のコンセプトやその特長について詳しくお話を伺いました。「アーキタッグ」のみならず、そこから派生した様々なサービスの多様さに驚くとともに、設計士と建築企業のニーズを一つのプラットフォームに集約する取り組みは、業界の課題を解決するための重要なステップであり、非常に意義深いものだと感じました。また、それぞれのサービスが対応する設計事務所・建築士のニーズについても触れていただき、設計士同士が互いに助け合う仕組みの運営が、どのように設計事務所の経営安定化に寄与しているのかが伝わってきました。
現在、全国で多くの設計士が登録しているとのことですが、こうしたプラットフォームを活用することで、設計業界のさらなる発展が期待できそうです。

後編では、「アーキタッグ」での具体的な依頼ケースについて伺いながら、サービスの特色を掘り下げていきます。そして桂氏がどのようなビジョンを描いているのか、今後の展望についてもお話を伺います。ぜひご期待ください。