建設DXに関する最新の政策動向② ~令和5年度概算要求~
前回の「建設DXに関する最新の政策動向 ~政府文書を読み解く~」に続き、今回は各省庁が作成した概算要求関係資料を中心に、建設DX関連の取組について解説します。
なお、令和4年度第2次補正予算が本記事の公開直前で成立したので、そのうち建設DX関連の注目すべき取組についても解説しています。
概算要求とは
概算要求とは、省庁別に次年度の予算案をまとめたもので、毎年8月末に「概算要求書」として財務省に提出されます。提出された「概算要求書」を基に財務省の査定、政府内での最終調整の末「予算政府案」が作成され、最終的に国会の審議を経て予算として成立します。
概算要求の基本的な考え方
概算要求は、財務省が提示する「概算要求基準」に基づいて、各省庁で取りまとめを行います。そこで、概算要求の土台となる「概算要求基準」の基本的な考え方について確認してみましょう。
「概算要求基準」は、前回の記事で紹介した「経済財政運営と改革の基本方針(通称:骨太の方針)」を踏まえたものとなっており、次年度の概算要求基準でも、本年度及び昨年度の骨の方針に基づくことが明記されています。そのため、DXを含む以下の4つの分野が重要政策推進枠として規定されています。
各省庁における建設DX関連の概算要求
前述のとおり、概算要求は省庁別に取りまとめられており、(建設)DX関連の予算の全体像をを直接確認することができません。そのため、各省庁別の概算要求関連資料を基に建設DX関連の予算を紐解いていきます。
(本稿では、建設行政全般を所管する国土交通省のほか、部分的に関連のある厚生労働省、経済産業省を取り上げます。)
①国土交通省における建設DX関連予算
国土交通省では、2015年から建設現場の生産性向上を目指した「i-Construction」の推進に取り組んでいます。2020年度からは「予算概算要求概要」の項目に「DX」の表現が取り入れられるなど、早くからデジタル化に取り組んできている省庁の一つといえます。
令和5年度は下表に示す項目で建設DXに関連する予算が要求されています(各項目の一部には建設DXとは関係性の薄いものも含まれています)。概算要求基準でも重要施策推進枠と位置づけられていたこともあり、いずれも大幅な増加が見られます。
また、注目すべき点として、今年度から新たに「建築・都市の DX の推進等による「インフラ分野の DX アクションプラン」のネクスト・ステージ」という項目が追加されたことが挙げられます。ここ3年間は同様の項目立てだったことを考えると、建設領域を含むインフラ分野のDX推進を更に加速させようとする同省の強い意思が感じられます。
なお、同項目は概算要求段階では、項目だけで要求額を明記しない「事項要求」とされており、今後の予算編成作業の中で具体化されていくことになります。
新規項目で挙げられた「建築・都市のDXの推進」を行うためには、「建築BIM」、「3D都市モデル(PLATEAU)」、「不動産ID」が鍵になると目されています。これらに関連する取組を中心に4つの取組をご紹介します。
1)3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化の推進(都市局)
【建築・都市のDXの推進等による「インフラ分野のDXアクションプラン」のネクスト・ステージ関連】
デジタル・インフラである3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクトを更に進めるため、国によるデータ整備の効率化・高度化のための技術開発や先進 的な技術を活用したユースケースの開発等に取り組むとともに、地域のオープン・イノベーションの創出等を推進する。
2)不動産IDの利活用・情報連携促進(不動産・建設経済局)
【建築・都市のDXの推進等による「インフラ分野のDXアクションプラン」のネクスト・ステージ関連】
不動産DXの基盤として、各不動産の共通コードである「不動産ID」の社会実装を進めるため、 不動産IDの利活用を促進するユースケースの発掘・横展開を行う。
3)建築BIM活用総合推進事業(住宅局)
【建築・都市のDXの推進等による「インフラ分野のDXアクションプラン」のネクスト・ステージ関連】
建築分野の生産性の向上を図るため、建築BIMの社会実装を加速化するための基盤を整備する取り組みに対して支援を行う。
4)住宅・建築分野のDXの一体的な推進(住宅局)
【既存住宅流通・リフォーム市場の活性化関連】
建築確認、中間・完了検査、定期報告等の建築行政手続のDXを推進する。また、設計・施工・維持管理間で横断的に 活用される建築BIMの社会実装の加速化など、建築生産のDXを推進する。
②経済産業省における建設DX関連予算
経済産業省では、建設DXに直接関係する予算の要求はありませんが、建設業界を含む産業DXや中小企業の支援に関する予算が含まれているため、間接的に建設DXを推進するものとなっています。
令和5年度は下表に示す項目で建設DXに間接的に影響する予算が計上されています。代表的なものとしては、建設会社などで活用されているIT導入補助金の活用(例年補正予算として予算化)が挙げられますが、その他にもスマートビル等のアーキテクチャ設計などは建設DXにも関係する重要な取組といえます。
③厚生労働省における建設DX関連予算
経済産業省と同様、厚生労働省についても、建設DXに直接関係する予算の要求はありませんが、建設業界を含む人材の育成に関する予算が含まれているため、間接的に建設DXを推進するものとなっています。
令和5年度は下表に示す項目で建設DXに間接的に影響する予算が計上されています。
なお、建設DXとの直接の関連はありませんが、同省では建設業の人材確保・育成に向けて、国土交通省と連携して、魅力ある職場づくり、人材確保、人材育成の3本柱で建設事業者を支援しています。
令和4年度第2次補正予算で注目すべき取組
本記事の公開直前の12月2日に令和4年度第2次補正予算が成立しましたので、建設DXに関連する注目すべき取組についてご紹介します。
①BIM加速化事業(国土交通省住宅局)【新規】
建築 BIM の社会実装の更なる加速化を図ることを目的として、中小事業者が建築 BIM を活用する建築プロジェクトについて、建築BIMモデル作成費の補助事業が新たに創設されました。
民間の設計者または施工者に対して、延床面積が1,000㎡以上の建築物の建築BIMモデル作成費として、延床面積のランクに応じた定額費用が助成されます。比較的規模の小さい建築物でも設計費で2500万円、建築工事費で4000万円もの助成を受けられるなど、DX関連では比較的規模の大きい補助事業と言えるのではないでしょうか。
②中小企業生産性革命推進事業(サービス等生産性IT導入支援事業)(中小企業庁等)【継続】
中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX、サイバーセキュリティ対策等のITツールの導入を支援する、いわゆる「IT導入補助金」が本年度も継続します。読者の皆様にも馴染みのある事業だと思います。
来年から募集が開始される次期IT導入補助金では、主に以下の点で制度の改善が図られており、中小企業にとってより使いやすいものとなっています。中小企業の皆さまは積極的に利用を検討してはいかがでしょうか。
おわりに
今回は、令和5年度概算要求及び令和4年度第2次補正予算のうちのうち国土交通省を中心に経済産業省、厚生労働省の建設DX予算についてご紹介してきました。
いずれの省庁においても、政府方針に従ってDX推進に係る予算が増加している中、建設DXに関しても国土交通省分を中心に大幅に増額要求となっています。建設業の生産性の向上のためには、一層の建設DX推進が必要となるため、投資対効果の検証を行いつつも、引き続き積極的な投資を期待したいと思います。
政府による予算編成を経て、予算政府案が完成した段階で、改めて建設DX関連の予算についてご紹介する予定なので、続報をご期待ください。