習作

 美沙子は、クラスメートの有紗と一緒に、カフェに来ていた。しかし、彼女がコーヒーをカウンターで頼んで、テーブルに運んできたとき、そこに有紗はいなかった。あたりを見回すと、彼女は別のテーブルの近くにかけてあった、なにやら怪しい抽象絵画を熱心に見つめていた。そのテーブルに座っている男女のカップルが、チラチラと迷惑そうに有紗の方を見ていた。多分、カップル特有の込み入った話をしていたのだろう。だが、有紗はそんなカップルの視線に目もくれず、額縁の中に描かれた色とりどりのなにやら――を味わっていたのだった。
 美沙子はため息をついて、
「有紗、ほら、コーヒー飲もう」と言った。
「あ、ごめんごめん! ねえ、この絵、みさちゃんはなんだか知ってる?」
「知らないよ」美沙子は面倒くさそうに言った。「なんなの?」
「私も知らないよお!」
 はははは――と有紗は、大声で笑った。クラシック流れる静かな喫茶に、その声が響く。美沙子は顔に血が巡るのを感じて、急いで有紗をテーブルに呼んだ。まったくうるさいよと美沙子が言うと、有紗は「ごめんごめん、あははは」と今度は幾分か声を小さくして笑った。

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