見出し画像

しなないで、しなないで、と ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

東の雪は、こんこんと天から降りる。しんしんと積みかさなり、そして、ひしひしと冷たさが指さきに絡みつく。なにか後ろめたさがあるかのように、ひとびとは音も立てず、雪をふみしめ、そのうえをまた誰かがふみしめる。

このすべての白のしたには、死とか邪悪とか冷こくとかが横たわっていて、あああぁ、とこらえが漏れるように白い息を吐きだす。それは誰かの誰かで、その誰かが覗き見たひとみは乳白色。

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』。静かなものがたり。きめが細かいけれど、突き放すように冷たい肌。きれいだけれど、長くて骨が角を立てる手。笑っているけれど、どこか遠くを望むような目。そんなことを思わせる作品。

詩のような作品でもある。どうじに、死を纏った作品でもある。知らない街の知らない雪が、ひとりでにそのひとを立ち現せる。あったこともない、あったならば「私」がいることもない、決して交わらないそのふたり。私よりも若い、お姉ちゃん。

うぶぎ、ゆき、つめ、こめ、はくさい、ほね。白いおくるみに包まれて、失われていく白い体温に想いを馳せる。漂白された街のなかのことばだから、そこには悲しみと優しさが横たわっている。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?