[交換小説#4]テレビショッピングで肩こりマッサージ機の商品の良さをアピールしている歯を真っ白にして微笑む女性は、僕の3つ歳の離れた従兄弟だった。10年間、何をしているのか親戚も含め誰も知らなかった。

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交換小説とは
「差し手」と「書き手」、2人で交互に文章を書き合って作り上げる小説である。
○「差し手」... 1、2文の短い文章で、物語に切り込んでいく役割。
○「書き手」... 差し手の文章に合わせて、物語の大筋を紡いていく役割。


差し手:モリタ
書き手:オオシマ

[差し手]
テレビショッピングで肩こりマッサージ機の商品の良さをアピールしている歯を真っ白にして微笑む女性は、僕の3つ歳の離れた従兄弟だった。10年間、何をしているのか親戚も含め誰も知らなかった。

[書き手]
彼女と初めて会った時のことをよく覚えている。
親戚の集まりの時に、親に指示されて一緒に遊ばさせられたのだが、それはそれは無口で、引っ込み思案で、結局そのまま打ち解けられずに彼女は部屋のすみっこで自分の持ってきた人形を使って静かに1人遊んでいた。
そんな彼女が今はテレビで最高のへばりつけた笑顔を作りながら、大きな声で
元気よく誰かも知らない視聴者に向けて言葉を並べている。

はたして消息を絶ってから10年、その間で彼女になにがあったのだろうか。


[差し手]
僕は彼女がなぜテレビに出ているのか不思議に思い、幸い今は実家にいるので、その謎を解明すべく、実家に眠る家族アルバムを片っ端から見ていくことにした。

[書き手]
ホコリ被ったアルバムを手で払い、ネバネバになってくっついたページを剥がしながら読み進めていく。
しかし、なかなか彼女の映った写真は見つからず、それどころか、久々に見る懐かしの写真たちに気を取られていってしまう。
「あぁ、ケンジ、懐かしいな。アイツ、今は元気にしているかな」
時折思い出に浸ってニヤッと笑みをこぼしてしまいながら、徐々に目的を忘れてアルバム閲覧を堪能し始める。


[差し手]
結局彼女のことは何もわからずじまいで、時々彼女のことを思い出して深夜のテレビショッピングをわざわざ見ることもあった。
僕が彼女と直接対面することになるのは、5年後、彼女の母親に不幸があり、その葬式の時のことである。

[書き手]
長年消息を絶っていた彼女だが、葬式の神妙なムードによって、突然の顔出しも案外すんなり受け入れられていた。
しかし、その彼女からはテレビショッピングの時の面影はなく、まさしく僕が子供の頃に会った時の大人しい様子のままだった。
それが、妙に嬉しくて、仲が良かったわけでもないのに、ついつい慣れ親しんだ感じで喋りかけてしまった。
案の定、彼女は不気味がってよそよそしい態度をとっていた。


[差し手]
「あの……」
「…はい」
「サイン、くれませんか?」
僕は彼女のファンだった。そのことを思い切って伝えてみた。

[書き手]
「誰にも言わないので」
そう付け加えた私は、もはやそれが脅しになっていることは理解していた。
彼女は驚いた表情を見せた後、震えた表情でペンを走らせ、書き慣れていないサインを書いてくれた。

それから彼女とは一度も顔を合わせていない。
ただ日課として、彼女のサインをテレビの横に飾りながら、出演するテレビショッピングを観ることを続けている。
相変わらず彼女は気持ち悪いくらいの笑顔で、無駄に語彙を膨らませて商品を褒めちぎる台本に、やたらオーバーに喋ってみせている。
しかし、その裏で、あの時、サインを要求した時に見せた生々しい表情を持っていることを私は知っている。
他の誰もが知らない、彼女の真実。
もう、彼女の10年間なんて、どうでもよくなってしまった。
今はただ、完璧に偽ってみせている彼女を眺めながら飲むワインがうまい。

(終)


発行:森田新聞社

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