成果を導く新しい考え方〜ソーシャルマーケティングのすすめ〜

世界の健康づくりの潮流は、健康教育からソーシャルマーケティングへと、大きく動いています。その一端を、ご紹介します。

「変わらない」を変える、ソーシャルマーケティング

近年、人々の行動を変える手法として、ソーシャルマーケティングに注目が集まっています。

「我慢しないといけないんだけど、甘いものはやめられないわよね

「がん検診をうけなきゃと思っているんだけど、中々忙しくてね

「タバコをやめたいんだけど、どうしてもやめられない

そのような、「わかっちゃいるけど、変えられない行動」を劇的に変える手法。
それが、ソーシャルマーケティングです。

「健康教育から「ソーシャルマーケティングへ

ソーシャルマーケティングとは、「社会的に推奨される行動を変えるための戦略的なプロセス」と定義されます。その歴史を振り返ると、1980年代、公衆衛生活動の焦点が、個人や小集団に対する健康教育に向けられていた頃にさかのぼります。

健康教育のような小規模の介入は、

1) 介入できる人数に制限があること、

2) いつも同じような人ばかりが参加すること、

3) 投下できる社会資源に限りがある状況下では非効率的であること、

などの問題が指摘されていました。

そこで、地域全体の健康を改善するためには、個人や小集団に向けられた焦点を、地域あるいは社会全体にむける必要性が認識され始めたものの、効果的かつ効率的に人々の意識や行動を変えるために、どのような考え方や手法に基づくべきか、ほとんど知られていませんでした。

そのような状況の中、ビジネスの世界で用いられてきた「マーケティング」という考え方や手法を応用することの有用性が、1970年代に行われたStanford Three-Community StudyやThe National High Blood Pressure Education Programといった大規模地域介入研究の知見から、公衆衛生関係者の間で認識されるようになりました。

世界におけるソーシャルマーケティングの取り組み

国家として、最初にソーシャルマーケティングへの取り組みを始めたのはカナダで、その端緒は1974年のラロンドレポートにさかのぼります。

ラロンドレポートは、公衆衛生における新たな挑戦が、医療システムを充実させることではなく、人々の行動あるいはそれを取り巻く環境の改善にあることを示し、その後の国際社会における健康づくりの指針に多大な影響を与えました。

カナダでは、1981年にソーシャルマーケティングの国家機関を設立し、以後数々の大規模介入プログラムを立ち上げ、成果を上げてきました。またカナダから遅れること約20年、アメリカやイギリス、オーストラリアでも、ソーシャルマーケティングを専門的に扱う国家機関を設立しています。

今後の日本におけるソーシャルマーケティング

これまでみてきたように、健康教育の限界を感じた諸外国では、健康的な生活習慣を広く社会に普及するための手法として、ソーシャルマーケティングを取り入れ、これまでに大きな成果を挙げて来ています。

一方日本では、「健康のために何をすべきか」は科学的に整理されていても、「地域の中で健康的な生活習慣を普及するための具体的な手法」に関する知見は、これまで限定的であったといえるでしょう。

今後わが国でも、地域社会全体に強いインパクトを起こすような、ソーシャルマーケティングの手法や手順が根付いていけばと思います。

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