day 1

朝、彼女に会う。それは約束。
不機嫌な僕。気を使う彼女。
今日は僕にとって結構大変な1日になる。はず。
朝から空模様まで不機嫌だ。小雨が降る。彼女は傘を差した。
仕事場の前でバイバイ、僕の心も彼女の心もきっとバイバイしたがってなかった。
まだ話したいことがあった。お互いの顔の見える距離で。
昨日の夜から喧嘩している。僕は不機嫌だった。

僕は家路に着く、彼女からの連絡。「ごめん」
謝ってくれてる彼女に優しくできない僕。「昨日の仕返し」と。
でも、今日の朝のことは昨日のことよりきっとずっともっと僕、彼女にひどいことをしていたと思う。
もやもやを丸めてゴミ箱に捨てる。鼻水を噛んだティッシュはゴミ箱に入らなかった。

看板を設置しないと旅は始まらない。僕は今日、旅に出る。日本をぐるりと47都道府県をまるっと見て回る。何の意味があるかなんて本当のことは僕にも分からない。
天気は雨。何のことはない雨。でも今日は違う。僕は原付で旅をする。雨は大敵だ。
「なんて日だ!」と小峠が叫ぶように僕も叫びたかった。

看板は無事に設置が完了した。下手くそな文字も原付にくっついてしまえばカッコいいもんさ。看板を取り付け終えたら次はテントを縛り付ける。寝袋は旅の途中で調達する。今日の宿は快活クラブがいいな。呑気な僕はそんなことを考えている。

ガソリンスタンドで、旅を始めて初めて人に話しかけられた。大きくてしっかりした働く人の手をしたお姉さん。計算は間違えたけど、僕の心も原付のガソリンも満たしてくれた。頑張れる気がする僕。

ガソリンも補給したし、実は寝袋もゲットした。準備は万端。でも、リュックが邪魔だった。背負うと後ろのボックスに干渉するし、前に乗せるとライトが役目を果たせない。僕はライトを捨てた。いい経験をしたと思う、リュックよりボックスを2つ重ねる方が確実だったということ。

信号待ちでお婆ちゃんが話しかけてくる。どこから来てどこに行くの。僕はここにいてまだどこにも行けてない。
四国に渡ることを説明した。納得してくれたかな、あのお婆ちゃん。

あとは時間との戦いだった。チケットを買う時間がない、飛ばせ飛ばせ。周りの車を追い越すぐらいに。港には船が出る10分前に着いた。
チケット売り場兼待合室にはツアーと思われる団体様の姿が。僕はその人たちの間を抜けてチケット売り場へ。

「大人1人、原付で」

旅のチケットを手にした。前日に調べておいた1番理想的な便に無事に乗れそうだ。
初めて原付で船に乗る。船内の駐車スペースにはバイクの先客がいるようだった。その人も僕と同じように大きな荷物をバイクにくくりつけていた。

船内に入ってしまう前に写真を何枚か撮った。記録を残したかった。
船内に入ってしまえば後は楽だ。空いている席を見つけ、座ってしまえばいい。リュックから旅の情報が記された本を取り出し、携帯と本と睨めっこ。今日の行き先を決める。
ルートプランを作成して大体どのくらいの時間がかかるのか下調べをしておく。大塚国際美術館が第1の目的地になった。きっと僕の知った道を走ることになるだろう。始めから懐かしさを感じる旅になるとは予想打にしなかった。

バイクの先客が話しかけてきた。感じのいいお兄さんだった。東京から2、3日かけて直島のアートを見に来たそうだ。その後高知の友人と会い、フェリーで東京に帰っていく。そんな話。

船が島に着いた。乗り換えだ。
僕に与えられた時間は10分。大急ぎでチケットを買い、来た船とは別の船に乗り込む。
一度乗り方を覚えてしまえばいなんて事はなかった。僕以外にバイクの乗客はいなかった。
船内は先ほどと打って変わって静かだった。人がほとんどいない。
1時間余りの航海を楽しんだ後、僕は四国に上陸した。

目指すは大塚国際美術館。しかし、腹が減っては戦は出来ぬと昔から言われている。僕はお腹が減った。四国にやってきたのだからと言わんばかりにうどん屋に入った。

「かけ中」350円

美味かった。でも両隣の席の人はとり天ぶっかけなるものを注文していた。そう右の人も左の人もとり天ぶっかけ。なんだか不思議な気持ちになった。

うどん屋を出て街中を走る。街から街へ、そして海へ。海沿いの道が多くなってきた。徳島が近づいてきた。見慣れた道、お店を横目にどんどん進む。懐かしい気持ちが蘇る。若さを感じる。

雨は勢いを増していく。顔に雨が刺さるなんて言っても誰も信じてくれないと思うけど、僕が体感したのはそんな誰も信じないようなことだった。
顔にぶつかる雨が痛い。目がだんだん開けられなくなっていく。そして、速度を落とす。すると雨はこちらに向かって来なくなる。空から地面へ落ちていく。とすると、僕は雨にぶつかりにいっていたのか。

立ち寄ったカフェはお客さんが1人もいなかった。貸し切り状態だったわけだが、僕自身気持ちがそんな状態ではなく。目的地へ向かうだけのロボットになっていた。コーヒーで凍えた心を溶かしていく。そして同時に元気も補給。
再び走り始める。座面は雨でびちゃびちゃだった。それでも躊躇することなく乗り込む。

大塚国際美術館の閉館時間には間に合った。だが、僕は勝負に負けた。チケット売り場の営業時間は16時だった。駐車場に着いたのか16時ごろ。僕は大塚国際美術館に負けたのだ。
でも気を落としても仕方がない。また来ればいいのだ、彼女との楽しみが増えたと思えばへでもない。そうだと思う。

雨でびしゃびしゃでズボンが雨を貫通して濡れてきたとしても進まなきゃいけない。これは僕の旅だから。止まっている暇はない。特に今日は。

お遍路の第1番礼所霊山寺にやっとの思いでたどり着いた。
たどり着いた頃にはお寺の営業時間は終わっていて、たまたまそこに残っていた売店のお婆ちゃんに助けられたため、現在この文章が打てている。

どう助けられたかと言うと寺の近くの民宿を紹介してもらった。本当にその時はお遍路のお接待の文化に感謝するばかりだった。

今日は暖かい布団で寝られている。明日はどうなるだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?