『アはアーケードのア』 第17回『ちゃっくんぽっぷ』(1984年タイトー)

“蟻の巣のような迷路”と“爆弾”と“愛(?)”のゲーム

幽閉されたハートを取りもどすため、敵もんすたの巣窟にちゃっくんが潜る。天井への張り付き移動をうまく使い、爆弾を左右に転がして敵をやっつけ、ハートが閉じ込められた檻を破壊し、脱出せよ。それが、迷路アクションゲーム『ちゃっくんぽっぷ』です。ぼくの大好きなゲームです。

 『ちゃっくんぽっぷ』の見た目の大きな特徴は、その蟻の巣のようなマップです。迷路にあまりグリッド感がなく、非常に不規則な形状になっています。とはいっても、1chr(8dot)単位のブロックで構成されているわけですが、当時とても新鮮に感じたのをよく覚えています。

主人公と床との設置面積でジャンプ力が変化する

 ちゃっくんは「片足接地で1ブロック」「両足接地で2ブロック」ジャンプができ、さらに天井に張りついて移動できます。その移動能力を前提にマップをつくると、細かい床の段差と天井の置きかたが(有無も含めて)重要になるので、結果的に階層感のない、不規則で独特な迷路ができ上がったのだと思います。

 特徴的な移動手段と、それに合わせたマップ構成。そして、2つまで同時に使うことのできる爆弾。『ちゃっくんぽっぷ』の個性的なおもしろさは、主にそれらに起因しています。爆弾が2つ使えることには意味があり、爆風を重ねると範囲が広がるというところで、ちょっとしたパズル性が生まれます。

 1984年のゲームですから、それほど多くのギミックがあるわけではないのですが、なかでもウォーターボトルはユニークでした。爆弾で壊すと水が流れ出て、ステージを水没させます。壊した数に応じてカサが増していく。これを使って泳いで渡らないとゴールにたどり着けないというギミックです。

 全14ステージをクリアすると、ミスちゃっくんとのウェディングデモが入り、高速の“いかりもんすた”が登場する2周目に突入します。ぼくもそこまでは行けたのですが、2周目の途中で挫折した覚えがあります。おどろおどろしいジングルと共に変身するいかりもんすたは恐ろしい難敵でした。

幅広い層に受けるには難しいゲームシステムだった

 独特のシステムを主軸にしたゲームによくあることですが、『ちゃっくんぽっぷ』もその個性がそのままゲームの欠点になっていたともいえます。基本的なところで、足場が片足か両足かでジャンプ力が変わるというのがわかりにくく、慣れないと移動できる先が瞬時に判断しにくい。

 閉鎖性の高い空間で、移動上の制約も大きいため、これまた慣れないと自分の放った爆弾の爆風に巻き込まれての自滅がよく発生します。また、敵のもんすたはフラフラしていて動きが読みにくく、気がつくと追い詰められている。

 ゲーム全体としては決して本格パズルの体ではないのに、2つの爆風を重ねないと破壊できない檻がある(クリアする上で必須)とか、破壊可能ブロックが登場するステージではやりかたによっては詰んでしまうこともあるとか(アーケードゲームなのに!)、それらだけ例外感が強く、少々面食らいます。

 ステージクリア時のボーナスがまた取りにくい。取れないことはないのですが、かなり獲得の難しいボーナスばかりです。「一匹も敵を倒さないとボーナス」「敵を全部卵から孵した上で全滅させるとボーナス」はあるけれど、単なる「敵全滅ボーナス」はないというのが、いかにもこのゲームらしい。

 フルーツターゲットも希少性が高く、敵を2体同時に倒さないと出てきません。このゲームで狙って2体同時に倒すのは難しく、フルーツを見ることができただけでも気分が高揚したものです。無敵のスーパーハートも同様にレア。『ちゃっくんぽっぷ』はいろいろな点でつくりがストイックでした。

 実際のところ、『ちゃっくんぽっぷ』が出回ったのは主にタイトー直営店舗のみで、そのため出荷された基板枚数も数百枚だったそうです(当時のアーケード大手の基板出荷枚数は、数千枚単位で出ることが多く、数百枚というのは少ないほうでした)。

それでも愛すべきゲーム『ちゃっくんぽっぷ』

 でも、こんな風変わりなゲームでありながら、『ちゃっくんぽっぷ』は、アーケード版だけでなく、PCに、そしてコンソールにも移植され、結果的に決して少なくない数の人々に遊ばれてきました。

 ぼく自身、今改めて見返してみると「うーん、地味だなぁ……(笑)」とか、前述のとおりいろいろ思うところはあるのですが、当時はその個性的なおもしろさとデザインの愛らしさに加え、『スペースインベーダー』のタイトーがこれをつくってくれたことがうれしくて、『ちゃっくんぽっぷ』は自分のなかで特別な存在でした。

 タイトーのかたがたも『ちゃっくんぽっぷ』を楽しんで制作されていたようで、当時、開発部の手によって「ちゃっくんぽっぷ1000万点への解法」という冊子もつくられました。この冊子名はもちろん、そのころ話題になっていた同人誌「ゼビウス1000万点への解法」のパロディ(?)です。

 少なくともぼくが覚えている範囲でも、この冊子の内容は「マイコンBASICマガジン」の付録「スーパーソフトマガジン」の『ちゃっくんぽっぷ』紹介記事でもほぼそのまま使われていたと記憶しています(ゲーム記事を掲載する各出版社に配布されたと思います)。

 『ちゃっくんぽっぷ』に原作があり、それをタイトーが移植したことはよく知られていますが、同じ制作者のかたがやはりタイトー発売で『バイゴーン』というゲームも制作しています。ロボットのボディにさまざまな装備をつけて戦う横スクロールものでしたが、残念ながらロケテストだけを行なって没になってしまいました。

 考えてみると、『ちゃっくんぽっぷ』には続編というものがありません。ちゃっくんという主人公を含めて知名度は高いものの、決して大きくヒットしたゲームではないので、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、あの仕組みを発展させた続編がもしあったらと想像すると、ちょっと楽しくなります。 了

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ちゃっくんぽっぷ-02


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