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"学び"こそが途上国の「人の問題」を解決する。しかも、共に助け合い、学びあいながら。

発展途上国では、日本の常識なんてまったくと言っていいほど通じない。資源や機会の不足、リーダーシップとマネジメントの欠如、社会の隅々まで浸透している腐敗、偏った国際支援と支援漬けにされた人たち。そんな山積みの問題を解決する突破口になるのが学習(ラーニング)だと僕は考えている。この記事では、僕が学習ファシリテーターになるきっかけとなったカンボジアでのある体験を共有する。他の途上国や新興国で挑戦する人の参考になれば幸いです(また、この記事の内容は、広く人材育成にも役立つはずです)。

カンボジアで打ち砕かれた僕の自信と日本の常識

ネットもスマホも普及していなかった学生時代、僕は東南アジアをバックパッカーとして歩き回り、カンボジアの田舎で支援活動にもたずさわっていた。イギリスの大学院も修了していたため、海外経験は豊富な方だという自負があった。

そんな僕が海外で仕事をし始めたのが2015年のカンボジア。僕が持っていた自負は、たったの10分で打ち砕かれた。「言わなくても大丈夫だろう」というこちらの勝手な期待はことごとく裏切られたのを今でも鮮明に覚えています。日本の常識はまったく通じなかった。

例えば、カンボジアでレストランをやっていた時、こんなことがあった。お客さんから料理の注文をもらい、さあ作ろうと冷蔵庫を開けると必要な材料がない。「あれ?材料は?」とスタッフに聞くと、「1時間ほど前に使い切った」とのこと。「材料がなくなったら言ってもらわないとわからないよ」と言うと、「だってそんなこと指示されてなかったから」。言われたこと以上の仕事をしないスタンスが徹底していた。

他にも、やたらと休みをほしがる。自分からお皿は下げないしお水も出さない。遅刻はするけど帰宅は早い。約束や期限を守らない。もちろん自分から新しいことを学ぶこともしない。

こうしたことは僕が経営していたレストランだけではなかった。僕が関わって現地のNGO、企業、大学、どこもこんな感じ。日本で生まれ育ち、働いてきた僕たちからは「カンボジア人はやる気がない、考えない国民」と見えてしまうし、事実、僕は「なんでやねん!」と毎日イライラしていた。

カンボジア人はやる気がないわけじゃない。"良い学習経験"がないだけ

そんなある日、スタッフに日本の料理の作り方を教えていたときのこと。焼うどんを作りながら、「これを入れたらどんな味になると思う?」「次のカットはやってみる?」「どうだった?」と問いかけながら料理をしてみた。その時、彼女の顔を見ると、普段あまりやる気がなかった彼女がとても嬉しそうだった。

そこでふと考えた。

ひょっとしたら、カンボジアの人たちはやる気がなかったり、考えたりしないのではなくて、ただ知らないだけなんじゃないか?主体的に学び働く楽しさ、工夫して働くこと、お客さんを喜ばせる喜び、チームで働く楽しさ、それが成長と成果につながること、その結果、自分たちの収入を増やしていける、人生の選択肢を増やしていけるということを。

カンボジアに根深く残る、構造的な課題

そこから僕は、カンボジアにおける学習経験について探究を始めました。そこで気がついたのは、現代のカンボジアが抱える2つの大きな問題だった。

1つ目は、リーダーのモラルの低さ。自らの地位を利用してひたすら私腹を肥やす政治家や警察といった権力者はもちろん、嫌な仕事はすべてスタッフに押しつけ、自分は取引業者から賄賂をもらい私腹を肥やす企業のマネージャー、自分の都合で遅刻や欠勤を繰り返し副業にばかり精を出す学校の先生。そんな話を嫌というほど見聞きしてきた。もし、僕がこういうリーダーの下で働いていたら、こう思っていたはず。

「どうせ頑張ったところで、全部搾取されれるだけ。ならば最低限のことだけやって給料がもらえたらそれでいい。」

そんな空気をいたるところで感じた。

2つ目は、主体的に学ぶ機会の欠如。学校の教室において絶対である先生が一方的に知識を伝え、生徒はそれを書き写すだけ。それが教育だとする強い思い込み。極端なところでは、先生に質問するだけで叱られることもあるらしい。そんな環境では、自分の頭で考えたり、主体的に何かを学ぶ楽しさを経験できるわけがない。就職しても同じ。多くの経営者、チームリーダーは説教と命令ばかり。こんな環境で、いきなり主体的に考えて働けなんて無理な話だった。

学ぶ楽しさは、暗いムードをふっ飛ばす

このことに気づくまで、僕はいつもイライラしていた。僕の言うことは常に正しい、なんでできないんだ、なんでやらないんだ、こんなことも知らないのか、だからカンボジア人は・・・と。僕も周りのリーダーと一緒だった。

しかし、学ぶ楽しさ、働く楽しさを伝えたいと思った僕は、少しずつ自分のあり方を変えていった。

●1つ1つの仕事の意味を一方的に教えるのではなく、
 問いかけつつ一緒に考える
●意見が出たら「どうしてそう思う?」と優しく問いかける
●すべての意見を一度受け止める
●どうしたらいいかな?と問い、一度本人が思うようにやってもらう
●一緒に振り返って改善する
●仕事の喜びを共有する。
 例えば、お客さんの「美味しい」という言葉をシェフに伝える、
 美味しいと言っているお客さんにシェフを紹介する、など
●スタッフのすごいところや感謝を手紙に書いて、給料袋に入れる

すると、変化はすぐに現れた。スタッフたちはイキイキと仕事をするようになり、遅刻や欠勤も激減。さらに、僕が気づいていないことをスタッフから教えてもらい、学び合えるようにもなった。正直、イライラしていた毎日が嘘のように、このスタッフたちと働くことが楽しくなったのだ。

「学ぶ楽しさ」はあきらめムードを変える力があると実感した出来事だった。僕の一歩はとても小さいものだったけれど、自分の学びと成長に集中し、できることを少しずつ増やす。ただ、この一歩から、誰もが学ぶ力を持っていること、そして学ぶことは楽しいことを知ることができた。僕がカンボジアで学んだ人生最大の教訓だ。

リーダーシップは目の前の小さな一歩から

遠いゴール、積み重なる問題の解決を考えると、正直、足がすくんでしまう。だって諦めムードになって、やらない言い訳をする方が楽だから。雰囲気に流されて楽な方に流されることもできる。でも、そんな気持ちを「学ぶ楽しさ」で吹っ飛ばせることを体験することができた。

目の前の学習と成長に集中し、できることを増やす。そのプロセスを楽しむこと。小さな成長に自信を深めること。その積み重ねが、やがてチームや社会を変える可能性になるはず。

理想や夢を描いたり、おしゃれなPRをしたりするだけが社会を変えるリーダーシップではない。まずは目の前の仕事から、学習から始まるんだと確信した。

"学び"によって、カンボジアを、そして世界を変えたい

学習の可能性に気づいた僕は、親友が経営する日本の研究機関toiee labで学習について学び実践をはじめた。その過程で、良い学習プロセス、学習ファシリテーションがあると、人はこんなに楽しく、こんなに短時間で、こんなに深く学べるのかというのを体験することになる。こうして僕は飲食店をやめ、学習デザイナー・学習ファシリテーターとしての道を歩みはじめた。

僕はこの学習理論を活用して、今関わっているタイやカンボジアの仕事の現場に学ぶ楽しさを持ち込んで、仕事を楽しいチャレンジに変えていきたいと考えている。挑戦の連続だが、その過程も学習として楽しんでいきたいと思っている。

現在の仕事

今はタイとカンボジア2つの拠点で活動中です。

ツイッターでも挑戦過程を発信しているので、ぜひフォローしてほしい。

【現在の活動内容】

●学習理論に基づいたアクティブラーニングワークショップと
 フォローアップの提供(タイ、カンボジアの企業、NGOを中心に)
 2020年、タイ書店最大手se-ed社と提携し、ワークショップを展開予定

●カンボジア教員養成校への読解リテラシーのカリキュラムの提供

●カンボジア、僻地の若手校長先生へのリーダーシップトレーニング

●タイでの書籍の執筆
「チームで楽しむ、アクティブリーディング」(仮題)

●世界中の日本人へのオンライン読書ワークショップの提供

●日本の大学、企業研修としてカンボジアでのラーニングツアーの企画
 および学習ファシリテーターとして同行

【実績(一例)】

●企業でのマネージャー研修(カンボジア、タイ)
●企業へのコンサルティグ、スタッフ教育、マネジメントの仕組みづくり(カンボジア、タイ)
●日系企業にてチームコミュニケーションのワークショップ(カンボジア)
●カンボジア若手起業家協会シェムリアップ支部でのワークショップ
●カンボジアオリンピック委員会(会長はトンコン現観光大臣。カンボジアの全スポーツ協会を統括、調整する機関)におけるチームビルディングのワークショップ
●遠隔地の中学校の若手校長先生たちへのリーダーシップトレーニング(カンボジア)
●国際NGOが運営する養鶏場のマネージャー(カンボジア)
●マイクロクレジットを実施する、グラミンオーストラリア・フィリピンへのワークショップ(マニラ・フィリピン)
●タイと日本の起業家の交流と協働を促すワークショップの企画、ファシリテーション(タイ中小企業協会主催)
●オルターナティブな開発に関する国際学会にて発表


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