プログラミング小説:序章

「おじさん、さよならー」

6月下旬の昼下がりの日差しが火照って制帽の中が暑さを増す天候の中、校門の側面で立哨中の時だった。下校しようとしている制服姿の3人組の少女達が私に向かって挨拶をしたので、私はそちらを見返した。彼女達は私の勤務している中高一貫共学の生徒で、どの子もにこやかな笑顔が若々しく整った顔立ちをしている。

さようなら、と私も返すと、3人の女子生徒達は微笑みながらこちらを数秒間見た後に帰路へと向かっていく。

続いて、今度は8人ほどの男子生徒の集団がやってくる。

1人が私に話しかけてきた。

「警備員さん柚木さん。俺たち高等部、明日から期末なんすよ」

私はそれに対し返事をした。

「期末? ああ、定期テストか。私も昔は一夜漬けなんてしょっちゅうやっていて何度もその場をしのごうとしていたよ」

「一夜漬けって、そんなに効果あるんすか?」

「とんでもない、今考えてみると逆効果だったよ。君たちはそんなことをしないで、今日は早く帰って良く睡眠を取った方が良いぞ。その方が成績も上がるからな」

「ありがとうござーまっす、柚木さん」

男子生徒達数名から礼を言われ、彼らもそれぞれ帰宅して行った。

下校時間になるとこの調子で、私は立哨中に生徒から声をかけられることが最近多くなってきた。顔を覚えられて面白がられているのか、単に話しかけられやすい人相だと判断されたのか、はたまた両方か。

しかし、立哨や巡回といった、私の警備員としての本分である作業の他に、こうして生徒達と話をすることは嫌いではない。むしろ若いパワーをもらえて、今年35歳でありながら夢を持つ私としては大変ありがたいことでもあるのだ。

私の夢はプログラマーになること。

今の仕事に満足感ややりがいはあるが、警備員として骨を埋めるつもりはない。

家にあるWindowsパソコンを思い浮かべながら、勤務終了時間まで生徒達の安全を見守る。

続く↓


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