[詩] 陽のあたる
冬にぼやけた照明がついて
足元を照らしているはずが
バナナが房からもぎ取られた
膝から下は見えなくて
冬眠している魚を探す子どもに
挨拶されて
感覚もなくなり
骨盤だけで足を動かし
鳩がたくさんいて
そのうちの1羽が鳴き
こっちを向いて目があった
栗はグラッセだったから
もう剥かれていた
声が呼んだんだけど
そんな歌はないし
誰かが大声で歌っていた
面白いから歌を背中に浴びながら
膝から下で
黒の上を滑るように歩いてゆくのを
彼は見ていた
美容院ではハサミが2回空気を切り
焦点のあっていない目が
見つめているのだが
駐車場に捨てられた日記が
風にめくられ
風が日記を読み上げるが
コンビニでの購入履歴を
延々読み上げる声が
もう既に切られてしまっていたし
木々の葉が擦れる音で聞こえない
誰もが喝采を送った
球場跡はコンクリートの駐車場
もう一度だけ沸騰して
あれが去っていった
危険ではなかった
飛ぶのはやめよう
歓喜が沸き返るような気がして
耳を澄ましていた彼は
液状になったコンクリートの代わりに
自分のことを徹底的に
描写する活気づいた声を聴く
記憶の中
冬の海岸にある海の家は
潰れているのか夏まで休んでいるのか
こだまはブロック塀にさえぎられ
もと来た道を帰り
生き物が息をのみこんだ
冷たい視線が空間をにらみ
今まさに空中ブランコを手放した
放物線ですれ違ってゆく落ちてゆく
私は今チノパンをはいているそうだ
防波堤の先から子どもが
全速力で走ってくる
それは確かに彼自身の声で
声はわたしを置いて走り去る
わたしは彼なのか
後ろ姿は色に混ざり
キャンパスには灰色一色が塗られて
どこが切り裂かれるか
それで出来上がるのか
その時を待っているのか
まずは坂道を昇り始めることにした
書かれた文字は身体を持つから