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桃太郎(TECH生徒 ver.)

 昔々あるところに、仲の良い老夫婦がおりました。

 翁(おきな)の名を"太郎"、嫗(おうな)の名を"花子"といいます。

 二人は、農業が盛んな山間の村に生まれた、幼なじみの間柄でした。
 幼少期から共に過ごし惹かれ合い、花子は太郎の家に嫁いで共に農家を営んで暮らしていました。


 それから数十年月日が流れたのですが、農業で栄えた村は過疎化が進み、今ではほとんど人は残っておりません。

 太郎の家もめっきり衰退してしまいましたが、彼はまったくもって幸せでありました。
 彼には愛する妻である花子が、常に側で支え続けておりました。

 太郎はすっかり白髪になり、翁と呼ぶに相応しい年です。
 農業で鍛えた筋肉はそのままですが、シワは増え、顔には白い無精髭を生やしています。ですが、声はハツラツとしていて年を感じさせない人でした。

 花子もすっかり白髪になり、嫗と呼ぶに相応しい年です。
 日々の家事は変わらずしますが、シワは増え、のそのそとした歩き方になりました。ですが、優しい笑顔は変わらずの愛くるしい人でした。


 廃れた村に残るのは美しい自然ばかりです。
 青青と茂った山が村を囲み、野鳥の鳴き声が心を癒し、村一面には農業で栄えた証である畑や田んぼの跡地が広がっています。

 村に建つ瓦屋根の家々は、その大半が空家となりましたが、その中にある庭付きの赤い屋根が特徴の「翁と嫗の家」は、今も明かりが灯り、毎晩のように老夫婦の笑い声が聞こえます。

 絵に描いたように仲の良い夫婦でした。
 けれども、子宝にはどうしても恵まれませんでした。どのように頑張っても、天から授かることはなく、それだけが老夫婦にとって少しばかり寂しい現実でした。
 けれども、共に過ごしたこの村で、慎ましやかに生活を送れることは、二人にとってただただの幸せでした。


 それで十分だと思っていた、ある日のことです。

「桃はいらんかね」

 日も暮れようとしていた頃、村に見知らぬ商人が訪れました。
 しゃがれた声が村の端から聞こえ、

「桃はいらんかね」

 と繰り返しております。
 しゃがれた声は、翁と嫗の家にも届きました。

「誰だろうか、こんな時間に桃売りとは。しかも人の少ないこんな小さな村で」

「本当ですね、太郎さん」

「どうだ。少し見に行ってみるか、花子」

「そうしますか。気にはなりますし、最近は桃の一つも食べていませんし」

 不思議に思った二人でしたが、興味のままに声のする方へ行ってみました。


 すると、確かに村の端あたりに見知らぬ商人がおりました。

 商人は黒いフードを被り、長い前髪で顔はよく見えませんが、商人の後ろにある荷台には、鮮やかに熟れた桃がどっさりと積んであります。
 近づけは近づくほどに、甘い香りが鼻奥に届きました。

 翁と嫗が商人の側によりますと、商人は二人に気付いたようで、

「桃はいらんかね」

 と、同じしゃがれた声でいいました。

「商人さん、こんにちは。美味しそうな桃ですなあ」

「これはこれは、あなたでしたか。こんにちは」

「アナタデシタカ? 俺は商人さんと会ったことがありましたかな」

「いいえ、お会いするのは初めてです。ですが、この桃はお導きなのです。慎ましやかに笑って過ごす人間に願いを届けよと、この桃が申しております」

「願いとはなんだ。桃が話すのか?」

「話しません、桃の育て主のことですよ。この村にいる、その人間の願いを叶えてさしあげなさいと言われた、私は使いの者なのです」

「商人さんのいう話はイマイチぴんとこないなあ」

「いいえ、いいえ。覚えることは一つでいいのです。あなたと、それから後ろにおられる奥さんと、二人で今夜この桃を食べてください。そうしたら翌朝にはお二人の一番強い願いが叶っていることでしょう。ええ、お代は結構ですので」

 商人はそのようにいうと、押し付ける形で、桃を二つ、翁に渡しました。
 それから荷台を引いて、追いかける間もなく行ってしまいました。

「あの商人は一体なんだったんだ」

「不思議な商人でしたね」

「ああ、ちっとも何の話をしているのか分からなかった」

「だけど桃は本当に美味しそうです。毒があるようには思えません」

「そうだな。食べたら明日には願いが叶っているか——そのようなことが本当にあるのか」

「願い、でしたら。ただの欲ではありますが、太郎さんとの子供が欲しかったです。後世に残せる子宝が欲しかったです」

「花子、ものは試しだ。俺たちも年だし、いつまで生きられるかも分からない。商人の言葉は信じられないが、帰って言う通りに食べてみようじゃないか」

 翁はそのようにいうと、嫗を優しく抱きしめました。
 嫗は目を細めて笑い、細い腕で、翁からその熟れた桃を受け取ると、歩幅を合わせて我が家に帰りました。
 それから夜には二人で桃を食べました。



 翌朝のことです。
 まだ夜明けの前の、青い靄(もや)がたゆたう時刻。
 玄関先から、何やら激しいなき声が聞こえてきました。
 翁と嫗はぱっちり目が冴えました。

 なき声は、鳥でもないし、蛙でもないし、野良犬のようにも思えません。

 二人は目を開いて見つめ合いました。
 それから生唾を飲んで、そろりそろりと玄関の扉を開けてみます。

 開けたその先には、小さな小さな赤子が、色とりどりの花で埋め尽くされた竹籠の中に、ちょっこり居たのです。

 二人は更に目を開いて見つめ合いました。
 嫗は惹かれるようにして赤子の側までよりますと、優しく抱きました。赤子は、ただただ泣いております。

「商人の言った通りになりましたね」

「そんな。こんなことが本当に起きるなど」

 翁は気のない声で言葉を漏らしました。
 けれども、嫗は優しい声で嬉しそうに言います。

「ですが、太郎さん。この子は生きています。心臓はとくんとくんと、動いています。この子が私達の本当の子でないとしても、私達の前に現われてくれました。桃の奇跡です。奇跡が、起きたのです」

 赤子を大事そうに抱きながら、今にも泣きそうな声で嫗が言うものですから、翁はそれだけでなんだか嬉しくなり、

「そうだな。そうだな。この子は俺たちの子だ。俺たちが大切に育てなければいけない」

 と、納得して言いました。

「ええ。その為にも、私達も懸命に生きなければ。この子の成長を見守らねばなりません」

「ああ。たくさん生きよう。私たちの希望の子だ。桃の子だ」

「ならばこの子は桃太郎ですね」

「名案だ、ぴったりの名だ」

「桃の奇跡の男の子。どうか私達の、後世に残る宝となってください」




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例「俺は太郎という名前だけど、ありふれているから翔に改名した」
・文字数は後の人が読むの大変なので程々の長さで!
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・箇条書きでも日記みたいな感じでも、ラノベや小説みたいな本格派も、とにかく自由です!(モラルは守ってほしいです) 楽しんで書いて下さい!!

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