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フランスにおけるガイドの役割を考える

先月フランスでは毎年恒例のヨーロッパ文化遺産の日があり、普段公開されていない場所が見られるということで、ディナンという街に行ってきました。

ヨーロッパ文化遺産の日については詳しくはこちらからどうぞhttp://tourismejaponais.com/2017/09/09/jep

とある教会のガイドツアーが始まる前に年配の女性とガイドさんがこんなやりとりをしていました。

「あなたは歴史家なの?」

「歴史家と名乗れるほどの者でもないですけど・・・(中略)外国語と歴史と美術史を勉強したんですよ。」

実際に私もお客様に時々聞かれます。「建築の専門なんですか?」とか。でも、上述のガイドさんと同じく、建築家ではないので持ち合わせている専門知識には限りがあるのは事実です。もちろん、ガイドするには歴史の知識も必要ですが、歴史家ほどの知識を持ち合わせている訳でもありません。

もちろん、専門家がガイドになったケースは別ですが、「広く浅く」ではなくて「広く深い」知識が必要とされるのがガイドという仕事ではないかと思います。どんな角度から質問が来るか分かりません。なので、日々勉強の毎日です。でも、決して研究者ではないので論文を書く訳ではありません。

そういう風に考えると、専門家では必ずしもないガイドの役割って何だろうって思ったりします。

教会のツアーが終わって、今度は城壁のツアーに参加していました。城門の仕組みなどを街の歴史を交えてガイドさんが丁寧に説明していました。そして、ツアーの最後の質問コーナーになって、もじもじしながらも女の子がお母さんに急かされて、勇気を振り絞って手をあげて質問をしました。

「mâchicoulisって何ですか?」

笑顔を浮かべるガイドさん。

「mâchicoulisっていうのは石落としで、ここから敵に向かって色々な物を落とすんですよ」

実はこのツアー中、このmâchicoulisという単語をガイドさんはよく使っていました。城壁のツアーなので避けては通れない単語です。でも、普段から城壁を見る機会があっても、こういった少し専門的な言葉は触れる機会は少ないのかもしれません。

でも、例えば城壁専門の研究家や歴史家がこういう風に現地で子供相手に解説したりする機会は少ないと思います。そこでガイドの出番なのです。フランスでは、文化財の大切さを知ってもらうために子供向けのガイドツアーを公認のガイドが行ったりします。こうすることで文化財をより短かに感じてもらい、次の世代へと受け継いでいってもらうためです。

実際にフランス人の小学生くらいの子供のグループを何度かガイドしたことがあります。大人をガイドするのに比べて遥かに難しいなと感じました。難しい言葉を使わず、情報を与えすぎず、メッセージを明確に。でも、そこにガイドの役割の本質がある気がします。

専門家の声に耳を傾け、それを分かりやすく一般の人に伝える。ガイドの役割の一つというのは、そういう風に文化財を身近に感じてもらうための橋渡しをすることなのではないかなと思います。

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