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「Marvel's Spider-Man」に学ぶ、見せないで魅せるUI/UX

1年ぶりの「ゲームから学ぶUI/UX」シリーズです。
第2回目は「Marvel's Spider-Man」をお題に、ゲームの中のあるものをあえて見せなくてもユーザー体験を損なわない、むしろ向上させる場合もあるという表現方法についてお伝えしたいと思います。
(先日開催されたDIST.27「ゲームから学ぶUI/UX II」にて発表した内容です)

「Marvel's Spider-Man」について

「Marvel's Spider-Man」は、ご存知アメコミMARVELのスーパーヒーロー、スパイダーマンとなって、ニューヨークマンハッタンのオープンワールドを舞台に、悪者をバッタバッタと倒し、街の人々を守るというアクションゲームです。

スパイダーマンのファンアイテムとしても、オープンワールドのアクションゲームとしても非常に完成度の高いゲームだと思いますが、内容についてはいろんなレビューサイトがあると思うので、興味のある方はぜひそちらをご覧ください。

では次に、冒頭でお伝えしていたこのゲームの中で「見せないで魅せるもの」を、3つご紹介していきます。

1. 作り込んだものを見せない

このゲームでは、ボス戦やストーリー上重要なアクションパートで、画面に表示されたボタンをタイミングよく押すことで映画のワンシーンのような格好いいムービーでフィニッシュすることができて、よりスパイダーマン気分を味わえるようになっています。いわゆるQTEと呼ばれるシステムですね。

また、ストーリーの進行上、これらのアクション要素の他に、ちょいちょいパズル要素が入ってくるときがあります。
例えば、

・うまく電流が流れない電子回路を組み換えて直す
・毒物のパターンを分析して解毒剤を割り出す

とか。

そんなに難しいものではないのですが、エレクトロニクスやメカトロニクス、サイエンスに関連したミニゲームをクリアして先に進む、というパートがあります。
いささか唐突感があるかもしれませんが、スパイダーマンの映画や原作を見てる方はご存知のとおり、スパイダーマンことピーター・パーカーはトニー・スタークも驚くほど各分野に精通した天才で、数々の戦闘ガジェットを自作するガジェットオタクでもあります。
なので、このパズルパートも、ある意味ピーター・パーカーぽさを忠実に再現したものと言えるでしょう。

ただ一方で、このQTEとパズルパートは、アクションゲームの中では、時として敬遠する人が多いシステムとしても知られています。
どちらも純粋なアクションを楽しみたいという人には、プレイヤーの行動を阻害する、やや邪魔なものと感じてしまうこともあるんですね。

でも安心してください。このゲームでは、オプションでQTEを自動化したり、パズルパートをスキップすることができます。

このようにゲーム要素として時間をかけて作り込んだ(であろう)ものを、一部のユーザー体験にそぐわないかもしれないと、バッサリとオフにできるのは、なかなか覚悟がいることだと思います。

だったら最初から入れなくてもいいんじゃない?という声もありますが、重要なのは、スパイダーマンとピーター・パーカーに成りきりたい人も、アクションに専念したい人も、両方がハッピーになれるアクセシブルなシステムになっているということです。

デザイナーにしろエンジニアにしろ、クリエイターとして自分の作った渾身のデザイン、プログラミングを見て欲しい!という承認欲求は少なからず皆持っていることでしょう。
ときにそれはモチベーションとなり、優れた体験を産み出すこともありますが、それが本当にユーザーの望むものかどうか、冷静に振り返ることも大切ですね。

2. 長距離移動の面倒さを見せない

オープンワールドのゲームでは、箱庭がリアルに広くなればなるほど、長距離移動が面倒になってくるというジレンマがあります。

このスパイダーマンにおいても、広大なニューヨーク・マンハッタンを舞台にしていますが、やはり端から端までの移動にはそこそこ時間がかかります。そこでマップの中にいくつか移動のための拠点が存在し、選択することで、拠点間の移動を省略することができます。移動省略中には、ロードも兼ねて電車で移動するスパイダーマンの姿が表示されるというにくい演出もあります。

ただ、このいわゆるファストトラベルと呼ばれるシステムは、多くのオープンワールドゲームに何かしらの形で採用されており、特段珍しいものではありません。

ところで話は変わって、先日僕の甥っ子がうちに遊びに来たときにスパイダーマンをやらせたら、かなりはまって1日ずっと一緒にやってたんですね。その中で、ゲームも中盤に差し掛かったところ、クエストに向かうためにウェブスイングで移動してたので、「ファストトラベル使ったら?」と聞いたら、「楽しいから大丈夫」と言われたんですよ。

「楽しいから大丈夫」

つまり、普通のゲームだと、「移動=面倒」となっていたところを「移動=楽しい」という認識なんですね。ファストトラベルを用意しつつ、一方で移動面倒問題に対しては、ある意味どストレートな回答と言えるでしょう。
確かに僕も、上の画像はウェブスイングで移動中のシーンをフォトモードでキャプチャしたものですが、いかにカッコ良い移動シーンが撮れるか?というのが楽しくてついついハマってしまいました。

まさに究極のUXとは「ぼくのかんがえたさいきょうのなびげーしょん」という便利なものではなく、技術と知識、ユーザーテストなどの積み重ねによって、当たり前のようにそこにあり、もはや形として認識しない見えないものだと感じました。

3. 見えないところへのこだわり

親愛なる隣人ことスパイダーマンは、どんな悪党でも、ぶん殴ってウェブでふんじばって成敗!という基本的には「不殺」を信条とするヒーローです。

しかし、ゲーム中にビルの屋上などでバトルしていると、ギャングをビルの外に向かってぶっ飛ばして「これは殺っちまったー!!」というようなシーンが多々あります。

だけど安心してください。

「落ちてなーい!」

ビル外に吹っ飛ばされたギャングは、プレイヤーの意思とは関係なく、死なないように自動的にウェブで壁に貼り付けられているのでした。
これはわざわざ追いかけて調べないと気付かないくらいのもので、もちろんゲームの進行にはまったく影響のない演出ですが、見事にスパイダーマンとしての矜持を守っているわけです。

UXというよりSX

さて、お伝えした3つの「見せないもの」は、地味だけどユーザー体験向上につながっている、ということだけではなく、これはもはやUXというより、「SX」スパイダーマン・エクスペリエンスを限りなく極めていると言えるでしょう。

つまるところ「見せないで魅せるUI/UX」とは、スパイダーマンへの、そしてスパイダーマンを愛するプレイヤーへの「リスペクト」によって成り立っている、と言えるのではないかと思います。

我々Web制作に携わる人間としても、ターゲットとなるユーザーの上っ面なペルソナを想定するだけではなく、ユーザーがコンテンツに対して何を投影して、何を望んでいるのか?を真摯に考えながら、例え派手じゃなくても最良のものを提供できるように精進していきたいと戒めるのでした。

・・と、いうところで締めたいと思います。

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