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メリットとベネフィット


マーケットインとプロダクトアウト

新しい商品やサービスを企画するとき大きく分けて二つのアプローチがあるだろう。一つはマーケットイン型、そしてもう一つがプロダクトアウト型。

市場のニーズを掴んで、望まれるものを作り出し、それを世に送り出すのが前者、自社のこだわりをもったよいものを世に送り出すのが後者だ。人によって定義には若干誤差はあるかもしれないが概ね同じ方向性だと思う。

世に全くなかったものを創り出す場合、そもそも巷の人々が想像できてないのでニーズが顕在化していないこともあり、プロダクトアウト型でやらざるを得ない。一方で、既に世にあるものの組み合わせであれば、ある程度の調査と予測から人々が求めているものをあてにいく形になるので、マーケットインになる。

ここで今回のお題に戻りたい。マーケットインとプロダクトアウトではなく、メリットとベネフィットの話だ。具体的にAppleとSonyの一般向け製品を例にとって考えてみたい。

AppleとSony

よくAppleとSonyの製品の開発プロセスが比較され、Sony製品が「市場のニーズをわかっていないプロダクトアウト型だから負けるんだ」という意見がある。確かにAppleのマーケティング力は世界最高峰で市場のニーズをよく理解したうえでい、それを製品づくりにも活かしている。では、Sonyの中の人はそんなにマーケティング力がAppleと比べて劣るのだろうか?確かに世界中の優秀な人材を集める力という点ではAppleに軍配が上がるだろう。少なくとも2020年現在においては。しかし、それよりもモノづくりの考え方で重きを置いている、こだわりを強くしている部分に差があるように見られる。それがメリットとベネフィットの部分だ。

メリットとベネフィット

まず先に英語上の意味の確認をしておくとBenefitは利益や「ためになるもの」という意味になる。一方メリットは、長所や優位な点。日本英語的には英語圏でいうPros & ConsのProsにあたる。Advantageともいえる。

広告においてもWebサイトや動画で商品やサービスの説明をするにしても、一番顧客に伝えなくてはならないのはベネフィットだ。その商品やサービスを得ることで何が得られるのか。特に昨今重要視されているのが「体験」でのベネフィットだ。よりよい体験を得ることが非常に重視され、それを提供できる企業が人気を集めることになっている。

もちろんSonyの製品も実際に使ってみるとその品質の高さから極めて高い体験を得ることができる。ハイレゾやノイズキャンセリングの先駆者として、評判の高い製品を数多く出しているし、映像や画像のセンサーや処理エンジンににしても、業務用カメラはもちろん、いまだ多くのスマートフォンの裏側で活躍している。ミラーレス一眼の分野では他の追随を許さない状況だ。

では、それほど高い技術力を持った企業が、部品を寄せ集めただけのAppleに勝てないでいるのか?それは、メリットに偏重しているからのように思われる。現場の方やその業界の裏に精通している方からは「いやそんなことはない。何を知ったようなこと言っているのか。」と言われるかもしれない。そこで2つの商品を例に差を比較してみたい。

スマートフォンでの比較

一つ目はスマートフォンだ。よくiPhone vs Androidといった「電話とOS」を比較するといったちょっとズレた論争もあるが、ここでは比較軸を合わせるため、iPhoneとXperiaを例にとりたい。結論からいうと、ハードウェアとしての品質としてはXperiaの方に軍配があがるのではないかと思われる。メモリ・CPU、その他の内部のチップや表面の素材、音響にカメラといったあらゆる部分で同時期に全く同じ価格の製品が両ブランドから出された場合、この10年近くを比較する限りほぼXperiaの方が勝っている。同じお金を払って得られるスペックはSonyの方が上回ることが多かった。

スペックの総合評価の満点を100とした場合、安価なAndroidは40点~60点のものが多いが、GalaxyやXperiaは90点近くで競ってきた。最近は中国製でもTOP2社のブランドは非常に競ってきているのは事実だ。しかし、Appleはそれら90点クラスと同じかそれ以上の値段にも関わらず、スペックだけみると80点くらいのものが続いている。

ではなぜ80点でも売れに売れ人気を集め続けることができるのだろうか。それは顧客への体験としてのベネフィットを追求しつくした結果と言えるだろう。iPhoneユーザーはよく「使いやすい」ということを口にすることが多い。これぞ市場が求める最も重要なベネフィットの一つだ。それは画面遷移だったりボタンの配置などいわゆるユーザーエクスペリエンスがこれでもかというくらい練りに練られている。特にこだわりがない場合、あまり考えずに使えてしまう「使いやすさ」がここにはある。

例えば、プロのカメラマンは細かい設定が必要だし、趣味だとしても最高の写真を撮りたい人は高度な一眼レフを自分なりに調整して使うだろう。しかし、それはかなり上級者で、一般人がみんな求めているものではない。一般人は「ある程度きれいな写真を手軽に」撮れるカメラであればいいのだ。

テレビCMなどではさも最先端の機能を初めて取り込んだようにみせて、他社が過去に出した機能を後出しで実装して
Appleはより多くの人が求める「体験」を追求したマーケティングの企業と言える。製品製造の匠でなければ、そうである必要すらないからだ。一方のSonyは一つ一つの機能や性能をみると極めて高いメリットを顧客に提供してくれる。こだわる人にはこれが「刺さる」。痒い所に手が届く設定を自分でやりたい人にはSony製でなければならないのだ。

著者はiPhoneもXperiaもいくつか使ってきたが、個人的には細かい設定ができないiPhoneに使いづらさを感じたりもした。しかし、どうやら市場にはそういう人が大衆ではないようだ。

フルワイヤレスイヤホンでの比較

もう一つの例として挙げるのは、フルワイヤレスイヤホンだ。AirPods ProとSonyのWH-1000XM3を比較してみたい。まず名前からして覚えにくいSonyは「Sonyの高いやつ」くらいしか口コミが広まりようがなく、認知の広がりという観点でいろいろ難しい。とはいえ、本体の性能の比較に戻ろう。

AirPods Proは普段使いを徹底的に研究したうえで作られた極めて高いユーザービリティと高いノイズキャンセリング機能をもったワイヤレスイヤホンだ。一方で、Sonyは絶対的に音質を犠牲にしたくなかったためか、多少ノイズキャンセリングにおいてAirPods Proに劣る。これは数多くの比較サイトやまとめ記事、評価型Youtuberもほぼ同じような意見が多い。音から得られるベネフィットが大きい人には間違いなくSony製品を選ぶのがいいと思われるが、通勤等動く「生活の一部」として使うならおそらくAirPods Proの方が、大きなベネフィットを得られる人が多いだろう。

ここでも音としてのメリットを追求したSonyと、多くの人の生活の一部におけるベネフィットを考えたうえで製品デザインしたAppleの差がみられる。

+αのマーケティング

Appleのうまさは、ベネフィットを追求したマーケットイン型の製品づくりだけではない。つくった後の市場に知らせる力としてのマーケティング力も秀逸と言わざるを得ない。

テレビCM等のマスメディア広告では、さも最先端の機能を初めて取り込んだようにみせて、他社が過去に出した機能を後出し(確かにユーザー体験としは磨きをかけてからだが)を追加しただけでもファンに高いベネフィットを与えている。

モノづくりでも顧客のニーズをとらえ、それをうまく伝えていくことができる。Appleは製品デザインの最高峰というよりは、マーケティングの最高峰の企業と言える。Sonyは製品デザインは最高峰だが、マーケティング力でAppleとの差を縮めるにはこれまでとは違ったアプローチが必要になってくるかもしれない。+αのマーケティング力を期待したい。

最後に

性能としてのメリットを数多く載積するよりも、一つの大きな顧客のベネフィットをきちんと理解し、それを実現するためのものやサービスをつくれる企業がこれからも勝ち続けるだろう。





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