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enechainへ投資した理由

電力取引プラットフォームであるenechain(エネチェイン)にDCMから投資を行いました。
enechainの特徴は、1)"ペインポイント"とは軽々しく表現できないほどの甚大な損失をもたらす現状の業界課題、2) 電力取引プラットフォームを立ち上げるには最高なタイミング(Why now)と欧米の類似ケース、3) その課題の大きさからの優れた実績、4) 経験あるチームです。この4つについて説明したいと思います。

1) 市場とペインポイント: 新たに生まれた巨大市場の甚大な経済的インパクト

電力市場は小売では25兆円、卸では9兆円ある巨大市場です。2016年から電力小売が自由化されたことで、携帯会社、ガス会社、独立企業等700を超える企業が「小売」に参入し、発電能力をもたない大多数の電力小売企業は、卸売企業(発電を行う電力会社)から電力を買って、一般消費者に販売しています。

2016年の電力小売自由化によって、25兆円の小売市場だけでなく、9兆円の卸売市場が突如誕生しました。エネチェインが事業を行うのはこの卸売市場です。

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この卸売市場には"逆ザヤ"という大きな課題があります。
私たちが普段契約している電力価格が今日は25円/kWhだけど明日は40円/kWhということはないように、"小売価格は契約で決められた固定価格"ですが、発電会社から電力小売企業への卸売価格は大きく価格が上下します。
例えば先日の大雪の際にも通常より電力使用が増え需給が逼迫し、卸売価格が大きく高くなりました。電力の卸価格は通常平均kWhあたり15円ですが、過去2年で1円から200円までの200倍のブレがありました(とくに翌日の電力の売買を行う前日市場にこの価格差が生まれます)。

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電力小売価格は平均25円/kwh程度ですが、それを1円/kwhという卸価格で買って25円/kwhで売る日もあれば、200円/kwhという卸価格で買って25円/kwhで売らざるを得ない日もあったということです。

この200倍もある前日市場の価格のブレにより、ときどき小売価格を卸売価格が大きく上回る「逆ざや」となり、業界トップの小売企業Fパワーが破産した事件もありました。

以前こちらの記事でバリュープロポジションにおいて、ペインポイントの深さはa.緊急性/必要性 x b.経済インパクト x c.頻度の掛け算で考える、と記載しましたが、このエネチェインが解決しようとしている課題の「経済インパクト」は計り知れない程大きいのです。

この"ペインポイント"と軽々しくは呼べないほどの顧客にとっての経済インパクトの大きさがエネチェインの事業の特徴です

2) Why nowと類似企業: 欧米と同じ道を進む日本市場

2016年の電力小売自由化によって突如生まれたこの9兆円の巨大市場ですが、欧米でも1990年代後半から同様の自由化がおきていました。

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そして、それぞれ米国ではICEという企業が2000年に設立、欧州ではEEXという企業が2002年に設立され、エネチェインと同様の電力取引プラットフォームを担いました。

ICEはニューヨーク証券取引所を買収するほどに事業が成長し(NYSEを含めた時価総額8-9兆円)、EEXはドイツ取引所と合併しています(合わせた時価総額約4兆円)。

それぞれ小売り自由化から3-4年後にできた会社ですが、enechainが誕生したのも2016年の自由化の3年後の2019年です。

成功するスタートアップには、新しいデバイス、プラットフォームの浸透などの、"Why Now"(最高なタイミングである理由)があるものですが、enechainにとってはこの規制緩和こそが強力な"Why now"になっています。


3) プロダクトと実績: B2Bマーケットプレイスのベストプラクティス

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エネチェインは前述した深いペインポイントから、設立2年で業界大手40社のうち35社を顧客として獲得し、過去1年の「実績」での取扱高(GMV)でもB2Bマーケットプレイスとしては国内では例をみない規模をもつスタートアップです。

優れたマーケットプレイスでは顧客の取引が徐々に増していきます。ただし電力取引のGMVは季節性で上下するため、どのように伸びているのか、それを定量的に見極めるため、GMVのブレークダウンをより注意深く追ってみます。

左から、取引を行った顧客数、顧客ごとの平均取引回数、一回あたりの取引額、を記載しています。顧客が増えているだけでなく、顧客がよりアクティブになっていることがわかります。

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また、より大切な見方として、コホートのリテンション(新規顧客になってからxxヶ月ごとにどの程度取引を行っているか)があります。
enechainのコホートリテンションは下記のようになっています。新規顧客になった初月は定義上100%で、そこから2ヶ月目は落ちますが、その先ではenechainの顧客の取引アクティブ率は下がるどころか上がっています

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一般的なサービスでは、徐々に使われなくなりこのグラフも下向きに落ちていきます(悪いサービスはそのスピードが早い)。一方で、このグラフが高い水準で保たれるのがいいサービスですが、enechainはさらに上向きに増えていき、このようなサービスは稀だといえます。

GMVの実績だけでなく、この顧客のエンゲージメントは、B2Bマーケットプレイスのベストプラクティスと言えると思います。

4) チーム: チームの強い経験とビジョン


市場やプロダクトより何よりも大事なのは、チームです。市場を選ぶのもチーム、プロダクトをつくるのもチーム。
特にこの専門性が高く、顧客の要求レベルが高く広範で、「素人によるミス」が許されない市場において、チームの経験はとても重要で野澤さんでなければ投資していないと断言できます。

CEOの野澤さんは関西電力、BCGの電力チームで、15年ずっとこの電力業界に身をおいてきた人間です。彼とは2018年から事業の相談にのっていましたが、電力業界の深いコンテクストを理解するのは、素人の自分にはとても大変でした。

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野澤さんは米国駐在時にICEのプラットフォーム上で取引をしていたトレーダーとしての経験を持ち、共同創業者の加藤さんは日本の電力ブローカーの第一人者です。この二人が自身の経験から、「日本にもこういうプラットフォームがあるべき」という強いビジョンを持って会社を作りました。

野澤さんが加藤さんと会社設立の説得しているときに「ホンマにいけそうなんや!」と興奮していたのを今でも覚えています。

投資に至った一番の驚きは組織です。野澤さんとはMBA時代からの10年来の親友で、まさか起業するとも思っていなかったですが、もっと驚いたのは、これだけいい組織をつくり、カルチャーづくりを第一に考える人になったことです。

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