行政文書開示:覆土無しでの除染土での食用食物栽培実証事業について

放射性物質の処理・処分に関する研究の一環として行政文書開示請求をしたところ、福島県飯舘村長泥(ながどろ)地区で、覆土無しで再生土壌(除去土壌[除染土]を分級などしてつくった土)で食用作物の栽培をすることが、非公開の場で決められたことがわかりました。これについては、共同通信が2020年8月9日に記事を配信しました。これについて、情報開示で得られた全ての資料をおいておきます。

開示文書はこちら (※ 開示文書は特に私に連絡することなく使用していただいて構いません。ただし、大島が行政文書開示請求で得たものであることを明記しておいてください。)

(※さらに、地元に連絡せずやっていたことがわかりまりました。

現時点(2020/08/09)でわかっている事実・論点と思われるところはおおよそ次のとおりです。現在他のことで忙しく、まとめている時間がないので、関係資料を読み込み、認識が深まった時点で、適宜修正し、(どこかで)報告します。

1)覆土無しでの再生土壌(除染で発生した除去土壌[一般には除染土と言われています]を、分級[ふるいにかけたりゴミや石などを取り除くこと]等の処理をして「再生土壌」と名前を変えたもの)で、食用作物の栽培することを国は、非公開の会合(除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ等)で決めていました。

2)従来、環境省は、花卉類の栽培の実証実験を行うと、審議会をはじめとして各所で説明を行ってきました。多くの人が、食用作物栽培、さらには覆土無しの食用作物栽培について認識があったとは思えません。※私も初耳でした。

例えば、2020年2月25日の衆議院予算委員会第六分科会では、「資源作物類」の栽培や、「実証事業の一環としまして、地元の方々にも御協力をいただきまして、ビニールハウスでトルコギキョウ等の花卉の栽培を行っているところでございます。」と政府参考人の森山誠二氏は話しています。(該当部分は国会議事録にあります)

(しかし、このときにはすでに食用作物の覆土無し栽培について、議論が進んでいました。)

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2020年4月6日の衆議院決算行政監視委員会第一分科会で、小泉環境大臣は、「一方、ことしの二月九日に、私自身、飯舘村長泥地区を訪問しましたが、菅野村長始め多くの住民の方々から実証事業についてさまざまな御意見を直接伺いました。その中で、これまでの技術的な検討において対象としていなかった食用作物についても、試験栽培を実施してほしいとの御地元の御意見がありました。
 このような御地元の御意見を受けまして、改正省令案の内容と今後の進め方について検討した結果、まずはさまざまな作物に対しての実証事業などを引き続き行い、その結果も踏まえて制度化の検討を行うことが最もいいのではないかと判断をさせていただきました。」と述べていますが、覆土無しの食用作物の栽培の実証実験については、言及していません。

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3)開示決定されるまで、実質的な検討を行った、除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループの会合および議事録、資料は非公開でした。

2020年2月に開催されたワーキンググループの開催記録は、半年経った今もホームページでの公表すらされていません。
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

4)覆土無しで栽培することは、開示決定後調べたところ、「飯舘村長泥地区環境再生事業運営協議会(第7回)議事要旨」でごく簡単に記載されていました。

該当する内容は議事要旨に2行しか記述がありません。目立たない文書にちらっと書いていると言ってよい程度です。食用作物を覆土無しで植えるとは読み取ることができません。ほとんど経緯も具体的内容もわからず、読み飛ばしてしまうレベルのものです。

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5)環境省は、住民の要望があったことを理由としています。しかし、「住民」とは何なのか、いつ、どこで、だれを対象に調査を行ったのか、どのような要望であったのか、は不明です。

なお、上記で紹介した小泉環境大臣の国会での発言に「一方、ことしの二月九日に、私自身、飯舘村長泥地区を訪問しましたが、菅野村長始め多くの住民の方々から実証事業についてさまざまな御意見を直接伺いました。その中で、これまでの技術的な検討において対象としていなかった食用作物についても、試験栽培を実施してほしいとの御地元の御意見がありました。」とありますが、今回の開示文書(そのときの発言の記録があります)にはそのような発言はありません。

お一人、「今は福島市内でこの長泥の気候に合う野菜を作りたくて農業をやっています。この再生事業が始まって、早くまた長泥に戻ってきて、農業をやりたいなという気持ちがあるんです。ですから、この事業をどうしても成功させるようにお力添えをお願いしたいと思います。」と発言されています。

この思いは多くの方が共感できるものでしょう。とはいえ、この方の思いから、再生土をつかって食用作物の試験栽培を実施してほしいという地元の要望があったと言うことには、無理がないでしょうか。また、この会合以前に、覆土無しでの食用作物栽培実証事業についての議論が進んでいました。

6)除去土壌の再生利用のあり方については、2020年3月に省令改正する予定でした。パブリックコメントが行われましたが、多くが反対の意見を表明したとされています。このとき、あわせて「手引き」を作成するとされていましたが、見送られた「手引き」は、道路や堤防などの基盤材として用いることについてのものであって、農地を対象にしたものではありませんでした。除去土壌の基盤材としての再生利用ですら、問題が百出していました。農作物について議論は全くありませんでした。

※除去土壌については、『科学』2020年3月号に寄稿しています(「除去土壌(除染土)の再生利用をめぐる諸問題」)。

※パブリックコメントの内容は、分析後、どこかでお知らせします。

7)飯舘村が申請し復興庁が認定した「飯舘村特定復興再生拠点区域復興再生計画」では、「農の再生ゾーン」に「再生資材で盛り土した上で覆土することで、農用地等の造成を行い、農用地等の利用促進を図る」としています。これが再生計画です。食用作物栽培の実証実験とは書かれていません。また覆土無しとも書かれていません。

8)総じていえば、省令も、手引きも、ガイドラインもなく、パブリックコメントもせず、国会で報告せず、非公開の少人数で構成されるワーキンググループで検討し、特定復興再生計画にもない食用作物の栽培、さらには覆土無しの食用作物の栽培を国・環境省は開始しました。

以下は、当方の現時点での考えです。

検討プロセス、決定プロセスが非常に不透明と言わざるをえません。

住民の要望があったから食用作物の栽培を行ったとしていますが、住民の要望があったからといって、再生土(名前をかえていますが元は除染土です)で、しかも覆土無しで栽培することを、非公開の場で決めることに正当性はあるでしょうか。逆に、説明できないからこそ、非公開にしていたともとらえられます。

住民の観点からすれば、地域を再生し、農業を再開したいというのが住民の切なる願いでしょう。地域を復興させたいという住民の思いに、寄り添うべきです。

しかし、除染土壌を持ち込み、あえて除去土壌の上で栽培したいと、住民が要望するでしょうか。

「地域の再生事業」と「再生土」の利用とは明確に意味が違います。したがって、区別して議論すべきです。

地域の再生事業を除去土壌の持ち込みとセットにしてしまえば、地元は「苦渋の決断」をせざるをえない状況に追い込まれてしまいます。

除去土壌の持ち込みと実証事業をセットに地域支援をする → 除染土に覆土して花卉栽培をする → 花卉栽培だけでなく食用作物も植える → さらに覆土もしないで食用作物を栽培する とエスカレートさせていくことが、本当に住民の願いに寄り添うことになっているのでしょうか。

除去土壌で栽培してよい、どこでも使ってもよい、ということを示すための実証実験になるのではないか、という心配をされる方もいるかもしれません。そのようなことにならないためにも、公開の場で議論を尽くすことが必要でしょう。


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