カレル・チャペック『白い病』(第1幕第1場)

阿部賢一訳

第1幕 枢密顧問官

第1場 

 (包帯を巻かれた三人の患者)

患者1 ペストったらペストだ。うちの通りにある家はどこも、ペストにかかってる奴が何人もいる。おい、お前もあごに白い斑点ができてるぞ。ある奴は元気で、何ともなかったというのに、次の日には、俺みたいに、体から肉がすっかりそげ落ちてしまったらしい。これはペストだ。

患者2 ペストじゃない、ハンセン病だ。〈白い病〉とも呼ばれている、だが、天罰と言うべきだな。何の理由もなく、こういう病気にかかるわけがない。神さまが私たちを罰しているんだ。

患者3 ああ、神よ――神よ――神よ――

患者1 天罰か! 天罰とは! いったい、この俺が何をしたからといって、天罰を受けるというんだ。たいしていい生活もしてない、知ってるのは貧乏暮らしだけ。貧しい連中を罰する神さまがいるとしたら、よっぽど変わり者の神さまじゃないか?

患者2 まあまあ、よく考えるがいい。はじめのうち、病は皮膚の表面だけだが、その後、体内の肉を喰らいはじめる。お前も、そうなればこう言うはず、いや、普通の病気とは違う、罰に違いない、何かの理由があるはずだって――

患者3 神さま……天にまします神さま――

患者1 ああ、理由はあるよ。この世の人間が増え過ぎたってこと、だから、他の連中に場所を明け渡すために、我々の半分を厄介払いしようってわけ。そうなんだ。お前はパン屋だろ? そしたら、お前は別のパン屋に場所を与える。貧乏人の俺さまは別の貧乏な奴に場所を与える、そして俺に代わって貧困にあえぎ、腹を空かせるってわけだ。それが、このペストが現れた理由だ。

患者2 これはペストじゃない、ハンセン病だ。ペストなら、お前は紫になってるはず、だが、ハンセン病で白くなってる――そう、チョークみたいに。

患者3 ああ、神様――イエスさま――キリストさま、どうかご慈悲を――

患者2 お前は独り身だからまだましだ。だがかみさんや子供から毛嫌いされたらどうする――あいつらも、この俺といるのが耐えられりゃあしない! 今じゃあ、かみさんの胸にも白い斑点がある――隣に住む煙突掃除夫の奴は、昼夜を問わず呻きっぱなしだ。

患者3 ああ――ああ――ああ……

患者1 黙れ! 病人の嘆きなんて、誰も聞いてくれやしない!

   


(C) Kenichi Abe

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