見出し画像

消滅7割・裏方2割・加速1割。インターネット芸人の進路3類型。

ブロガー界隈でもがいていた2016年、僕の席次は300番くらいだった。


2016年、「インターネットで何事かを発信して生きたい」という人々の欲求はピークを迎えた。「好きなことで、生きていく」というイデオロギーが浸透し、YouTuberだのブロガーだのWEBライターだの、そういう肩書に憧れる人が芋洗い状態だった。今になって思えば実に滑稽なムーブメントだ。家の風呂にスライムを流し込むのが「好きなこと」であるはずもないのに。

画像1


それでも、深く物事を考えないアンポンタンは、聞こえの良いイデオロギーに夢中になる。「敷かれたレールの上を走るのはオレの人生じゃない」などと、借り物の言葉でレールから脱線していく。脱線した車両はたいてい大事故になることを知りながら。

僕もそうだった。慶應の大学院進学をやめてインターネット芸人になるのは、客観的に見て、あまりにも愚かな決断だ。もう一度22歳をやり直せるのならば僕は大学院に行くか、就職活動をするだろう。リクルートに就職したい。給与をもらいながら、会社の金で新規事業を立ち上げたい。手痛い失敗を、他人の金で体験しておきたかった。


愚昧なる僕は、売上もほとんどないままにブロガー界隈でもがいていた。毎日、パッとしない記事を書いてみたり、しょぼいクライアントワークをやってみたり、出口のない日々だった。

それはそれで美しい青春の思い出だし、楽しかった時期でもある。「なぜ売れないんだ」と頭を抱えながら苦しんで、そこから逃避するために仲間と酒を飲んだり、ダラダラ遊んだりした。悩みを前向きに解消するのではなく、逃避するために無為に浪費する時間。得も言われぬ甘美さだ。青春の本質は時間の浪費にあると思う。


当時の僕の席次について考えたい。ブロガー界隈、すなわちインターネットで自己表現に近い文章を書き散らかし、その人気で生計を立てる人の中で、僕は300番目くらいだった気がする。イケてる(とされる)人たちがやたらとバズったり稼ぎを自慢したりしていて、しばしば敗北感に打ちひしがれていた。

あれから6年が経った。僕の席次はずいぶん上がった。もはや自分のことをブロガーだとは思ってないけれど、今、ブロガー番付に自分を組み入れるとしたら、10位以内には入るんじゃないだろうか。

これは、僕が成功したというよりも、他の人がいなくなったという方が正しい。どんな世界でも同じだ。上が抜ければ繰り上がりが起きる。


インターネット芸人のキャリアは、大きく分けて3種類だ。

・消滅する

・裏方に回る

・加速する

割合はそれぞれ、7割・2割・1割といった感じだろうか。「消滅7割・裏方2割・加速1割」と憶えてほしい。インターネット芸人大学の二次試験で頻出の問題だから。


今日は、そんなキャリアの類型について書きたい。僕の友人たちも7割は消滅し、2割は裏方に回り、1割は加速した。僕は奇跡的に生き残って加速する方に入ったけれど、その中で様々に変わっていく人や脱落していく人を観測することができた。

以下、僕が見てきた具体例を交えながら、インターネット芸人たちの3つの進路パターンを描きたい。あまり表に出すべきでない話もあるので途中から有料になるが、気になる方は課金して読んでほしい。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ始めても今月書かれた記事は全部読める。6月は4本更新なので、バラバラに買うより2.4倍オトク。


消滅する

一番多いパターンがこれ。無言で消滅していく人。

ブロガー界隈の飲み会では、「あいつ、突然連絡が取れなくなったよ」なんて話をよく聞いた。

「オレは会社勤めなんて凡庸な道は選ばねえ!自己表現で食っていくぜ!」などと言い出す人間は、自己顕示欲が強く己の才覚を客観視する能力がなく人間的に未成熟で、精神が安定していないことが多い。

精神が安定していない人間は、行動や言動も安定していないので、突然バックレることがある。すべてが嫌になって消滅するのだ。

「仕事を振ってたのに連絡が取れなくなった」という怖い話もよく聞いた(し、僕が仕事を外注していた人がバックレたこともある)。


連絡がまったく返ってこなくなるのは一番ドラスティックなパターンだが、もっと無難なのもある。徐々に疎遠になっていくパターンだ。

よく一緒に遊んでいたLINEグループで、その人の発言が着々と減っていく。「◯◯やろーよ!」という誘いに食いつかなくなり、既読スルーが増える。

直接連絡してもフワッとかわされるので、徐々に連絡を取る機会も失われていき、いつの間にか消息不明になっている。

こっちの方が多いパターンだ。連絡が急に途絶えるデジタル的な消息不明よりも、フェードアウト消息不明の方が多い。


フェードアウト消息不明になった友人と、数年ぶりに再会したことがある。

彼は語っていた。「フリーランスをやっていても結果が出せないし、将来への不安もすごいし、ツラかった。成功している友人と遊んでいると比較してしまって嫌だった。だからこっそり就職活動をしつつ、なんとなく疎遠になっていった」と。

多分、これが典型的な消滅インターネット芸人の思考回路であろう。結果が出せない焦りと不安に押し潰されそうになりながら、それでも意地を張って仲間と遊んでいる。だけどある瞬間に限界を迎えて、就職活動を始めてしまう。

就職活動を始めたブロガーは悲惨だ。彼らはたいていの場合、軽薄なムーブメントに乗っかって「会社員は奴隷だ!オレは自由に生きていくぜ!まだ会社員で消耗してるの?」なんて記事を過去に書いている。かつて自分が投げた石は、100倍のサイズになって自分に返ってくる。自分の言葉は、他人の言葉よりもずっと重い。

これは現代の寓話だ。自分が書いた「会社員はダメ」という言論が、仲間が書いていている「会社員はダメ」という言論が、自分の肩身を狭くさせる。就職活動をしていることを言いづらくて、グループからフェードアウトしていく。軽率に書いた記事は、自己肯定感を削り取り、友だちを減らすのだ。


だけど、彼らも結構幸せになっている。早い段階でフェードアウトできた方が幸せかもしれない。

前述のフェードアウトマンは、24歳でフリーランスになった人だった。新卒で入った会社を2年で辞めて、フリーのブロガーへ転身。結果が出せない不安に半年ほどで限界を感じ、さらに半年後にはまた就職。結局、彼のフリーランス生活は満1年だけだった。

特に大きくもなければ小さくもないIT企業に入って、普通に会社員として楽しく暮らしているようだ。「あの頃よりも幸福度は確実に高くなった」と言っていた。雨降って地固まるというか、「フリーランスを経験して会社員が楽しくなる」といった感じだ。そういうことは往々にしてある。

消滅パターンは一見悲しいように思えるけれど、幸せになっている人も多いのだろう。中途半端に食えてしまって5年も6年もズルズルと続けてしまう方が悲劇なのかもしれない。僕は消滅するタイミングを逃した悲しい人間なのかもしれない。


ここから先は

4,892字 / 3画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?