コーチング実績から見えてきた心のケアとパフォーマンスの両立支援
今回ご登壇頂いたのは、サイボウズ株式会社で人事本部採用チームリーダーを務めながら、ZaPASS認定プロフェッショナルコーチでもある綱嶋航平さんです。
綱嶋さんは、サイボウズ株式会社に勤務されながら2019年よりプロコーチとして活動されており、ビジネスパーソンや学生に対して累計80名以上にコーチングを提供されています。
今回は、コーチング経験も豊富な綱嶋さんから、「コーチング実績から見えてきた心のケアとパフォーマンスの両立支援」をテーマにお話頂きました。
※本記事は、2020年10月8日に開催されたHR Millennial Lounge#11」のイベントレポートとなります。(テーマは「仕事やキャリアと「こころ」について考える~ ウェルビーイング、コーピング、コーチング」になります)
はじめに
サイボウズでは人事、またプロコーチの活動もしている綱嶋と申します。今日はよろしくお願いいたします。
私からは「コーチング実践から見えてきた心のケアとパフォーマンスの両立支援」というテーマで話します。
初めに自己紹介をさせて頂きます。
私は企業向けの情報共有サービスであるグループウェアを開発、販売をしているサイボウズ株式会社の人事で新卒採用チームのリーダーをしております。
また、2019年からプロのコーチとしても活動しており、ビジネスパーソンや学生の皆様向けにコーチングを行っております。
コーチングを行った人数は80名以上、時間としては350時間を費やして来ました。
今回は、私がコーチング活動をしていく中で見えてきたことについてお話できればと思います。
本日の私の話を通じて、「ビジネスパーソンの皆さんが抱えていらっしゃる心のケアと仕事のパフォーマンスの両立に対して関心を抱いている皆様」に「感情と行動両面から支援していくコーチングが心のケアと仕事のパフォーマンスの両立に寄与しそうだ」と思っていただけると嬉しいです。
コーチングとはクライアントの可能性を公私において最大化させること
コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、「クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと」です。
対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントのパートナーシップを意味します。
今お話しした定義は国際コーチング連盟の日本支部のホームページから引用したものですが、この定義で特に大事な点は以下の3点だと思っています。
まず1点目は、クライアント自身が「公私にわたって自身の可能性を最大化させていく」というところに主眼が置かれている部分だと思います。
2点目は「対話を中心としたコミュニケーションを通じて行われる」のもこのコーチングの特徴の一つです。
そして3点目は、「柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援していく」というところがコーチングで大事にされている部分になっています。
補足となりますが、コーチングは「医療行為」ではありません。
そのため臨床的な対応が必要になる精神的な疾患をお持ちの方に対しては、きちんと医療従事者の方に適切にエスカレーションするということもプロコーチとして一つ求められている倫理規定になっています。
良くこのようなお話をしていると、「コーチングと似たようなものがいろいろあるよね」というお話をお伺いしますので、他領域との違いをご説明させて頂き、もう少しコーチング自体の理解を深めるご参考になればと思っております。
以下スライドの通り、コーチングに似たものとして、「カウンセリング」・「ティーチング」・「コンサルティング」等があります。
これらの違いはアプローチの仕方で変わってきており、1つの観点として関わり方の違いがあります。
関わり方は、答えがないものに対して支援を行っていくパターンか、既に答えがあるものに対して指導していくパターンの二つに分かれています。
コーチングの関わり方は、答えがないものを支援していくことになります。
そしてもう一つの観点は、目指す方向性の違いで、マイナスの状態からゼロの状態に持っていくか、ゼロの状態にあるところから、目的を見出した人がプラスに向かっていくかで別れてくると言われています。
コーチングは、クライアントの目的に向かいゼロからプラスへ目指していくことになります。
まとめると、答えがないものに対して支援するような関わりをしながら、目的に向かってゼロからプラスを目指していくのがコーチングであると言えます。
コーチングの実践による貢献はメンタルを安定させ高いパフォーマンスを実現すること
続いて私がコーチングの実践を通じてビジネスパーソンの方々に対してどのような貢献ができたかをお話させて頂きます。
以下の通り、コーチングの実践を通じて「メンタルを安定させながら高いパフォーマンスを実現させる」、まさに車の両輪のような関係性を築けていると考えております。
多くの方は、仕事やプライベートでもやもやとしたものを抱えていて、「もっとこうなっていきたいんだよな」という想いを抱えています。
そのようなクライアントに対して、コーチングの機会を通じて対話を行い、内省を深めていくことによって、具体的なアクションプランの練り上げとその実践を継続的に行うことができます。
つまり、コーチングを通じてクライアントが新たな目標を持って仕事に取り組んでいけることになると考えています、
また、仕事だけに限らず、クライアントの人生全体をより良くするために、コーチングの実践を行っております。
コーチングの重要なポイント①:やってみたいことをやってみる状態へ目指す
ここから、実際にコーチングを実施してきて大事だと感じたことについてお話させて頂きます。
まず1点目ですが、対話を行っていく上で、必ずクライアント自身の中の葛藤と向き合うフェーズがやってきます。
葛藤についてサボタージュと表現しますが、コーチングの中でサボタージュというと「自分自身の行動を止めるような制限的な思考や感情」のことを示しています。
具体的な例としては、クライアント自身の中で「わくわくしている!」、「こんなチャレンジをしてみたい!」という気持ちがありながらも、一方で「いやどうせだめだよな」、「これしたら笑われるんじゃないか」、「上司に必ず否定されるんじゃないか」といった自分を押し込めてしまうような思考や感情が出ることがあります。
コーチングでは、このような制限をかける思考や感情をしっかりと吟味してどのように取り扱っていくかを考えていくことも支援します。
一歩踏み出すと、リスクがあるということも認識しながらもそれでもやってみたいと思えることに対してどうアクションしていくのか実現に向けて対話を行っていきます。
コーチングの重要なポイント②:心理的安全性とパフォーマンスのプレッシャーの状況を把握する
もう一つは、クライアントの所属コミュニティにおける心理的安全性・パフォーマンスのプレッシャーがどのような状況にあるかを理解することが重要な観点となります。
以下の図は、心理的安全性とパフォーマンスに対してのプレッシャーを4象限で示したものです。
左下の心理的安全性・パフォーマンスへのプレッシャーが共に低い状況はApathy Zoneと呼ばれ無気力になっている状態です。
その上の心理的安全性は高いがパフォーマンスのプレッシャーは低いのがComfort Zoneと呼ばれ言い方を変えると少しぬるま湯の状態にあるというところです。
対して右下の心理的安全性は低いがパフォーマンスとプレッシャーが高いのはAnxiety Zoneで、チーム内がギスギスしていて辛い状況になっておりPanic Zoneとも呼ばれます。
そして、心理的安全性も高くパフォーマンスのプレッシャーも高い右上の状態がLearning Zoneと呼ばれも最も良い状態といえます。
このような領域の違いがある中で、個々人でどのように右上のZoneに向けて進めていくかは異なります。
そのため、クライアントと接する上では、クライアント自身の所属コミュニティにおける心理的安全性やパフォーマンスのプレッシャ-の状態をしっかり観察し、触れていくことが重要と感じています。
この辺りはコーチングに限らず、チームで働く上でも重要な観点となりますので、是非意識してみてください。
先ほどの話の中で、コーチングは、「ゼロからプラスに向けて支援していく」ことをお伝えしてきましたが、長くクライアントと関わっていると、若干カウンセリング領域に近いアプローチも必要となることがあります。
そのため、その人の抱えている勘定の奥底の部分をしっかりととくみ取りながら接していくことが必要で、今後はコーチングにおいても領域を分けないアプローチも求められてくると見ています。
社内におけるコーチングの実践例:感情の受容と内省で自主自立の風土へ
これからより具体的な事例として、私のチームの中でのコーチング的な関わり方の実践内容についてご紹介できればと思います。
私は新卒採用チームで複数名のチームリーダーをしておりますが、今回はメンバーの一人で20代の新卒3年目未満の方を例にとって取り上げられたらと思います。
この春先から半年間にわたって大きなプロジェクトのメイン担当してくれていたのですが、序盤からトラブルが連続していて数か月間高いプレッシャーの中で勤務をされていました。
どんな状態にあったかというと、自分の力量を超える仕事によって大きなプレッシャーがかかっていました。
そのうち、「何のためにやっているんだろう」と不安やイライラなども募っていた状態にありました。
弊社では、週1回30分間チームメンバーと定例の1on1ミーティングをする機会があるのですが、そこでそのネガティブな感情の起こる原因をしっかりと傾聴して受容していくことから始めました。
ここでティーチング的な、「あっそれはこういう風にやったらいいよ」っていうように上司の方が解決策を提示して、「なんで、これが出来ないの?こうやったらいいじゃん」といった関わり方をしてしまうと、当人にとって非常にプレッシャーがかかる状態になってしまいます。
まずは「心理的に安全で自分の思っていることを出しても問題ないよ」という場を作りながら、じっくりと内省の時間を確保してもらうようにしました。
その結果、メンバー自身もできることが増えてきて一つ一つタスクを進められるようになりました。
その後数カ月経つ中でもトラブルが生じることはあり、「どうして私できないんだろう」とネガティブになってしまうことももちろんあったようですが、内省を重ねていったことで起きている感情を冷静に切り分けられるようになったといいます。
そして、最終的に達成したいゴールや自身ができることを冷静に考えられるようになり、Next Actionをしっかりと立てて実践していくことが出来るようになったと伺っています。
この事例のように、内省を深めた上でNext Actionを立てられるようになっていく、そこにコーチング的な支援の在り方があるのではないかと感じています。
また、先ほどのメンバーの方からは私と1on1をしなくても、普段からコーチング的な考えができるようになったとも伺いました。
これはとても会社にとって有意義な事であると思っており、コーチングを導入することで自主自立の風土が芽生えるのではないかと考えております。
実際にサイボウズでは、現在外部のコーチング講座を導入することを試みており、継続的に学ぶ機会を設けています。
参加者の方からは、日々の生活や業務におけるメンバーとのコミュニケ―ションにも変化がでてきたと伺っており、今後の発展が楽しみです。
最後にまとめとなりますが、コーチングで感情面と行動面の両方からアプローチすることで、ビジネスパーソンの抱える心の問題に寄り添いながら、良質なパフォーマンスを実現ができると考えています。
また、会社組織、チーム内でコーチング的なコミュニケーションが増えていくことにより、自主自立・自走的な組織を作ることにも繋がると考えています。
私からは以上となります。ご清聴ありがとうございました。
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