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「良いコーチ」ではなく「良いマネージャー」を。ヤフー人事が語る、事業ミッションを達成するマネージャーの3つの共通点とは。

「1on1はコーチングを強く打ち出しすぎると危険です」

ヤフー社内での1on1浸透を指揮していた小向さんは、そう振り返ります。

そして、コーチングは手段であり、事業ミッションの達成をすることがマネージャーの役割だと強調します。

日本における1on1の先駆的な取り組みを引っ張った、ヤフーの人事である小向さんが考える、理想のマネージャー像とは?

ハイマネージャー主催「OKR/1on1/CFR勉強会#4」のレポートをお届けします。

小向 洋誌 さん
ヤフー株式会社コーポレートグループ
ピープル・デベロップメント統括本部
カンパニーPD本部 PD企画部

地元仙台にて起業と廃業を経験後、2005年ヤフー株式会社に入社。ショッピング、オークションの企画・営業業務を経て2012 年より人材開発・組織開発に携わり、「1on1ミーティング」を中心としたマネジメント手法を全社に展開し、現在は制度設計に関わる。また、副業として企業の組織開発活動の支援を行っている。

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「才能と情熱を解き放つ」

いつもは1on1の良い部分をお話しさせていただくことが多いんですけれども、今日は失敗したことだったり、会社に浸透させていく時に難しかったこともお話しできればと思っています。

今日のタイトルは「才能と情熱を解き放つ」です。

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これは、ヤフーの人事のコンセプトでもあります。

1on1の浸透の前に、マネージャーの役割は「仕事は部下の才能と情熱を解き放つこと」だと定義しました。僕がすごく好きな言葉なので、今日のテーマにしました。

28歳で廃業を経験

25歳の時に起業をしたんですけど、今思うと恥ずかしいくらいとても未熟な経営者で28歳で廃業しました。そして1000万くらい借金を抱えました…というのが、僕のバックグラウンドにあります。

そして28歳の時に入社したのが、ヤフーです。

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ヤフー株式会社 小向洋誌さん

よく学生から「なぜヤフーに入社したんですか?」と聞かれるんですが、「借金を返すため」としか言いようがないんですね。

(会場笑)

僕は根っからの商売人で、ビジネスが大好きで、入社当時はヤフオクとかネットショッピングを担当して、営業とか企画をやっていたんですけれども、

7年前に社内異動制度を使って、人事に異動しました。

その時すでに1on1をやるということは決まっていて、私が担当したのは「ヤフーで1on1をどうやって浸透させるか?」というところです。

これは悩みました。

「事業貢献するマネージャー」の3つの共通点

今日は、日ごろ管理職の方に「まずはこれを覚えてほしい」とお伝えしている内容をお話しいたします。

社内外のたくさんの管理職の方とお会いする機会が多いのですが、結果的に事業貢献しているマネージャーが「1on1で何を話しているか?」という共通項を私なりに分析した結果です

それで、結局はこの3つです。

「学習契約をしている」という話と「定期的に話す機会を持つ」というお話と、「鮮度の高いフィードバック」

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この3つが共通点でした。

「学習契約」によって「心理的安全性」が保たれる

まずは「学習契約」のお話をします。これは一言で言ってしまえば「コミュニケーションの濃淡をつける」ことです。その中で、「自分にとって重要なこと」の解像度を上げていきます。

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例えば、マネージャーが部下に「この半年間、僕はこれを頑張って欲しいけど、あなたは何を頑張っていきたい?」と問いかける。

部下が「プロジェクトマネジメントできるようになりたいです」と答えたら、「今は組織にもあなたにとっても覚えて欲しいことだから、それについては必死に頑張ろう」と契約を結ぶ。

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「学習の契約」をすると何が起きるか?というと、

いろいろと至らない点はあっても、「学習契約をしたことについては厳しく言おう」。そして、「部下ののために上司も勉強しよう」、と。

こういう濃淡がつきます。

3ヶ月経って、「時間がなくてあんまりできてなかったんです」と言われたら、そこに対しては叱咤激励をするわけです。

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周囲の人からすると、「あれ、あの部下に対してだけ厳しくしていないかな、大丈夫かな?」と思われるかもしれないですけれども、

そのマネージャーと部下の間では「学習契約」が成されているので、「あ、あの時言ったことを守ろうとして、厳しく言ってくれているんだ」という心理的安全性は保たれます。

「何かできることはある?」の一言が重要

つまり、「学習契約」をするときに具体的に1on1で問いかける内容はこの2つです。

「この1年で手に入れたい知識・経験・スキルはなんですか?」

そして、その次も大事です。
「そのために私ができる支援はありますか?」

この一言を入れる。

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MBO的な目標達成のために、「契約したからな。あとで絶対チェックするからな」ではなくて、

成長を支援するために「何かできることある?」とこの一言が入れられるかどうかが大事です。

目指すべきは「良いコーチ」ではなく「良いマネージャー」

このスライドにはティーチング・コーチング・フィードバックという管理職がやるべき3つのことを書いているんですけれども、

「コーチング」を強く打ち出しすぎるとうまくいかないと思っています。

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この3つのスキルは、相手の状況や熟達度、自分と相手の関係性に応じて使い分けなきゃいけないんですね。

例えば新卒1年目の人に対しての「なんでできなかったんだと思う?」というコーチングのアプローチは、問いかけている本人は気持ちいいかもしれないですけれども、相手からしたら「早く教えてください」というだけなんですよ。

なので、3つのスキルを使い分けないと、マネージャーとしての責務を果たせないということなんです。

我々は「良いコーチ」を育てたいわけじゃないんです。「良いマネージャー」を育てないといけない。

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なので、コーチングのプロになる必要は全くないんですね。

スキルとして「ティーチング」「コーチング」「フィードバック」を身につけて、「プロマネージャー」になって欲しいんです。しかし「コーチング」を強く押し出しすぎると、何でもかんでも問いかけて解決しようとする状態を作ってしまう。

ここについては思い当たるところがあり、反省しています。

1on1は「ロケットのブースター」と同じ役割

2つ目、定期的に話す機会を持つこと。これはその名の通り1on1をやっている、ということを指しています。

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あるメタファーを持ってきました。

ロケットが月に行こうとする時に、直線で行けたら一番効率が良いわけですよね。でも、ロケットって必ずズレるらしいんですよね。必ずズレる。

そして「ズレた」と察知したら、「ブースター」を作動させて軌道修正しているらしいんです。つまり、この「ブースター」の役割を、1on1が担っているわけですね。

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ロケットのズレに気づくのが遅れると、軌道修正するのが大変になってしまいます。

半年間なり1年間経ったあとに、「あなたに期待していたことはそこじゃなかったんだよね」と言われても、部下からしたら「だったらその時に言ってくださいよ」という話になるわけです。

「阿吽の呼吸」に甘えない。期待値は絶対にズレる。

必ず期待値はズレます。ズレると思っておいた方が良いと思います。

「ズレてないです。言わなくてもわかっています」というのは、阿吽の呼吸に甘えている状態だと思います。すなわち、再現性がないということです。

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自分と馬が合わないマネージャーや部下と当たったとたん、「阿吽の呼吸」ができなくなってしまうので、甘えずに言語化していくと。

週1でもいいですし、適した期間において、

「相手に期待していること」
「今は思ったよりできているのか?思ったよりできていないのか?」

を伝えてあげる機会を持つことが大切だと思います。

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ネガティブフィードバックほど、鮮度を高く

最後、鮮度の高いフィードバックの話ですけど

まず、ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックがあります。簡単に言うと、「気付いたらすぐ言おう」ということです。

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ポジティブフィードバックは、言った方も気持ちがいいし、言われた方も気持ちがいいから、鮮度高くすぐやるのですが、

ネガティブフィードバックを鮮度高くやる時には言う方はめちゃめちゃ緊張するし、ものすごいプレッシャーがかかるわけです。

でも、数か月後の評価面談の時に「そう言えば、あれできてなかったよ」と言われても、半分くらい忘れちゃっています。

ネガティブフィードバックであればあるほど、鮮度が高い方が効きやすいということです。

「I」メッセージと「You」メッセージ

具体的には、これをいいフィードバック、悪いフィードバックと呼んでいます。

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まず、「具体的な行動」について言わないと、良いフィードバックとは言えません。

「なんか最近、できてないよね」みたいな、曖昧なことを言われても、なんのことを言われているのかわからんと。

あとはこれが大事です。要所は「I」メッセージです。

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「I」メッセージ、「You」メッセージと言って、伝わりますか?…ちょっと僕の年代のお話をしちゃいますけど…(笑)。

当時の横綱・貴乃花が優勝した時に、首相の小泉さんがトロフィーを渡した映像を見たことある人はどれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

半分以上の方が挙げてくれていますね。あの時、首相が何と言ったか覚えていますか?

(参加者)「痛みに耐えて良く頑張った。感動した」

「感動した」って言ったのです。そして、次の日のどのスポーツ紙を見ても一面には「感動した」というコメントが踊りました。

「痛みに耐えて頑張ったね。あなたすごいね」は「You」メッセージです。頑張ったのは貴乃花なんです。

ただし、「感動した」のは小泉さん自身です。これが「I」メッセージなんです。

よく「年上の部下がやりにくい」という相談を受けるんですけど、僕もそのような経験があった時には、とにかく「I」メッセージで対応しました。

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「これをやってくれなくて、すごい残念でした」とか、「あなたならもっとできると思っている。僕は悔しいです」。こんな感じの言い方をする。

ただ、毎回毎回「I」メッセージをすると気持ち悪くなってしまうので(笑)。要所だけ「I」メッセージが良いです。

本当にうまくいったとき、本当に頑張った時とか、本当にこの人には言わなきゃいけないなという時には、「I」メッセージが使いやすいし、相手にも効きやすいです。

100点の人事施策はない。

1on1を導入すると、良いことばっかりありそうな感じが溢れすぎているなと思っています。

100点の人事施策はほぼないです。必ず良い側面と悪い側面があると思っておいた方がいいです。でも、先に予測がついていれば、対処が検討できます。

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1on1をやって良かったことは、まず社員に振り返る力、考える力がついたなぁと思っています。あとは、上司に対しても、横の仲間に対しても、部下に対しても、フィードバックする力がすごくついたなと思います。

わかりやすいのが、採用面接の時に、昔は興味本位で質問していたのが、相手の価値観を引き出してあげて、本質的な質問をする力がついたなと思います。

「リクエスト」する前に「ボトムアップ」をするな

それで、良くないこと。これ実は、今日一番覚えて欲しい単語なんですけれども、

「1on1おじさん」を生んでしまったんですね。

「1on1おじさん」です。わかりますか?(笑)

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振り返れば、私自身も「1on1おじさん」になっていました。

コーチングを初めて手にした時のあの感覚。

自分の質問によって、相手が価値観に気付きましたと。これが、気持ちがいいわけです。Outlookを見ると、もうテトリスみたいに1on1が入っているわけですよ。

(会場笑)

でも、マネージャーのミッションは、「事業目的を達成すること」にあるわけです。

部下育てや1on1が上手だけど、ミッションをクリアしていないというのは、ビジネスとしてはアウトなんです。

逆はまだ成り立ちます。「ミッションをクリアしているけど、部下育てが下手だよね」というのは、後からやろうと思えばいくらでもできます。

だが、先ほども申し上げた通り、コーチングを強く押し出しすぎるとうまくいかない。これは気をつけなければならないです。

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つまり、マネージャーの仕事は何なのか?という話なんです。

マネージャーが部下に「こういう役割を期待しています」とリクエストしていないのに、「あなたは何をやりたいんですか?」と聞いてボトムアップをするのは、マネージャーの仕事を放棄していると、僕は思っています。

なので僕がマネージャーに良く言うのは、組織や部下の状態をよく観察して、やるべき時には「トップダウン」をやってくれ、と。

最近はボトムアップが正しくて、トップダウンが悪という論調が目立つように思っています。働き方改革やハラスメント撲滅の影響もあるんだろうと思いますが、

どちらかが悪いと言うことでは全然なくて、自分の組織を眺めた上で、適切なことを適切な時にやりましょうということです。

今日は以上です。ありがとうございました。

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株式会社リンクトブレイン様のオフィスをお借りしました。会場提供頂き、ありがとうございました!

1on1の理解を深めたい方はこちら

1on1の「目的」から「具体的な手法」までの理解を深めることができるパーフェクトガイドです。

「メンバーに寄り添ったマネジメントがしたい」
「メンバーのモチベーションが下がっている」
「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」

という方の一助になれば幸いです!

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